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けっきょく、あんたはどっちが好みだ?

 三日目の夜がくる。

 夕焼け空が、夜の色に染められていく。

 こういう時間は好きなのに、どうしてだろう、すごく心細くなる。

 柱にもたれて一番星が輝くころまで、ずっと見ていた。


 覚えてる。

 私の通ってる学校は、高台にあった。

 夜が昼をおいかけて、ゆっくり空の色を塗り替えていくのを見るのが好きだった。街頭がさあっといっせいに灯る時間があるんだ。

 光の道ができる。

 ひとつひとつ、家に明かりがつく。

 あのひとつひとつに、人がいるんだな。

 今夜は晩ご飯なにかな? って。

 へこんだことがあっても、ちょっと気分がアガる。

 さー帰ろっ! ってなる。


 でもなあ、夢とはいえ、見せられちゃった。

 もう私には、帰るところはないんだ。

 それが、悲しい。

 もっと言うと、さびしい。


 よし、切り替えよう。

 切り替え、切り替え。


 これからどうするか。

 

 なんだかなあ。

 どうしたらいいのかな。

 ちっともわからない。


 王様のもとにお后様をお連れするために、私ができること。

 ワヌ・シンのお姉さんたちも妹さんたちも協力してくれるって言ってたし。

 気になるのは、クム・セナお姉さんは何を選ぶのかなってこと。

 たぶん、お姉さんは、「こうするべき」っていうことを、ちゃんと選べる。でも私にできるかな?

 役目のために、自分の気持ちを押し殺す。

 それが当然のように、できるのかな。

 逃げ出すことなんて、許されない世界で。


 笛の音が聞こえてきた。

 それから、男の人の歌声。

 歌うっていうか、詩吟っぽい?

 おばあちゃんがサークルに入ってて、遊びに行くとよく吟じてた。

 


 楽の音に思いをのせて奏でよ

 その思いは、空が聞きとめるだろう

 あるいは、風が遠くに運ぶだろう

 友が遠方より訪ねてきたなら

 もてなしに心砕き、つきることなき御酒酌みかわさん


 丸くきりとられた窓。

 外には縁側がぐるっとはりだしてる。

 ともされた明かりに、影が二つ映ってる。


 う、えっ!

 ワヌ・シンと、ハナさんじゃないですか。

 二人とも、同席することなんてあるんですか。

 御酒守みきもりの里で、紅白饅頭をとりあった時から、お互い目も合わせなかったんじゃありませんか。

 紅にはクルミ餡。白にはジューシーな鳥てりが入ってたんだけどね。

 半分こにすればいいって言ったらこっちにとばっちりが。

「あなたは下がっていてください。この男をぶちのめしますので」

「分け合うのは嫌いな性分でな」

 両者ににらまれました。

 それをにやにやと、なま暖かく見守る竜の人たち。

 こっそり後ろで乾杯するのやめてほしかった。



 もう忘れよう、饅頭のことなど。  

 ハナさん笛とか吹けるんですか。へえ。

 目が合うと、ぱっとそらす。

 なんですか?

「セナか。そこは冷えるぞ」

 ワヌ・シン。歌えるんですか。けっこういい声ですね。

 今日は、かわいそうなお話を聞いちゃったので、なんだかやさしくできそう。たぶん。

「今宵は、この男も連れてきた。じゃまだったろう」

 とんでもない。

 会いたいと思ってました。

 会いたいっていうのは、つまりですね。

 顔を見てほっとしたいって、いうか。

 とにかくうれしい。

「態度がそうまでちがうか」

 不機嫌そうなワヌ・シンは、ハナさんの肩をたたいた。

「隊長は正直な方ですから。お許しください」

「不愉快だ」

 そう言いながらも、本気で怒ってるわけじゃないみたい。

「けっきょく、あんたはどっちが好みだ?」

 二人の男の人が、じっとこっちをみてる。

 ハナさん。

 竜の人には、ぼさぼさ頭とひげを整えたらいいのに、と言われてたっけね。

 剛毛+(ぷらす)猫っ毛を、後ろでぎゅっとむすんでる。

 前髪も片目はすっかり隠れちゃうくらいに長い。切ってしまいたい。

 無口でめったに笑わないけど、時々すごく、どきっとする事を言ってくれる。そのあとは、心がちょっと軽くなってる。

 この人のそばにいると、ミョーに落ち着く。

 それから。

 ワヌ・シン。

 奥さんをお兄さんに寝取られた王様。

 この人、カッコいんですけどね。

 たれ目気味の目元が、いっつも笑ってるみたいに見える。

 ウツクシイ唇からは腹立つような言葉しか出てこない。

 ちょっと意地悪。性格がゆがんでるような気がするな。

 マンガ返してくれないし。

 人の足下見てますよ。

 結婚しろっていうんなら、ほれさせてみろって話です。

 オンナゴコロがわかってない。

 

 好み、っていわれても。

「どっちも、ちょっと」

 私の好みは、ニノくんとかニノくんです。

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