わたしのことが好きなんだろう、うん?
両手を縛られ、武器を奪われて。
味方の兵がつぎつぎと門を出てくるのを見て、城の外で待機していた荼の余軍は分が悪くなったのを知った。
このまま攻め込むにしろ、退くにしろ、すみやかに決断しなければならないところだ。
しかし、決断を下せる者が、ここにはいなかった。
北から土煙をあげて騎馬の軍が向かってきた。もしやニ老川を渡ってやってきた援軍かと思いきや、遠くたなびく旗は赤と黄色の厦のそれだ。
馬に乗れば、厦の戦士は三十人力は発揮するという。
城門へと侵入すれば、逃げ場はなくなる。
将軍を見捨てて逃げ去ることが許されるのか。
土煙が空に舞い上がる様をぼうっと見ていた歩兵の足下に、どっと矢が突き立った。
信じがたいことだ。
風向きを読んだとしても、矢のとどく距離ではない。
焦りと驚きに身じろぎする金音が、草葉がさんざめくようにざあっとひろがった。
退却を命じる者もいない。なら、今すぐ逃亡をとがめる者もいまい。
荼の兵はみな田畑を耕し獣を飼って暮らしていた。
ここで死んでたまるか。
だれかがそう叫ぶ声は、退却の合図のように、乾いた空に響いた。
ジャンミさんはどんな気持ちでこのお茶をいれていたのかな。
相手を思いながらいれること。それがおいしい茶をいれるコツ。
そう教えてくれたっけな。
「隊長」
ハナさんが戸口で礼をした。
「支度が整いました。明日には出立できまする」
「ご苦労。茶をいれた。飲むか?」
ハナさんは顔をひきつらせた。
「今は腹がふくれておりますので」
のどかわいてるんでしょ。
わかってますよ、今朝からいろいろ駆け回ってるって。
朝なんか何にも食べてないでしょうが。
ふくれるどころか、ペコペコでしょ。
私がなんにも知らないと思ってる。
まあまあ、この人にとってしてみたら、いとしい隊長がもとのクム・セナに戻って、安心してるんだろうね。
まあね。
私も、ほっとしました、正直なところ。
ほんとですってば。
ほんとう。
「おまえの好きなショウガ茶だ。飲め」
はい。お姉さんナイスです。
この人の好みは、聞いたんだ。
前に、雑談したときに。
ハナさん、しぶしぶ入ってきて、また礼をした。
「立って飲む気か。座れ」
「はあ」
どうにかしてお姉さんを避けようとしてるよね、ハナさん。
気まずいんでしょうね。
まあ、二人っきりっていう状況もここ数日ぜんぜんなかったんですけど。顔色かえて戻ってきたハナさんは、クム・セナお姉さんを大勢のまえで抱きしめたんですから。それで、おもっっきり殴られたんですから。
不憫すぎる。泣ける。
とにかく。
お姉さんの中には、私っていうおじゃま虫もいるし。
あーこれ。どうなるのかな。
なんだかんだで忙しいですけど。
いつまでもこのままってわけにもいかないだろうし。
ハナさん、一口お茶をすすった。
あ、猫舌でしたっけ。ずずーっと飲むから。そんなに熱くないはずなんだけどな。
「ハナや」
お姉さん、緊張した声で言った。
「おまえはさ、そんなに好きなのか?」
はい?
お姉さん。そこ聞いちゃうんですかっ。
いや、大事ですけども。
うん、気になるけど。
ほら、むせてるじゃないですか。
「どっちだ。はっきりせよ」
どんと出したのは、お饅頭ののった皿。
小さいのはあんこが入ってて、大きいのは鳥テリですね。
「おまえがさきに選べ。譲ってやるから」
饅頭の話かいっ。
わたしのことが好きなんだろう、うん? ううん?
っていう話じゃないんかいっ。
ハナさん、吹き出した。
そして、小さいのと大きいの、どっちもつかんだ。
「欲張るなよ。この」
本気で怒ってるよ。
お姉さん。まじ色気より食い気っすね。
ハナさんは鳥テリのほうを半分、あんこのも半分にしてお姉さんに渡した。
「饅頭は、腹に収まりますが。あなたは、おれの手には負えません」
「はあ?」
おっ。お姉さん、心して聞いてください。
わかりにくい愛の告白が始まりますので。
はい、五・四・三・ニ・一。キュウッ。




