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王の后

「ジャンミさん、いますか」

 いても出てきてくれないだろうな。

 竜の人は、基本的にわが道を行く。

 あんたはあんたの道をお行きなさい、というスタンスなんだよね。

 助力はしてもいいけれど、勝敗を決するような場面で救世主を演じたりはしない。

 もう、わかってるんだけど。

「ワヌ・シンは死ぬんですか?」

 用意された服に袖を通しながら独り言チックにつぶやく。

 そうすると、灯籠の炎がかすかにゆれた。

 あーめんどう。

 いるよ。そこにいるんでしょ。

 じゃあ、出てきてください。もう。

「ジャンミさん」

「まあ、セナがだれを選ぶかによるだろうね」

 お、ようやく登場なすったぁ。

 二本足のジャンミさん。鼻の下のひげを見ると和むわ。

 隠れてたのは、面倒な頼みごとされたくないからだって、わかってますよ。竜の人が目の前にあらわれたらさ、の人たちだって、頼りにしちゃうでしょ。その気持ちもすっごくよくわかる。

 てか、手助けしてくれよ、って思うんだけど。

 肝心なところで引いちゃうんだよね。

「結婚相手のことですか?」

 ジャンミさんは、長い髪を三つ編みにして肩に流したのを手で撫でつけながらうなずいた。浮かない顔だ。

「ニ択ですか。ワヌ・シンとハナさん?」

「三択だよ。れい王も忘れるな。いや、四択かな。神殿にも、いいのがいるから」

 もう、いちいち驚くのも疲れた。

「選んだら、目を覚ますんですか?」

 用意してくれた服のうえから帯をしめる。

 アッタさんのかな。濃い赤の布地に、同系色の糸で刺繍がしてある。

 形は近衛隊の衣そっくりなんだけど、色が違うだけではなやか。

 髪がじゃまにならないように結い上げて、朱色のはちまきをしめて、完成。こっちの世界の装いにも慣れてきたもんだ。

「目は覚める。大事なのは、そのあとのことだよ」

 ほっとした。

 そうだよね、目覚めてくれないと、困る。いろいろと。

「セナの酒を飲ませれば、ワヌ・シンは目覚める。さすれば、はれておまえさんは王の后だ」

 冗談でしょう。

「二百年前、竜女はある男に酒を与えた。ただの酒じゃない。命をゆさぶり、霊力ちからを与える特別の贈り物だ。飲んだら、たまげるだろうよ」

「下半身が竜にでもなります?」

 ジャンミさんはウインクした。

「まあ、近からず遠からず。とにかく、強い王になる。あたしたちも思わずひれ伏したくなるような」

「ほんとかなあ」

「ちょっと大げさか」

 でしょ。滋養強壮くらいでしょ。効果はさ。

「それにしたって、ずいぶん効くよ。一発で目が覚める」

「だといいんですけどねえ」

「信じないのか。すっごい、なんだ。アレだよアレ。とにかく、こめられてるって、信じるだろ、セナ」

 ジャンミさん、どうしてムキになるのかな。

「結納の品にふさわしいんだったら!」

 言えば言うほど、お酒のありがたみが薄れてくるのは気のせいでしょうか。

 気のせい、気のせい。



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