開門
門が開く。
アッタさんはその瞬間まで、眉間にしわを寄せてた。
荼の軍がゆうゆうと進んでくる。
敵将の姿が見えると、ひざを折って、ていねいにお辞儀をした。
ほかの姉妹たちもそれにならう。
厦の着物って、原色に近いはっきりとした色がふつうなんだけど、みなさん、白い麻の服を着てる。
これは喪服なんだって。
白い裳が石畳のうえにふわっと広がる。
ワヌ・シンが亡くなったという演出。
「三兄上、五兄上。謹んでお迎えいたします」
アッタさん、ていねいだけど、すっごく冷たい声で言った。
うーんと。
十四人の王子たちは王座を巡って争ったんだって。
一番上の王子様がお亡くなりになってから。
死んでしまった人もいる。領地から絶対に一歩も出ちゃだめと命じられたり、かたや領地ボッシュウ、遠くの国に追放された人もいる。
きょうだいげんかも命がけ。
運良く(?)残ったのは第三王子の一派、それから第五王子の取り巻き連中。
その人たちも、先王さまの亡くなった戦いでワヌ・シンの指揮を無視して暴走し、いたずらに人馬を消耗させた。
領地から出てくるなと言いつけられてたはずだった。
お兄さんたち、むつかしいカオしてるけど。
「おまえたちには、苦労をかけたな。よくぞ我らの留守を守ってくれた」
何言ってんだって話ですよ。
アナタたちが攻めてきたんですよ。
乗っ取りに来たんじゃありませんか。
自分の国を、他国の軍を率いて攻めてくるなんて、ちょっとひどいんじゃない?
荼の力を借りて王様になったら、とうぜん、今後はいろいろ口だししてくるんじゃないの?
ははあ~、仰せのままにって。
言うこときかないといけなくなるんじゃないの?
「思いがけないお姿ですね。たいへん眩しゅうございます」
アッタさんのお世辞も凍り付きそうなくらいの棒読み。
でも、笑顔はそつない。
うーん。
王様になれなきゃ元も子もないから、なりふりかまっちゃいられないってことかな。
それにしたって、やることエゲツない。
なんでも。
荼の軍には、名分がある。
メイブンってのは、戦うただしい理由があるってことだ。
それ、どんなのよ?
王様をこっそり殺しちゃって、自分が王様になるのが正しい理由ってさ。
先王の御代から、厦は周辺国からはじきだされてしまい、跡継ぎもなかなか決まらず国の政治が乱れた。
そのことに心を痛めてたのが荼の国王。
荼は代々王族を嫁がせてきたけど、姻族として、つまり身内としてこの争いに終止符をうちたいと。
もう争ってませんよ。
ワヌ・シンが王様になって、丸くおさまりかけたのを、ひっかきまわしてんのはそっちじゃないですか。
「落ち着きなさい」
クム・セナお姉さんは、つぶやいた。
「ほしいものがあれば、手を伸ばしてとるだろう。相手が弱いとみれば、どうして我慢する必要がある? そもそも、儷が戦をすることになったのは荼の意向をうけてのものだ」
クム・セナお姉さんが、ちいさな声で教えてくれた。
「荼は穴ぐらで眠る毒蛇だ。ふだんは、眠っている。でも、いつも腹をすかせている。なにかを飲み込みたくて、仕方ないのだ。飢え渇え、その欲のままに振る舞う。踊らされているのだ、わたしたちは」
それ、ムカつきます。
お姉さんは、ちいさく笑った。
「いかにも、そのとおりさ」




