第22話 ▶雑学王の聖地
あらすじ:備然vs猫丸を見学しよう
絶対的な隔たりだと?
そんなものはまやかしだ。盛者必衰、いつまでも最強でいられると思うなよ。
キョロキョロと猫丸は辺りを見回す。
「しっかし、『決闘』すると言っても、ワシらはどうすりゃいいんじゃ? 船の時みたいに司会のおねーちゃんもおらんし」
彼がそう口走った矢先、部屋の上部に掛けられたモニターが突然起動した。めちゃくちゃビビった。
呪いのビデオでも始まるのかと思ったら、画面にタレ目の着物美女、花歌さんが現れる。花の髪留めと目元の泣きぼくろが実に素敵な女性だ。
じっくりとそちらを見ていると、真津璃に横っ腹を殴られた。なんで?
『は〜い、呼ばれて飛び出て花歌さんどすえ。今回の司会進行はうちが務めますさかい、よろしゅうな〜』
ううむ、相変わらず眠気を催すマイペースさだ。花歌さんはひらひらと手を振っている。
しかし、こうタイミングよくモニターが起動するとなると、やっぱりどこかに監視カメラやセンサーの類いがあるのか? さっき真津璃と話していたことを思い出す。ざっと見た限りその手のものは見られない。
と、なると……からくりの線が真実味を帯びてきた気がする。
『ほな、二人は回答席に着いて、まずはキビダンゴの賭け枚数を決めよか。何枚にする?』
言われた通り、二人はクイズ番組風の席に腰を下ろした。
備然は至って淡白な調子で猫丸に問う。
「キミはどうしたい」
「ぬう、そうじゃのう。とりあえず3枚でどうじゃ。いや、すまん。これが初戦なもんだからイマイチ勝手がわからんのじゃ」
がりがりと頭を掻く猫丸に対し、備然はゆっくり頭を下げる。
「構わない、それは私も同じことだからな。では、3枚でいこう」
と言って巾着袋から猫丸はキビダンゴを取り出した。
お互いこれが初戦であるなら、慎重に行きたいのが本音だろう。どこぞのアホと違っていきなり全賭けなんて真似はしなかったしな。
備然はちらりとモニターに目を向ける。
「そういうことだ、マドモアゼル」
マド……なんだって?
突然飛び出した聞き慣れない単語に、俺と真津璃は揃って備然の方を見る。文句のつけようがないほどの完璧なお辞儀をやつはしていた。いきなりどうしたんだ、この黒コート野郎。
そして、察した。
『嫌やわあ、備然はんってばいけずなんやから。うち、そんな風にされたん初めてやから、ふふ、かなんわあ』
備然の野郎、要先生に訊かれた時、年上の女性がタイプとか船で言っていた。包容力のある女性だった気もするが、まあどっちでもいい。
意外と抜け目ねえ野郎だな、とか考えていると、真津璃がまた妙なことを呟いた。
「……あの女、相当男の扱いに慣れているな」
「ああ? よく見ろよ、めちゃくちゃ照れてんじゃねえか。むしろ真逆だろ。くっそ、可愛いなあ」
真津璃は呆れたように首を振る。なんだってんだ。
こほん、と花歌さんは可愛らしく咳払いをする。
『はいはい、ほんなら話戻すで。賭け代はキビダンゴ3枚。問題形式はランダムで、先に3問正解した方の勝ちや。お手付きはその回の回答権を奪われるから注意しいよ。ほな、特に待ったがないようなら、モニター越しで悪いけど問題出してくで』
「私は一向に構わない」
「うへへ。Aランク最強のお手並み、拝見といこうか!」
両者、異論なし。花歌さんは満足げに、くじ引きの箱から一枚を抜き取る。
さて、色々あったがついに開戦だ。備然にとってアウェーな戦場での『決闘』だが……どうなる?
画面の向こうの花歌さんは、長い髪を後ろに流すと、艶っぽく紙面を読み始めた。
『第一問、答えをお書きください。哺乳類最大の動物はシロナガスクジラ……ですが、では哺乳類最小の動物はなんでしょう?』
初っ端からずいぶんマニアックな問題だな。ううむ、エキシビションの時みたいに鬼の知識を問うたりしないのか。
あ、俺はもう全然わかんないっす。端から解く気もないですので、ええ。
二人は手元のタブレット一直線……かと思いきや、備然は呑気にもコートの胸ポケットからイヤホンを取り出し始めた。それを耳に付ける。
よく見るとコード要らずのワイヤレスタイプだ。見かけによらず現代っ子なんだな。
「よしっ、これで合ってるはずじゃ!」
「……、……。こちらも書き終わったぞ」
この手のジャンルは十八番であろう猫丸はさらさらと書きあげ、その後ろを追うように備然も筆を止める。
『どっちも書けたみたいやな? ほな、正解発表と行こか。正解はキティブタバナコウモリとかいう3センチくらいのコウモリや。うち、よー名前噛まんと言えた思わん?』
いや、知らねえよ。
二人の結果はどちらも正解。雑学王猫丸はさておき、備然のやつ、よくこんなことまで知ってたな。両者の解答席にランプが一つずつ点る。
『やるなあ、二人とも。……続けて第二問、答えをお書きください。17世紀イタリア発祥の撥弦楽器、マンドリンですが、音域が広いためにソロで用いられることが多いマンドリン属はなんでしょう?』
おい、やっぱり何かおかしいぞ。出題範囲がどう考えても広すぎる。そもそも、マンドリンってなんだよ。マンドリルの親戚か何かか?
備然の手が動いていないのを見て、猫丸は意気揚々と口走る。
「驚いたじゃろ? このフィールドではな、雑学の問題が出題されやすいんじゃ。アンフェアと思うかもしれんが、こうでもせんとあんたにゃ勝てんからな」
ちょっと待て、なぜあの男は出題傾向なんて知っているんだ。どこかに書かれていた? いや、そんな文面は見られなかった。
備然の手はまだ動かない。
「戦闘面では言わずもがなじゃが、純然たる『智』で闘っても、もしかしたら、ということがある。だからワシはこの場所を選んだんじゃ。手前の全力を出せる、この雑学フィールドにのう! 喰らえ、これがワシの答えじゃ!」
カッカッ、と殴るようにペンを走らせる猫丸。タネはいまだわからないが、これはフィールドを相手に選ばせた備然のミスだろう。
やつもようやくペンを手にしたが、当てずっぽうで正解できる問題ではない。
そう思っていた。
『ほな、正解発表いくで〜。正解は、マンドリュート!』
花歌さんの声と同時に解答席にランプが点る。
……両者の席に、点っていた。
スペシャルサンクス:雑学王グーグル先生




