第24話 ▶第三の目(サードアイ)
あらすじ:備然、からくりを持っていた
「サード、アイ……」
俺と真津璃がほぼ同時に声を漏らす。まさか本当にからくりが暗躍していたとは。
だが、冷静に考えるとあのイヤホンが備然の私物である訳がない。もしそうなら、処遇は俺のスマホと同じ。乗船の際に没収されているはずなのだ。
すっかり置いてけぼりの猫丸は、備然と花歌さんを交互に見る。
「えーっと。ようわからんが、何か凄い力が働いていたのか?」
「カンニングだよ! 猫丸、お前は備然にイカサマをされてたんだ」
こんなの絶対におかしい。実力では猫丸の圧勝だった、考えるまでもない。そうだろう。
ちゃうちゃう、とモニターの向こうの花歌さんにやんわり否定される。
『せやから、唯人はん。これは仁義なき『決闘』なんや。武器を利用しない理由がどこにあるやろ?』
ぬう、そう言われると何も言い返せない。かく言う俺だって、さっき『バリ乾電池』を欲しがっていたわけで……ああ、くそっ。自分の甘さが嫌になる。
概ねの事情を把握したのか、それでもなお猫丸はいつもの調子で笑った。
「なんだ、そういうことじゃったか! いやはや。むしろそれを聞いて安心した。ワシはてっきり自分の強みを正面突破されたのかと思ったぞ。雑学だけは自信があったからのう」
その表情からうかがえるのは、心からの安堵。陽気な顔して、負けた時は結構凹んでいたのかもしれない。
それにしたって大したやつだ。どんな形であれ、全力を出した上で負けるのは悔しいだろうに。
話を戻そう。
俺はイヤホンを持つ備然に向かって、訊く。
「そのからくり、マスターから買ったんだろ」
マスターは言っていた。俺たちのことを、お客さん第二号と。二号がいるなら当然一号もいる。
では、その第一号とは?
言うまでも無い。
「……いかにも。私はからくりマスターなる老人から、この『第三の目』を買いあげた。まさに即決。からくりが『決闘』に与える影響は、目にした瞬間察したからな」
備然の言うことはもっともだ。からくりってやつの存在は、この『決闘』においてとてつもないインフレーションを引き起こす。
だからこそ、訊いておかねばなるまい。
「おい備然。ちなみに、そのからくりはキビダンゴいくつと交換したんだ?」
とても大事なことだ。相手を麻痺させる『バリ乾電池』は50枚相当だった。とてもじゃないが、今日明日で手に入る代物じゃない。
すると、さっきまで無表情だった備然の顔がわずかに強ばった。ポーカーフェイスの歪みは刹那。しかし、これで一つ謎が解けた。
「……教えるわけないだろう」
後ろめたい取り引きがあったのだ。それも、買い物ではない方法で。
この『決闘』が始まる際、備然は躊躇なくキビダンゴを3枚を提示していたし、賭け枚数を猫丸に決めさせたのもやつ自身だ。
通貨以外でもからくりは買える。肝心の手段こそまだわからないが、頭の片隅にでも置いていた方が良さそうだ。
フウ、と備然はため息をつく。
「もういいだろう。私も暇ではないんだ、この調子でキビダンゴを集めないといけないのでね」
真津璃の横を通り抜け、備然は颯爽とその場を去る……たった一度立ち止まって。
「マドモアゼル」
『ん、んん? どうしたんや、備然はん』
突然指名されて困惑気味の花歌さん。なかなかレアな絵だ。
モニター越しの彼女に向けて、備然の野郎はあっけらかんと言う。
「好きな食べ物はなんだろうか? いや、口に出す必要は無い。心の中で思ってもらえれば、こちらで手を打つ」
「おい、備然」
やつは悠然とイヤホンの位置を調整している。すまし顔で何やってんだ、テメェ。ごく自然な流れで人の心を読もうとするな。
「なるほど、そういう使い方もできるんじゃな!」
「グチャグチャになればいいのに」
猫丸と真津璃からも講評が届く。真津璃さん、目が怖いです。怖いですよ、目え。
心を読まれた本人である花歌さんは、眉一つ動かさず首を傾げる。
『ん? 今、心の中で念じとるつもりねんけどな。どうしたんや、備然はん。もしかして聴こえとらん?』
「ああ、まったく聴こえない。ちなみに、何と?」
『トムヤムクンや』
和食じゃないのね。
それにしても備然の野郎、ちゃっかり情報を聞き出しやがって。だが、なんで『第三の目』は不発に終わったんだろうか。
本懐を遂げて満足したのか、備然は今度こそフィールドを出て行った。振り返ることなく、言葉だけを残して。
「……唯人、真津璃。これでわかっただろう。からくりを持った私はもはや無敵。喧嘩はおろか、頭脳戦や心理戦でも負ける気がしない。だから、今一度忠告しておこう。……妙な気は起こさない方が賢明だぞ」
うっせー、馬鹿。さっきの茶番のせいで色々と台無しだよ。トムヤムクンでもシバいとけ。
▶▶▶
「ワシはもっともっと強くなるぞ! お前たちも、またどこかで会った時はよろしくのう」
じゃっ、と猫丸は手を挙げると、次なる相手を求めて何処かへ去ってしまった。なぜ、フィールドの特性を事前に知っていたのか、訊きだすつもりだったのだが……。
「まあ、いいや。真津璃、俺たちもそろそろ初戦の相手を探しに行こうぜ」
「……ああ、それについて一つ提案がある」
先ほど中にいた建物の前で、真津璃は言った。
「ここから先は別行動を取らないか。どうせ帰る場所は一緒なんだ、四六時中べたべたしているのもアレだろう」
それは、想定外の提案だった。
別行動か。言われてみれば、俺は船にいた時からずっと真津璃と行動していた。いつまでも仲良しごっこしている訳にはいかないもんな。
俺は大きくそれに頷く。
「同感だ。お前なら言うまでもないだろうけど、健闘を祈るぜ」
「そっちこそ。また全賭けなんて真似するんじゃないぞ」
善処します。
てなわけで、共同戦線はあっさり一時解体。真津璃とは反対の方向に向かって歩きだす。夜、寮で会った時はどっちがキビダンゴをゲットしたか勝負と行こうじゃねえか。
別行動を始めて十分ほどが経過した。道中、あちこちで生徒の姿を見たのだが、すでに『決闘』中か様子を見ているやつらばかり。
例えばベンチでボーッとしている男に声をかけても、
「おう。あんた、暇なら俺と『決闘』しないか」
「お、おめぇ船の時の……結構だ。おれは忙しいんだよっ」
こんな具合に断られてしまう。女の子に振られるわけじゃないけど、地味に傷つくぞ。
足早に去る男の背を見ながら、俺は呟く。
「なんだってんだ……」
「──自覚されてないのですかな?」
急に耳元で声がした。俺は反射的に飛びあがり、そちらを振り返る。
「いやはや、驚かせて申し訳なし。アンドお初にお目にかかります、小生は五四二一三。名古屋生まれの東京育ちでござる」
丸眼鏡をキリッと持ちあげ、小太りな男は俺に向かって頭を下げた。
「誠に勝手ながら、情報屋を名乗っております。どうぞ、気軽にゴシップとでも呼んでくだされ」
また変なのに絡まれた。
次回、唯人がやっとこさ初戦に臨むそうですよ




