第14話 ▶100vs1の決闘
あらすじ:語り手と書いてストーリーテラーと読む
ふぅー、と息を吐いてこめかみを押さえる。
よし、大丈夫。冷静になれ、吉良唯人。きっと今のは俺の盛大な聞き違いだ。
だって、そうだろ。自分が桃太郎を書いた張本人だと? いつの話だと思ってんだ。いや、俺も知らねえけどさ、そんなことはどうでもいいんだ。
ボケ老人もここまで来たかと頭を抱えたくなるね。突っ込むことすら馬鹿馬鹿しい。
ヤベェとこに来ちまったんじゃねえの、俺たち? 疑問を抱いていたのは皆同じだったようだ。ポツポツと失笑混じりの声があがる。
「おい、聞いたかよ。桃太郎の作者だって」
「やべーな。俺、サイン貰っちゃおっと」
当然ながら、誰も今の話を信じちゃいない。周りがそうであると認識し始めると、途端に声を大にする者も現れた。気持ちはわかるが、いじめみたいであまりいい気分はしないな。
すると、語り手なる老人がポンと手を叩いた。
「いいことを思いつきました。私と、あなた方とで『決闘』をしませんか」
その場にいる誰もが唖然とする。まさか、このタイミングで『決闘』を仕掛けられるとは思わなかった。要先生をはじめとする教師陣、及び四人の着物女子は至って冷静に口をつぐんでいる。……いや、元気っ子月尊ちゃんだけ少しソワソワしているが。
静まり返る体育館に、語り手の声がこだまする。
「あらかじめ言っておきますが、このフィールドでは私がルールです」
ええ、ええ。大真面目でそんなことを言われちゃ何も言えねえよ。おい、真津璃。口開いてんぞ。
「驚きましたか? このように、フィールドとはその場所によって異なる特色があるのです。そして、この体育館の特色こそ、『私がルール』だというわけです」
めちゃくちゃだな。本来ならさっき見たように、岩場やコンクリートのことを特色と言うんだろうけども。
さすがに我慢できなくなったのか、坊主頭のヤンキー君がポケットに手を突っ込んで尋ねる。
「なあ、じいさん。一つ訊かせてくれよ。あんたらの言う『決闘』ってのは、嫌なら拒否するのもアリなのか?」
ざわざわ、と辺りで声があがる。闘うことを拒否するつもりだ、このヤンキー君。しかし、言ってることはもっともだ。
今回の『決闘』は、語り手の一存で如何様にも姿を変える。後出しジャンケンに正攻法で挑むようなものだ。無謀すぎる。
「そうですね、今の質問に答えるならば、基本的にはできます。拒否のタイミングは二回。『決闘』を挑まれた時と、キビダンゴの賭け枚数を示された時です」
「へぇへぇ。……で、基本的に、っつーのは?」
語り手はニコリと微笑んだ。
「今回の『決闘』に拒否権はないってことです。なぜなら、このフィールドでは私がルールですからね」
なんてことだ、そんなことが許されるのか。……許されるんだろうな。要するに、先生の言うこと聞きなさい的なアレだろう。
現在、キビダンゴを持っているのは備前の野郎ただ一人。他の連中にはまだ配られてすらいないのだ。そんな段階からたいした枚数は要求されまい。俺なんか一文無しだし、実質無敵だ。
語り手はモジャモジャの白い髭を掻く。
「それと、『決闘』に賭けるものは、双方合意の上であれば、キビダンゴ以外であっても構いません。……もっとも、今回あなた方に拒否権はありませんがね」
くっくっ、と悪者みたいな声で笑う背の曲がったじいさん。もうやりたい放題だな。
「で、今回の賭け代ですが、一言で表すとデッドオアアライブです。あなた方が勝てば桃神郷の生徒である証、生徒手帳が手に入ります。しかし、負けた者は即刻本土にとんぼ返りしてもらいます」
全然甘くなかった! なに、こんな頻繁に退学かかっちゃうの? 極限すぎるだろ、桃太郎さんよ。しかも強制ときた。これは腹を括るしかないな。
「このフィールドで闘うジャンルは、『智』。私と精神の擦り切れる闘いをしましよう」
くっくっ、とまた悪者の笑みを浮かべる語り手。先の読めない男に、ヤンキー君もすっかり大人しくなってしまった。
「早速始めましょうか。三ポイント先取のデスゲームを。なお、今回出題される問題はすべて私が独断で決めます。そのため、あなた方の不正解がそのまま私の正解となります。なぜこんな横暴がまかり通るのかは、もう言わなくてもおわかりでしょう」
権力って怖いねぇ。
というか、他の教師たちは止めに入らないのか? いくら学園長が相手とはいえ、ここまでだんまりなのは些か気になる。それとも、なにか別の理由があるのか?
訳がわからないまま『決闘』の幕が開く。
「では、第一問。キミたちは何者ですか? 桃太郎だと思う方は、あなた方から見て右。浦島太郎だと思う方は左へ行ってください」
ちょっと待て、なんだこの馬鹿げた問題は。
なあ。お前もそう思うだろう、真津璃?
「桃太郎、だよな……?」
「なんで自信なさげなんだ。当たり前だろう」
今まで何を見てきたんだ、と言いたげに目を細める美少年。やつに同行して俺も右手に寄る。
「えっと、正解は桃太郎です。全員正解ですね、これはすごい」
安堵の息が漏れた。
そうだよな、そりゃそうだよ。でもさ、ここまで簡単な問題だと逆に疑っちまうじゃねえか。何がしたいんだ、あのじいさんは。
「続いて、第二問。桃太郎の使命は、鬼を討ち平和な世の中を築くことである。〇だと思う者は右、✕だと思う者は左へお願いします」
まただ。露骨に難易度を抑えたサービス問題。一周まわって怪しいのは、もはや言うまでもない。
先程右に寄っていた100人は、全員その場でステイを選んだ。正解は、〇。これで全員王手なのだが、いまいち素直に喜べない。
勝負の三問目。いったいどんな問題が出されるんだ?
「皆さん素晴らしいですね。さて、最終問題です」
刹那、語り手の目がギラリと光った。
「……あなた方に、桃太郎を名乗る覚悟はありますか」
復讐のため。殲滅のため。
何かしら思うところがあって、皆はこの場にいる。
だったら、自分は?




