第13話 ▶ストーリーテラー
あらすじ:到着、桃神郷!
「はーい、押さへん押さへん」
黄緑色の着物をした女性、花歌 さんの先導で、鉢巻を付けた生徒たちは一斉に船を降りていく。
誰もが最初の一歩を踏みたいということで、階段まわりは乗船の時以上に混み合っていた。あれが解消するのはもう少し先になりそうだ。
船着場について五分ほど経った頃、ようやく俺たちの番がきた。人の波に揉まれながら階段を目指す。
「ほうら。貴様ら、さっさと降りるのである。最後に降りるのは、このワガハイ。ゴーマン様なのであーるる」
「またなんかやってる……」
着物女子ズに混じって交通整理する男、ゴーマン。何がしたいんだ、あいつは。そんな意味不明な巨漢に対し、真津璃は冷ややかな視線を送った。
階段を降りて砂浜に立つ。マジモンの海と砂浜だ。海も透き通るように綺麗し、いっそここでバーベキューでもしねえもんかな。
先に降りた連中は花歌さんの後ろをついて行っている。
「俺たちも行くか」
「そうだな。ここで迷ったら一生出てこられない自信がある」
砂浜の向こうは鬱蒼とした森が壁を築いている。いかにも危険な香りが漂い、三歩も歩けば猛獣の類いとエンカウントしかねない。ここは大人しくついて行かせてもらおう。犬死にしたくはないからな。
無理やりのように切り開かれた道を、何を話すでもなく歩く。さっきまでやいのやいの騒いでいた連中もすっかり静かだ。緊張しているのだろう。
気持ちはわかるぞ。新天地はいつだってドキドキだ。……なに、そういうことじゃない?
なだらかな丘をいくつか越えると、ついにそれのご尊顔が見えてきた。
「あ、あれが……学校なのか?」
声に出さずにはいられなかった。まず、その規模。敷地だけで見れば一般的なマンモス校のそれの二つ分くらいある。
今まで黙っていた連中も驚きの声を漏らす。
「なんだこれ、どっかの城かよ……」
「闘えそうなところもたくさんあるぞ。学校というより訓練場だな」
まさしく。これはもはや学校ではない。
そう、例えるならば。
「戦場食べ放題だな」
「グルメリポーターにでもなったの、あんた。しかもうまくないし」
「……戦場バイキング。船上だけに」
「もう陸地だよ馬鹿」
なんてくだらない駆け引きを始める程度には、俺も内心ワクワクしていた。
きっと『決闘』で使うのだろう。岩地っぽいものからコンクリートジャングルまで、多種多様なフィールドが次々目に入ってくる。
「ほらほらっ。早く闘いたいのはわかるけど、さっさと前見て歩く!」
紅の着物幼女、鳥子 は呆気にとられるやつらを叱咤し、先に進ませる。どこへ行くというのか。
歩きながら周りを見ていると、体育倉庫くらいの建物があちこちに設置されている。たぶん、あれも『決闘』用のフィールドなのだろう。室内ということは恐らく、『智』か『心』。さすがに体育倉庫で『力』 するってことはないだろう。いや、甲板では闘ったけれどもさ。
ぞろぞろと野郎共が平地を蛇行する。校舎らしきデカい建物に圧倒されていると、目の前に横長の建造物が現れた。
「た、体育館……もうすぐですっ。しんどいでしょうけど、もう少し我慢してください。ひ、ひい。睨まないで」
俺にキビダンゴをくれた藍色の着物少女……なんっつったっけ。そう、風音 だ。彼女は男たちの視線にオドオドしながらも、己の役割を果たそうと必死になっている。
なんつーか、自分の娘を応援する親の気持ちがよくわかるね。
頑張れ、自分のペースで行こう。俺たちがついてるぞ。
しっかし広い学園だ。これだけ広いと、時間割によっちゃ次の授業に間に合わなくなるんじゃないか?
これからのことを他人事みたいに考えていると、ようやく目的地に到着した。
二階建ての、特筆すべき点もない体育館である。
「体育館の大きさ自体は普通なんだな。てっきり東京ドームくらいあるもんだと思ってた」
「東京ドームってどのくらいの大きさなんだよ?」
「……いや。俺、行ったことねえし」
「なぜ、見たこともないものを」
ええい、うるさいうるさい。
「みなさーん。間もなく入学式が始まります。船の時と同様、楽にしててくださーい」
檜皮色の着物娘、月尊 ちゃんが先頭の辺りでわたわたと手を振っている。ここからでは手しか見えないが、あれは間違いなく月尊ちゃんだ。キビダンゴがあれば全賭けしている。
上靴なんて持ってないので、体育館には靴下で入る。足裏がひんやりして気持ちいい。
中はいかにもな体育館だった。フローリングの床のあちこちにテープが貼られているが、これは『決闘』用のものか、はたまたスポーツ用のものか。
百人の男たちは散り散りになって正面を向く。月尊ちゃんも言ってたが、そっくりそのまま船の大広間だ。唯一違うのは、壇上にヨボヨボのじいさんが立っていること。
「誰だ、あのじいさん」
「さあ……」
真津璃も小首を傾げている。こいつが知らないことを、俺が知ってるはずもない。じゃあ誰だ。
顔は真っ白い毛に覆われ、輪郭がいまいち掴めない。加えてどこぞの魔法学校みたいな大袈裟な衣装を纏っている。あれだ、自分の偉さを誇示するかのような格好だ。
ガガ、とマイクの音が入る。いつの間にそこにいたのか、司会進行を務める教頭みたいな立ち位置に要 先生がいた。羽織にちょんまげに、桃印の鉢巻と、相変わらず桃太郎の圧が強い。
「あー、テステス。えっと、では定刻になったので、これより桃太郎入学式を開始します」
絶妙にダサい響きだな。
「まず、この私立桃神学園……もとい桃神郷の学園長、語り手 様からお言葉をいただきます」
これは驚きだ。常におチャラけモードな要先生が、真面目に司会を務めている。それだけ威厳のある人物だということか。
壇上のじいさんは深々と頭を下げると、スタンドマイクに向かって、気の遠くなるようなことを言い始めた。
「どうも、皆さん。御機嫌よう。ご紹介いただいた通り、私は語り手と名乗っている。この桃神郷の最大責任者であり──キミたちがよく知る『桃太郎』。あの物語を紡いだ、最初の者だ」
もちろん、この物語はフィクションです。語り手なる人物が実在する訳ではありません。
が、桃太郎の出処というのはいまひとつわかっていないらしいんですね。歴史の重みというやつです(?) ということで、語り手という人物が生まれました。専門家にしばかれそう。




