第37話 ▶ラブレター事変
あらすじ:真津璃、からくりゲットの巻
「おいおい、マジかよ……」
俺は手にした紙束を見て呟いた。
ツクヨミ荘一階の廊下には、住人全員分のポストが並んでいる。大抵入っているのはどうでもいい連絡ばかりなのだが、この時だけは違った。
便箋が入っていたのだ。封筒も何もない、シンプルな紙の束。無作法だなと思いながら読んだところ、冒頭の唸りに繋がるわけだ。
「ううむ……」
書いてあったのは次の通り。
『キラタダヒト様
厳しい暑さが続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。突然のお手紙で失礼致します。この度は、貴方様にお伝えしたいことがあって筆を執らせていただきました。
手前堅苦しい前置きは苦手ですので、率直に申しあげます。貴方様が好きです。好きで好きで、近頃は夜も眠れません。
そこでお願いです。明日の授業終了後、校舎の屋上まで来ていただけないでしょうか。お待ちしております』
短絡的だと言わざるを得ない。今どきラブレターだなんて。
いや、色々と突っ込みたいところはある。まず桃神郷は男子校だ。加えて、次の一文。
『時間に来なかった場合、アビコマツリの命は無いと思え』
もはや脅しである。前半のラブレター調はなんだったんだ。
とはいえ、真津璃の命がかかっている以上行かない訳にもいかない。どうせしょうもない逆恨みだろう。恨まれるようなことをした記憶はないのだが……。
▶▶▶
翌日、要先生のやる気のない授業を乗り切り、放課後となった。各々帰る準備を始める中、俺はカバンを持ち足早に教室を出た。
「唯人、お昼ご飯食べないのか?」
後ろから真津璃が声をかけてくるが、用事があると言って振り切った。なんとなく一人で行った方がいい気がしたのだ。
八階建ての校舎を階段で上る馬鹿はいない。エレベーターを使って八階までショートカット、屋上に続く階段を上っていく。
屋上というと、うちの高校では固く施錠されていたはずだが、目の前の扉にその類いのものは見られなかった。この学校ならむしろ『決闘』のフィールドとして使うくらいのことはするかもしれない。
果たして、扉を開けると中央に男がいた。めちゃくちゃ怒っている。
「や、やっと来やがったか……唯人ぉ」
「……誰だあんた」
そんな因縁の再会みたいな感じを出されても困る。
中肉中背、これといった特徴のない普通の高校生。
「なんだその今一つ的を射ない顔はっ。俺はなあ、唯人。三日間ずっとお前が来るのを待っていたんだぞ!」
「いや、だからあんた誰……って三日間?」
俺が例の果たし状を受け取ったのは昨日のこと。だが、あの時はたまたまポストを開けただけで、毎日中身をチェックしているのかというと……。
「……もしかして、あの手紙三日前から入ってた?」
「三日前に入れていた! ちくしょう、俺のこと馬鹿にしやがって!」
ああ、うん。その件に関しては本当に申し訳ない。ポストを確認していなかったのは俺の落ち度だ。
でもさあ!
「あんた、あの手紙に日付書いてなかったじゃねえか。それを抜きにしたって、毎日こんなところで待ち続けるとかどうかしてるぜ」
「うるさい! お前がちゃんとポストを見ていたらよかったんだっ」
そう、問題はそこだ。
「そもそも、なんだってあんなまどろっこしい真似をしたんだよ。というか、あんたは誰だ。これで三回目だぞ」
「ふん……わからないのか。俺の名は天地白夜。元Dランク最強の男だ!」
だからさ、そんな思い出しただろう、みたいな顔をされても困る。天地なんて名前聞いたことも……。
いや、あったかもしれない。
「あんた、もしかしてあれか。真津璃がAからDに降格したことでCランクに繰りあがったっていう」
「いかにも。あやつがDに落ちてきたせいで、俺のDランク最強生活は秒で終わりを告げた。あいつさえいなければ、俺は底辺の頂点。イージーモードを送るはずだったんだよ!」
めちゃくちゃな言い分である。要は、自分の計画をつぶした真津璃が許せないと。
「……で、なんで俺を呼んだんだよ」
「ああ。聞くところによると、お前は真津璃とよくつるんでいるらしいな。それに、本来俺がいるはずだった201号室の住人ときた。これはもう役満だ。お前は真津璃に代わって、俺に慰謝料を払う義務がある!」
久しぶりにヤベェやつが来たな。正直、こいつの思考回路はいまだに理解できないが、そういうことなら話は早い。
備然戦の一幕がまだ尾を引いているのか、ここのところ闘ってくれる相手がほとんどいなかったのだ。
「キビダンゴならいくらでもくれてやる。ただし、俺に『決闘』で勝てたらの話だがな!」
「ふぅん、いい心がけだ。よかろう、相手になってやる」
お前から言い出したんじゃねえか。その格好いいポーズをやめろ。
くそっ、調子狂うな。
天地に案内されたのは、屋上の真ん中に広がる『力』のフィールド。やつと向かい合うように定位置につく。
ちなみに、審判はモニター越しで見ている月尊ちゃん。これは負けられねえな。
「はーい、賭け代はキビダンゴ5枚! それでは二人とも正々堂々頑張ってくださーいっ」
緊張感の欠片もない掛け声とともに試合開始。俺は即座に距離を詰めて先手必勝を図る。やつが微動だにしないのが不穏だが、まずは一太刀。
ボコォ
「あふん」
天地の横っ腹に模造刀が食い込み、そのまま転がって場外へ。格好よく居合を決めようとして盛大に失敗したのだろう。
ともあれ。
「勝者、吉良唯人さん! キビダンゴ5枚獲得ですっ」
場外に出したので勝ちは勝ちだ。正直、まったく嬉しくないけれども。
「く、くそっ……俺はやはりDランクの頂点ではなく、Cランクの底辺だったのかっ」
「……おい」
勝負には負けたが、こいつはDランクトップを誇るポテンシャルがあったのだ。きっと本来の力はもっと強いに違いない。根拠はない。ただ、このまま放って帰るのは少しばかり寝覚めが悪い。
「まあ、その。なんだ──」
「吉良唯人! 今回は俺の負けだが、次こそはお前の太刀をへし折ってくれる。それまではせいぜい底辺の頂点にしがみついていろ。……いいか、俺は必ずDランクに戻る。次に闘うのはその時だ。いいな!」
びしっ、と俺を指さしキメ顔のCランク。
それでいいのか天地白夜。
▶▶▶
屋上を去り、階段を下りていると真津璃がいた。内心けっこう驚いたのだが、ポーカーフェイスを装って訊いてみる。
「いつから見てた」
「最初からよ。あんたの後を追ってみると、屋上に行くもんだから、びっくりしたわよ」
「告白でもされるのかと思ったのか?」
「馬鹿」
階段を横並びで下りながら、真津璃はポツリと呟く。
「あんた、最後あいつに手を伸ばそうとしたでしょ。いや、いいのよ。本当なら私が出ていくところだったんだから。……でも、どうしてあんなことができたの?」
シリアスな表情で、何を言うのかと思ったら。
「当たり前だろ。あいつは実力を隠しているだけで、本当はもっと強いんだ。だって、元Dランクのトップだったんだぜ? 弱いはずがねえだろ」
「わからないわね。さっきの刀捌きからしても、私にはあんたの方が何倍も強く見えた。どうしてそんなにあの男の肩を持つの?」
「なんだ真津璃、嫉妬か?」
「ボコす」
わかってるよ、暴力反対。
なぜCランク底辺のあいつを擁護するのかだって? 決まっている。
「だって、そうでないと、あいつ以下のDランクがあまりにも浮かばれないだろ」
「う、うーん……確かに?」
真津璃は釈然としない様子で首を傾けた。
以前名前だけ登場したCランク底辺、天地の登場回でした。当初は真津璃が乱入して説教するというシナリオだったのですが冗長なのでやめました。




