第21話 ▶勝者になるために
あらすじ:からくりは安くなかった
結局、取り引きは破綻になった。もっと安いのもある、だの、店に戻ればもっといいのがある、だの言ってたが無視した。
「キビダンゴ5枚に負けてくれないっすか?」
「無理じゃな」
かたくなに、値切りに応じてくれなかったからである。
真津璃は短くため息をついた。
「単なる逆恨みじゃないか。向こうも商売でやってるんだ、仕方ないだろ」
「わーってるよ。ちくしょう、ガキを諭すみたいに言いやがって」
「諭すみたいに言ってんだけどね。……ああ、わかっている。欲しかったんだろう、例の乾電池が」
「むきーっ! ちょっと顔がいいからって大人ぶりやがって」
だが、実際あのからくりは欲しかった。武器を持って『決闘』に臨めるのであれば、その有無は大きな力量差を生む。
素手で勝てなくても道具を使えば……と言うとチンピラの代名詞みたいだが、それは決して間違いじゃない。
惨めでも、カッコ悪くても、勝たなきゃいけないんだ。そのためにも、まずは景気よく武器を手に入れて……。
「どうしたんだよ、真津璃。急に黙り込みやがって」
「いや、大したことではないんだ。ただ、さっきの件のタネがわかった気がして」
真津璃は顎に手をあてがった。
「さっきの件って?」
「ツクヨミ荘で見た忍者だよ。なぜ、寮の一室で起きたであろう不正があっさりバレたのか。本人も監視カメラの類いは気にかけていただろうに」
そういえば、そんな謎もあったな。あの時は結局わからずじまいだったけれども。
真津璃は少し不安げにこちらを見る。
「これは僕の仮説だけど……からくりがあったんじゃないか? センサーみたいになっていて、不正が発覚すると忍者軍団に通報される、的な」
ああ、と俺は感嘆の声を漏らす。突飛な話ではあるが、乾電池型のスタンガンを見た後では常識なんて何の慰めにもならない。
「ありうるな。あの時、月尊ちゃんが仕組みをボカした理由も今ならわかる気がする。からくりの存在を隠していたんだ。恐らく、要先生も……」
それは船上で話題にあがった、鬼との因縁があるか否かを見分ける方法。あの時、要先生は何かしらのからくりがあると……って、そのまんまじゃねえか!
謎が解けたというのに、真津璃の顔は浮かない。
「まだ何かあるのか?」
「あ、いや。もし自分の部屋にカメラがあったら嫌だなあって。プライベート筒抜けだろ?」
ははあ、ドギマギの理由はこれか。
「気持ちはわかるぜ。四六時中見られてると思ったら、おちおち処理もできねえや」
「しょ、処理?」
「筋金入りのムッツリだな、お前。決まってるだろ。シモの処理だよ」
ハッと真津璃は口を開くと、跳ねるように俺との間に距離を置きやがった。
「ば、馬鹿か。そういう品のないことを躊躇なく口にするなっ」
ぶんぶんと頭を振る真津璃。あまりこの手の話には慣れていないのか? 美少年のくせに、とんだ純真ボーイがいたもんだ。
やれやれと、心の中で呟いていると、ふと数メートル先の建物が目に入った。大きさはざっとコンビニくらいで、一面白のそれには窓が見当たらない。かなり異様な雰囲気だ。
「気になるのか、唯人?」
「ああ。こういう建物って、たぶん『決闘』で使うフィールドだろ? 中の構造を知っていても悪くないかなって」
「賛成だ。フィールドごとに特性があると言っていたし、それを知る意味でも入ってみるべきだろう」
よし。真津璃からの許可も貰ったことだし、さっそく見学といきますか。
建物の周りをぐるぐるしたのち、ようやく一枚のアルミ扉を発見。ドアノブを引いていざ中へ。
──話し合う声がする。
「ワシは嬉しいぞ! あんたのような強者から声をかけてくれるなんてな」
「なに、少し試したいものがあるのだ。相手として不足はない」
二人の、男の声。
「……っ!」
息を呑んだ。
外壁と同じ、真っ白い空間の中央には二つの席が設けられていた。船で見た、クイズ番組風の回答席である。きっとここは『智』のフィールドなのだろうけど、そんなことはどういい。
「でも、本当にいいのか? ワシが『決闘』方法を選んでしまって。このフィールドで闘うとなると、あんた、ちょいとばかししんどい思いをするかもしれんぞ?」
「構わん。むしろ、私にとってはその方が好都合だ」
そうかい、と屈託なく笑う糸目の男。
その向かい。
丈の長い黒コートに身を包む長身の男。後ろ姿でもわかる、独守備然が立っていた。
横目で真津璃をうかがうも、意外とやつは平気そうな顔をしている。いかんいかん。俺もクールにいかないとな。
備前の野郎から視線を外し、もう一人の男に目を戻す。こいつにも見覚えがあった。
「おい、真津璃。備然の前にいる男って……」
「明石猫丸と言ったかな。『智』のエキシビションで闘っていた男だ」
やはりそうか。
襟付きシャツの爽やか君、確か天才小学生とかいうガキの相手をしてたっけ。『智』のトップ格が備然とドンパチするってのか?
こちらの存在に気づいたらしい、猫丸が気さくに手を振ってきた。
「よう、見学者か? よかったら一戦観てってくれ……って、おお! 船の時の二人じゃないか!」
ういっす、と軽く頭を下げる。ヤンキー君にしても、よくみんな覚えてんな。すげえよ。
こちらに振り返った黒コート野郎は、真津璃の方を見て笑った。
「聞いたぞ、我孫子真津璃。キミは自分の意思でDランクに籍を移したそうじゃないか」
「……ああ、そうだ。これは驕っていた自分への戒め。そして、ここからあんたに追いつくための布石だ」
「布石とは、面白い表現をする。私はてっきり、手前の死に場所を見つけたのかと思ったのだがな」
ぐっ、と真津璃の内なる炎が猛るのを感じる。しかし、動かない。拳を握って、歯を食いしばり、かろうじてやつは自らの理性を抑え込んでいる。
「唯人」
真津璃は備然を見据えたまま、地鳴りような声で言う。
「僕は勝つためにDランクに来た。自分の限界を知ったからでも、死に場所を見つけたからでもない」
「当たり前だ」
知っているとも。
今はまだ適わねえかもしれないが、俺は……俺たちは備然に勝つ。絶対だ。
「うへへ。備然よお、文句なしのギャラリーじゃのう。ワクワクしてきたぞっ」
「ふん。いい機会だ。キミたちにもこの『決闘』を見届けてもらおう。そして、思い知るのだ。勝つ者と負ける者との間に存在する、絶対的な隔たりをな」
ついついページ数が間延びしてしまう悪い癖です。本当ならもっとテンポよく進めたいのですが……勢いって難しい




