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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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第30話 ▶混浴、やむを得ず。

 あらすじ:男装少女と風呂へ行こう!

 とりあえずクローゼットの中から着替えを二セットずつ取り出す。

 温泉旅館でよく見るような寝間着とふかふかのバスタオル・ハンドタオル、下着。それらを小脇に抱えて俺たちは部屋を出た。記憶が確かなら浴場は寮の隣に併設されているはずだ。


 外付けの階段をキイキイ言わせながら下りていると、ちょうど向かいから見覚えのある小男が上ってくる。やつは俺と目が合うやいなや、縮こまるようにして深々と頭を下げた。

「さ、先ほどはどうも……」

 知り合いか? と真津璃は不思議そうな顔をする。


「あー、うん。わかるぞ。お前、あの時のやつだな」

 オラオラ言ってた野郎に絡まれてたチビスケだ。暗くてよく見えなかったが、短めの髪はしっとりと湿気を含んでいる。

「えらくサッパリしてんじゃねえか。風呂あがりか?」

「は、はい。みんなもう入っちゃった後だったみたいで、広い浴槽に僕一人でした」

 貸し切り状態かよ。やっぱみんなもう切り上げてたんだな。月尊(つきみ)ちゃんの手作りご飯も食べなきゃだし、こりゃ急いだほうがよさそうだな。


 なんてことを呑気に考えていると、真津璃が血相を変えて俺の肩をグラグラと揺らす。

「た、唯人っ。僕たちも急いで向かおう!」

「わかった、わかったから手を放せ」

 なんだってんだ、こいつ。さっきまで風呂は嫌だっつってたのに今度は早くしろって。

 まあいいや。のんびりしているうちに店じまいになっても困る。チビスケと別れて隣の浴場を急いだ。


「着いたぞ、ここだ。まだやってるみたいで助かった」

「番台どころか監視員すらいないとは、いかがなものかと思うぞ」

「文句言うなよ。ほら、ランドリーもあるしよかったじゃんか」

「浴場というより銭湯……いや、湯屋って感じの内装だがな」

 いちいち面倒なやつだ。

 男と書かれたのれんをくぐり、脱衣所へ。ここでも真津璃の面倒くささが発揮される。


「いいか。絶対に。ぜっっっったいに振り返るなよ。僕は唯人を信じてるからな」

「わーったよ。どんだけ恥ずかしいんだ、美少年様よぉ」

 俺は雑に返しながらシャツのボタンを外す。最近は男同士でも見られるのは嫌っていうやつが多いとは聞いていたが、真津璃の野郎もそうだったとはな。

 まあ、納得はできる。シモの話を振った時は明らかに嫌悪していたし、元々そういうことを人前でするのが嫌いなんだろう。顔がいいから経験豊富だと思っていたが、意外と奥手なのかもしれない。

 ふふふ、そういう話は今日寝る前にじっくり訊いてやろう。修学旅行の晩みたいなテンションでお届けだ。


 下着をカゴの中に放り投げて、念のため声を張る。

「もう脱いだだろ、振り返っていいか?」

「ダメ」

 ダメなのかよ。布の擦れる音が止まったから脱衣は済んでいるだろうに。

「まさか、この状態で中まで行くのか?」

「当たり前だろ。いいか、途中一瞬でも振り返ったら殺すからな」

 おいおい、どうした。今日は一段と言葉の切れ味が鋭いぞ。風呂ってもっとこう、楽しむところじゃないのか。


 とはいえ、やつの本気さは背中越しでもビリビリと伝わったので、ここは大人しく従っておく。

 中へは真津璃が先に入り、俺は後から背中を向けて入室という徹底具合。もちろん振り返る勇気など無かった。


「ふう……」

 腰掛けに座ってようやく一息。ボデイーソープを泡立てて、今日一日の垢を洗い落とす。なんか落ち着かねえなあ。


 後方からはザァーッとシャワーの音が反響して聞こえる。真津璃も身体を洗っているのだろう。

 その時、俺の中の悪魔がささやいた。

『今ならちょっとだけ振り返っても大丈夫なんじゃないか?』


 いや、ダメだろ。本人がここまで嫌がっているのには相応の理由があるはず。それに、真津璃は俺を信頼していると言っていた。その信頼を裏切ってもいいのか? 天使側の俺がそう正論をかました。

 ムワッとする熱気に包まれながら、俺は手にボディーソープを継ぎ足す。


 古傷を見られたくない……みたいなニュアンスではなかったよな。どちらかというと、バレたくない秘密がある! みたいな感じだった。まるで何か、大事なことを隠しているような……。

『めっちゃ気になる!』


 天使は死んだ。

 大丈夫、ほんの一瞬振り向いてすぐ戻る。バッバッ、のタイミングに合わせて顔を高速移動するだけだ。そうと決まれば即実行。俺は深く息をして、首を回転。

 バッバッ。


 作戦終了。見えたのは真津璃の背中だけ。だが、なんだこの違和感は。脳裏に焼きつく、玉のように白い肌。あいつの服って肌の露出が少ないから目に触れる機会が少なかったが。

 それにしたって、どうしてあんなに艶っぽく見えたんだ。

 あの丸みを帯びた曲線。振り返ることの禁止。


 ……いやいや、無い。そんなわけがないだろう。真津璃が実は女の子だったなんて……。

「ひぁっ!」

 短い嬌声が後方であがる。と、椅子を弾き飛ばすような激しい音……。


「真津璃!」

 考えるより先に身体が動いていた。どうした、大丈夫か、と口を開こうとしたところで、俺の頭は思考することを放棄した。

「……」

「あ、あ……」


 思った通り、真津璃は椅子を蹴飛ばし立ちあがっていた。予想外だったのはやつの足が湯船の方を向いていたこと。

 そして、男に無いものが付いていたということ。まどろっこしいから端的に言ってしまうと、我孫子真津璃は女の子だった。


「……真津璃、さん?」

角度的に下はかろうじて見えなかったが、胸の方は丸見えだ。

 すぐに手で隠してしまったが、そんな隠すほどの大きさもねえだろ。と、言いつつもピンと張った小ぶりのおっぱいは俺の脳裏を離れなかった。


「ああああああっ、ああああ!」

 声にならない絶叫をあげながらやつは俺の手を掴むと、湯船の中に引きずり込みやがった。飛び込みでもしたかのように……いや、実際その通りなのだが、盛大に水しぶきが湯船から打ちあげられる。おい、俺まだ身体流してねえぞ。つか溺れる、マジで。

 

 俺は顔の水滴を払いながら、色々突っ込みたいのを我慢して、問う。

「ぷはっ……。な、なんのつもりだテメェっ」

「しっ! 誰か来る」

「だからなんだっ。共用なんだからそりゃ誰か来るだろうよ」

「馬鹿! これ以上話をややこしくするつもりなのっ? あんたは後から半ごろ……口封じすれば済むけど、他の連中に見られたら私は終わりなのよ!」

 もの凄い剣幕で叱られる。俺、なんか悪いことした? というか一人称変わってるし、口調もなんか素が出てるぞ。大丈夫か、お前。


「……まあ詳しいことは後からじっくり聞かせてもらうけどよ。結局俺は何をすればいいんだ」

「私が女だってバレないように匿え、唯人ぉ!」

 ふてぶてしいのは変わらねえな、安心したよ。

 真津璃の女の子バレはもっと早い段階でやっとくべきだったなあ、と反省。


 ところで、早いもので30話です。つまり、毎日投稿を初めてもうすぐひと月。そんな記念?の回にこんなもんぶち込んでしまったことにちょっと後悔しています。

 いつまで続くんでしょうね、これ(ひとごと)

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