第15話 ▶覚悟はあるかい
あらすじ:桃太郎を名乗る覚悟はあるのか?
胸が鳴った。武者震い的な音ではなく、罪悪感にも近いものだ。
周囲に目をやる。こいつらは、それぞれの意思に従ってやってきた者たちだ。
真津璃は復讐のため。
備然は一番になるため。
ゴーマンは……ちょっとわからないが、何かしらの葛藤があってこの場にいることは確かだ。要先生が最初にそう言っていた。
ならば、俺は?
訳が分からないまま船に担ぎ込まれた俺は、いったいどうして入学式にいるんだ。どの面下げて、こいつらと同じ土俵に立っている。中途半端な気持ちで臨むくらいなら、いっそのこと──。
「〇と思う方は右、✕と思う方は左に移動してください」
足が動き始める。俺の腕を真津璃が引くのと、フラッシュバックするのは同時だった。
「ちょっと、あんた。そっちは✕だぞ」
蘇る強烈な記憶。鮮明に思い出すという訳ではなく、衝撃と表すのが適当だろう。雷に打たれるような感覚だ。
頭の中に流れてくる、声。老若男女さえわからないか細い声だが、自然とそれの意味は理解できた。
『お前には使命がある』
そう、背中を押される気がしたのだ。使命なんて言われても皆目見当がつかない。が、記憶を失う前の俺にはきっとあったのだ。この桃神郷で果たすべき目的が。
「……すまん、真津璃。〇と✕を間違えてたわ」
自分の記憶を取り戻す、この場所で。それだけじゃ足りないだろうか。俺がいちゃダメなんだろうか。だったら……後は、そうだな。
「まったく、しっかりしてくれよ? あんたも僕と同じ、桃太郎の一人なんだから」
勝手に辞退しちゃ、あんたへの借りがどうのって騒ぎだしそうだしな。うん。二つも理由があれば十分だ。
俺の答えは──。
「なるほど、全員〇ですか。……大正解です! 皆さんの覚悟、しかと見させてもらいました」
ニコリ、と語り手は優しく笑う。同じ仕草でも、今回は心の底から湧き出るような、自然な笑みだったように見えた。
「皆さん、それぞれ思うところがあってこの場にいることでしょう。しかし、この先に待ち受ける道のりは、決して緩やかなものではありません。今、隣にいる者こそが同士であり、競うべき相手……いや。倒すべき、敵なのです」
ビリビリと空気が痺れるのを肌で感じる。闘争心が伝播し、共振しているのだ。
「皆さんは疑問に感じていると思います。……なぜ、鬼を討つ立派な戦士になる過程で、人同士争わねばならないのか、と。簡単なことです。甘いだけでは守れないからですよ」
どこかで聞いた言い回し。忘れるものか、これは備然が声高に示していた主張と酷似している。
弱い者は誰も守れない。
わかっている。わかっているが、それで納得してしまっていいのか。弱いやつは何もせず怯えてやがれ? そんなの、あまりに残酷すぎるじゃないか。
語り手はふっと頬を緩める。
「何も、人でなしになれと言っているのではありません。優しさはもちろん大切です。ただ、優しすぎる人は……鬼を斬れないのです。慈悲をかけて、あるいは可哀想で。別にそういう人を責めるわけでもありません。その優しさは誇るべき感性、いつまでも大事にしてくださいね」
ううむ。悔しいが、言ってることはもっともだ。
優しさと甘さは違う。映画やドラマなんかでも、一人の甘さが結果的に仲間を苦しめる……なんて展開も珍しくない。
迷いを捨て、芯を貫き通せということか。
「さて、学園長の長ったらしい話を聞くのも飽きてきた頃だと思います。ささやかですが、私たちからのプレゼントです」
語り手が新興宗教の教祖みたいに手を広げると、周囲の教師や着物女子ズが動きだした。床に置いてあった段ボールを持ちあげ、俺たちの元へとやってくる。
「は〜い、これが生徒手帳で、あっちは巾着袋や。一人一つずつもろてってな〜」
渡されたのは、この『決闘』での賭け代であった生徒手帳だ。それと、キビダンゴの入った巾着袋も併せて配られている。ジャラジャラという音がやかましい。
冗談半分で月尊ちゃんに突撃してみる。
「あっ、巾着袋俺にも……」
「いやですねー。唯人さんは船でお先に貰ってたじゃないですかぁ」
ニコニコと追い返されてしまった。てか、よく名前覚えてんな。びっくりだよ。
「ズルはできないということだな」
「うるせえ。コミュニケーションだよ、コミュニケーション」
真津璃を適当にあしらって、貰った生徒手帳を観察する。黒革に桃色がアクセントとして映える、結構本格的な作りだ。
パラパラと中身を流し読みしていると、真津璃がこちらに握り拳を突き出した。
「ん」
「……なんだよ」
やつはゆっくりとグーを解く。中にはキビダンゴが5枚載っていた。
「借りは返す。キビダンゴ0枚じゃ誰も『決闘』に応じてくれないだろうが」
そっぽを向いてコインを差し出す真津璃。まさかこんなことが起こるとは微塵も思っていなかったので、うまく頭が回らない。
「お、お前。でもそんなことしたら、自分の持ち枚数が」
「百も承知だ、そんなこと。だがな。こうでもしないと僕が納得できないんだ。……そのくらい、わかれよ」
相変わらずだな、こいつは。優しいだけではダメだとさっき言われたばかりなのに。本当に、こいつは。
「……ありがたくいただいておくぜ」
「倍にして返してくれよ?」
くれてやるとも。10枚だろうが、30枚だろうが。
「俺に勝てたらな」
「よーし、唯人。今すぐ『決闘』だ。僕の刀の錆にしてやる」
やっぱり、これくらいがちょうどいい。
俺と真津璃は等しく生徒同士だ。お互い生き残っていれば、いずれ闘う機会もあるかもしれない。だが、少なくともそれは今じゃない。その時が来るまでの間くらい、馬鹿言い合える関係であれたなら。
──なんて。俺も甘いやつなのかね?
一通り配布が終わると、語り手は満足した顔でこう締めくくった。
「それでは、皆さんの健闘を祈って閉会の言葉とさせていただきます。……要先生、次は寮の案内でしたね?」
端の方にいた要先生は大きく頷いてみせた。再び司会進行のポジションに立つと、彼はマイク要らずの声でアナウンスする。
「ほーい、じゃあお前ら。自由行動の前に、これから一年お前らが過ごす寮を案内するぞ。つっても、俺は案内しないんだけどな」
何言ってんだこのおっさん、と思ったが、要先生と入れ替わるように着物女子ズが総員前に出る。右から順に、花歌さん、鳥子、……風音、月尊ちゃんの並びだ。
どうやら彼女らが道先案内人らしい。
なぜ、唯人はこの場にいるのか。いつかはハッキリさせないといけない問題でした。
着物女子ズについて補足しておくと、
黄緑……花歌
紅 ……鳥子(怒りっぽい)
藍 ……風音
檜皮……月尊(元気っ子)
↑といった感じです。キャラクターが多い分、覚えてもらえているかとても心配なのです。




