読み聞かせ
「隊長、おれは」
そこへ、邪魔者あらわる。
ワヌ・シンかよ。
もう! もうもう。邪魔しないで。しばいたろか。
「セナ。国に帰るときいたが、冗談だろうな? あんたはおれの妻だぞ。ここがあんたの国だ」
ジャンミさ~ん。この人にお酒飲ませたら、ものスゴいスペシャルな王サマになるって言ってませんでしたっけ。
あれは、まったくの嘘っぱちだったってことですか。
いつものワヌ・シンですよ。
「いいか、セナ。言ったろう。必ずホレさせるって。十四夜まで待て。十五夜目は一緒に寝ようとあんたから言わせてみせる」
ぜったい言いません。
ちょっとかわいそうになってきた。
この人イノシシタイプだなあ。
まっすぐにしか進めない。
もうマンガは取り戻したし、十四夜までここにいる必要もない。
クム・セナお姉さんはお国に帰って王様をお守りしなきゃならないんだから。
「おれも行くぞ。決めた」
なんかわがまま言い出したよ。
これだから王サマって。
そうほいほい外出とかできないんじゃないの? お仕事がたっくさんあるでしょうが。
「ヨンチュ殿を大切に」
お姉さんの一言で、ワヌ・シンめ、黙った。
あの男の子のこと、ヨンチュさんとの間に授かった子だってやっと認めたんだからね。
わかっていたけど、認められなかった、というのがホントのとこらしいけど。
ヨンチュさんの手を取りながら、男の子をひざに乗せてたワヌ・シンは、すごく大人っぽい落ち着いた感じだった。お父さんしてたなあ。
ふだんは超チャラいのにさあ。
「春蘭君と王子を王宮の外においておけば、よからぬことに巻き込まれるおそれがあった。寵愛しても同じこと。この一年、おれの王としての立場も確固たるものではなかったからな。あの人には、かわいそうなことをした」
かわいそうなことをしたと思うんなら。
どんどん寵愛なさればよろしいんではないでしょうか。
「セナや、それほど他人行儀なのは、嫉妬しているからか」
おめでたいです。
「かわいいやつだな。素直になれ、まえみたいに」
素直に嫌いだと言ってきたはずなのに。
少しも伝わってないのが悔しいです。
うれしいって気持ちが顔に出てるところがにくめないけど。
なんていっても、だめです、ワヌ・シンは。
一晩七回の男ですよ、忘れないでください。
クム・セナお姉さん、吹き出した。
二人がふしぎそうに見てます。
ええとね。
ツッコミ入れるのやめようと思うんですけど、どうもだめみたい。
お姉さん、無視してくださいね。
「オレマン!」 弐拾参巻。
これ読んでね、私はすっきりした。
もう思い残すことないって。
サトおばあさんのところにある続巻も、なんか読めたら読みたいなあっていうふわっとした願いに変わってて。
うん。すっきり。
たぶん私、このまま少しづつ消えゆくんじゃないかな。
お姉さんの中に溶けてきえちゃうんだと思うんです。
それはそれで、うれしいっていうか。
「隊長、どうなさいました」
ハナさんが心配してます。
ほら、お姉さん、顔を上げてください。
お姉さんが考え込むと、この人まであれこれ考えちゃうから。
「セナや」
ワヌ・シンもこの人なりに気遣ってくれてます。
「なあ。マンガとやらを読み聞かせてくれぬか」
え。
八割オノマトペですけど、理解できますかね、読み聞かせで。
じゃあ、もっと近くに来てください。
あ、ワヌ・シン、図画院のハン・チルウさんにこれ見せたでしょ。
知らんぷりしてるけど。
お礼を言いたいだけなんだけど。
この国でマンガ文化が花開いたら楽しそうだからね。
お姉さんは胸元から、ぼろぼろの弐拾参巻を取り出した。
表紙をなでる。真ん中に矢傷がのこるマンガ。
何回目かな、読んだの。まためくってもらっちゃってすいません。
それでは。オネガイシマス。
「それがしの懸想心、しかと受け給えよ、愛しいお方」
うーん。堅い!
もっと砕けた感じになりませんか。
「わたくしの想い、受け止めてくだされ、愛しい人」
もうちょっと。
「わたしは、あなたを、お慕いしております」
こんなもん?
というわけで。読み進めていくと、ラストはこう。
お饅頭の恋心は、けっきょく伝わりませんでした。
目で恋する気持ちを伝えることもできないし、
口で想いをコトバにすることもできない。
腕もないから、だきしめることもできない。
で、どうしたかというと。
好きな人のおやつになりました。
主食じゃなくて、間食っていうところが、押しつけがましくない。
それだけのラストなんです。
好きな人のために身を捧げる。
そんなある男の話でした。
完。
ハナさん、何かをすっごく考えこんでる。
ワヌ・シン、顔がひきつってる。
お姉さんはほほえんで、二人の茶碗に新しいお茶を注いだ。




