表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/68

秘苑(ひえん)

「お、おつかえ。ひえ。めっそうもない」

 なんか、落ち着かない。

 アンさん、特技・地味+すばしこさを生かして、王宮内の出来事を探ってもいるらしい。ミッション・インポッシブル。

「そんな姿もお似合いになる」

「そ、そうですか?」

 また女官の格好。王宮では、女官服を着ると「透明人間」になれる。

 目立たず、地味になるんです。

 くるっと回ると、アンさんは吹き出した。

「おやめください。おねがいです。まじめな顔が難しくなります」

 カメレオンのように、風景にとけ込んじゃう。

「外へお連れしたことがわかれば、兄に叱られます。ひっそりと参りましょう」

 人は、あんまり他人のことって見てないもんなんだよね。お仕着せを着てたら、「ああ、どこそこの女官」って頭の中で処理して、忘れちゃう。

「セナ様はやはり、目立ちますね」

 クム・セナお姉さんは背が高いもんね。

 誰かとすれ違うときは、うつむいて、すかーとの中で足を屈めてくれって。これ、きつい。空気椅子のまま歩くって難しい。


「それにしても、なぜ秘苑ひえんに?」

 すいませんね、王宮が忙しいときに。

 でも、どうしても気になって、アンさんにお願いしたんだ。

「ワヌ・シン、えと、王サマがお気に入りの場所だと聞いたもので」

 ワヌ・シンのおじいさんが「妖魔」サトのために作った離宮、秘苑ひえん。ここは、見ておかないといけない気がする。

「たしかに、兄上は子どもの頃からよく秘苑ひえんでお過ごしでした。なんでも、静かでよいとか」

「今は使われていないんですか?」

「もともと林でございましたので、私的に狩りなどで時折つかうくらいでしょうか。建物は、あわせて三十棟、三つの池とその間を結ぶ川があります」

 門をくぐると、森の中にきたみたいだった。

 ぽつ、ぽつと木の間に建物がみえる。

「後宮の見取り図に、秘苑ひえんって、ありましたっけ」

「亡くなった先王は、こちらを疎ましくお思いでした。一時は、取り壊そうとされたほど。ですが、兄上の嘆願で思いとどまり、公式の行事では使用しないとの条件で、残すことを許されました。その名のとおり、こちらは秘められた庭です。忘れ去られた離宮なのですわ」

 先をゆくアンさんの肩に、木漏れ日が落ちている。

 ゆるやかな上り坂をゆくと、ひらけた場所に出た。

 池だ。

 濁った水の中に、生き物の影はない。

 四角い池の中央には島があって、そこにいけるように石橋がかかっている。

「秘苑の主の画をごらんになられますか」

 サトおばあさん。

 クム・セナお姉さんのおばあさんの絵があるの?

 おばあさん、ふつうのおばあさんだったけど。

 若いときは、さぞかし。

「うーん?」

 石畳の廊下の突き当たり、ちいさな部屋にかけてあった絵。

 これ、アッカンベー、してます。

 想像してた美女とちがう、なあ。

 それとも、この国では舌を出すのが美女の振る舞いなの?

「うーん」

 アンさんも絶句。

「こちらに画があるとは聞いておりましたが、このようなものだとは」

 そうだよね。

 ヘンだよね!

「人並みはずれた魅力があったのでしょう。きっと。画では花の香りは写し取れませんもの」

 そうですけど。

 あやしい。

 ん、待てよ。

 絵の中で、サトさん右の手のひらにお饅頭まんじゅう持ってる。

「これは、ふつうですか?」

 美女と饅頭、っていう画題?

「いいえ。ふつうは、花鳥や風月が添えられているものです」

 ですよね。

 舌を出す美女。っていうか。こうなると奇女だけど。

 それに加えて饅頭ってないわ。

 ワヌ・シンは秘苑ひえんで「オレマン!」を拾ったって言ってたけどねえ。

 どうして、ワヌ・シンがみつけたんだろう。

「セナ様」

 アンさんが、手招きした。

「この画はへんです」

 はい。ヘンです。

 そこは疑いなく、ヘンだって言い切っていいと思います。

「これをごらんになって」

 これ。どれ?

 ただの緑の背景ですよね。

「全体を眺めてください。なにやら浮き出て参ります」

 え? 気づかなかった。

「文字のような」

 目を細めて、じいっと見てみる。

 ん、これ、ひらがなじゃないかな?


 す、き ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ