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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
23/186

第23話 ▶最強は最先端を往く

 あらすじ:備然も雑学王?

 正解、だと?

 雑学王の猫丸はまだわかる。だが、備然のやつまでマンドリュートとかいう楽器を知っているとは……驚きを隠せない。

 それは猫丸も同感だったらしく。


「ほう、この問題まで解くとはのう。いやはや、ワシは少々あんたを見くびっていたようじゃ」

 賞賛の言葉を備然に送る。この状況下でよく相手を褒めていられるな。当人はイヤホンを触っているせいで、たぶん聞こえていない。


 と思いきや、備然は目を閉じたまま先を促す。

「御託はいい。マドモアゼル、次の問題を頼む」

『はいは〜い、ではお互い王手で臨む第三問! いちおう言うとくけど、ここでどっちも正解やった時は引き分けや。賭けたキビダンゴは持ち主に返還されるで』


 正直、ここまで『決闘』が拮抗するとは思わなかった。猫丸の得意分野である、雑学での闘い。完全アウェーな状況下でなお、備然の野郎は引き分けに持ち込むってのか?

 真津璃は静かに呟いた。


「妙だ」

「妙って……何がだ? 備然の博識ぶりは確かにすげえけど、あいつ鬼狩りの一族なんだろ? 『智』対策として雑学を叩き込まれている可能性も」

「あり得ない。独守一族と桃神郷は犬猿の仲だ。恐らく、備然は一族にとって初めての挑戦者。前例がないんだ。対策の施しようなどない」

 うぐっ、そういえばゴーマンのやつがもそんなこと言ってたような。


「だったら、偶然……なんだろ」

 自信を持って言いきれない時点で、俺も疑念を抱いている。本当に備然は答えを知っていたのか? 馬鹿馬鹿しい、身勝手な考えが脳裏をよぎる。


『ほな行くで、第三問! ……おお、ここに来て早押し問題とはオツなもんやな。答えがわかったら手元のボタンを押してや〜』

 花歌さんが言葉を弾ませる。

 つまり、この一問で勝負が決まるわけだ。備然と猫丸の顔にも緊張が走る。……おい、備然。お前なに猫丸の方ガン見してんだ。


 花歌さんの薄い唇がゆっくりと開かれる。

『……童謡・桃太郎の歌詞は6番まで存在しますが、6番の歌詞において、冒頭で反──』

 ピンポンッ、と音がしたのは同時だった。おい、まだ花歌さん問題文読んでるぞ? 人の話は最後まで聞こうぜ。


 ボタンを押すタイミングはほぼ一緒だったが、点灯しているのは備然のランプだった。やつはイヤホンをいじくりながら、ふうっと息を吐き出す。

「……万々歳、万々歳」


 お前は何を言っているんだ、と思った次の瞬間、軽快な音が鳴る。解答席のランプが三つ揃った。

 備然の勝ちである。


『大正解や〜。童謡・桃太郎6番の歌詞において、冒頭で反復して登場する言葉はなんでしょう。で、答えは万々歳万々歳。も〜もたろさんももたろさん、のリズムやな』

 補足説明なんて耳に入らなかった。

 備然の勝ち。その単純すぎる事象だけが、繰り返し頭の中で響いていた。


「いやあ、参った! ワシも答えはわかっとったんじゃけどなあ。まさにタッチの差じゃ。うむ、悔しいのう!」

 張り詰めていた空気を吹き飛ばすように、猫丸は思いっきり伸びをしている。

 悔しそうだ。悔しそうなのに、その表情は何より爽やかだった。負けた側の方がいい顔してるってどういうことだよ。

 なあ、備然?


 やつはワイヤレスイヤホンを取り外すと、無気力そうな顔で解答席から立ちあがる。

「……『決闘』に応じてくれたこと、感謝する。お陰でいいデータが取れた」

「んん? よーわからんが、役に立てたんならワシも嬉しいぞ! ほら、約束のもんじゃ」

 猫丸は朗らかに笑うと、腰元の巾着袋から3枚のキビダンゴを取り出し、備然に手渡した。

 野郎、データが云々言ってたが何の話をしているんだ。


 貰うものは貰ったと言わんばかりに翻る備然に対し、ここまで無言だった真津璃が突如言葉を発する。

「からくりなんだろう、さっきのイヤホン」

 ピタリ、と備然の動きが止まる。俺はなんの捻りもない、お決まりの台詞を言うしかなかった。


「どういうことだよ、真津璃」

「確証は無い。だが、それを裏づける不審な動きがあった」

 真津璃は二人の元に向かって歩きだす。猫丸はまだ状況を呑み込めておらず、備然はわずかに口角をあげた。


「聞かせてもらおうか、キミの組み立てた推理を」

「無論、そのつもりだ。……一つ、イヤホンを出したタイミング。それまでは付けていなかったのに、『決闘』が始まった途端、あんたはイヤホンを身に付けた。これから闘うという時に音楽だと? 極めて不自然だ」

 二つ、と真津璃は指を二本立てる。


「解答のタイミングだ。書き取り形式の前二問、備然(あんた)はいずれも猫丸さんの書いた後にペンを執っていた」

「なるほど、なるほど。……で、だからなんだ? 私が後手に回ることがそんなに怪しいのか。それに、早押しの第三問はどう説明する。私の方が先にボタンを押したが、あれも後手だったと?」


 思わず俺が息を呑んでしまう。備然の野郎、的確に手痛いところを突いてきやがるな。

 だが、真津璃も負けじと応戦する。

「僕は何もあんたを責めてるわけじゃない。むしろ感心してるんだ。心の声を盗み聴きするイヤホン……そんなからくりを、よく手に入れられたもんだ」

「心の声だと? 真津璃、お前本気で言ってんのか」

「本気だ。人は問いかけの答えがわかった時、無意識的にだがそれを心の中で反芻する。もし、その声を傍受できるアイテムがあれば? 備然の取っていた行動にも説明がつく」

 ほう、と備然は先を促す。


「先の二問はシンプルだ。猫丸さんが心の中で呟いた答えを、そのまま自分も書けばいいのだから。三問目の早押しだが、猫丸さんは答えはわかっていたと言っていた。事実、確信していたのだろう。だが、それを心の中で呟いてしまった」

 おい、待てよ。だったら……。


「備然は、答えがわかっていないくせにボタンを押したのかっ?」

「恐らくな。解答権を得て、少し時間に猶予ができたところで猫丸さんの答えを盗み聴く。相手が雑学王だからこそ成立したトリックだ」

 ううん、頭が痛くなってきた。要するに備然は答えをカンニングしてたわけだろ? そんなことが許されるのか。


 くつくつと品のいい笑い声があがる。その主は、意外にも静観を極め込んでいた花歌さん。

『ええんよ、備然はん。『決闘』でからくりを使うのがダメやなんてうちらは一言も言うとらん。むしろ、推奨したいくらいや。隠さんでええさかい全部言うてまい』

「承知した、マドモアゼル」


 それでいいのか、お前。備然は改めてこちらに向き直ると、胸ポケットから再びワイヤレスイヤホンを取り出した。

「こいつは『第三の目(サードアイ)』。心の中で強く念じた単語を傍受できる、からくりだ」

 次回で備然vs猫丸はひと段落つきます。

 そして、からくりの力を目にした唯人と真津璃は……?

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