表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/68

後宮(ハーレム)スゴ。

「それで、シンはむりに口づけを?」

「シンがそんな、甘ったるいことを! セナ様やるわね」

「信じられない。シンはどうもさめた子で心配していたのだけど」

「ね。ちゃんと情熱もあったのだわ」

「それにしてもね。あの子が女人のもとをたずねて、ただ話をして戻ってきたことがあった?」


 いーえ!


 きれいにハモるなあ。



 ここにいる人たち、みんなワヌ・シンのお姉さんだとか、妹さんなんだって。

 信じられない。

 女官の格好をして迎えに来てくれたアンさん。

 それから、お茶をついでくれたヨンジェさん。

 口を開くとおしゃべりがとまらないのが、ユンソンさん。

 無口な本好きで、時々きっつい一言で姉妹を黙らせるのがカンヘさん。

 ほかにもほかにも、全部で十二人。

 そうそうたる美女ぞろい。

 長女のラッタルさんは、クム・セナお姉さんと同い年。

 二十九歳。

 ところで、ワヌ・シンはいくつなのかって。

 ふっと気になったので聞いてみると。

 えっ、あの人、二十三歳なんですか。

 クム・セナお姉さん六つも年上っ。

「シンには、あなたくらい落ち着いた人がいいと思う」

「そうね。春蘭殿しゅんらんでんの方にはお気の毒だけど、シンはあなたをお后に決めたんだと思うよ」

「事情はみんなよくわかっておりますもの」

 はあ。

 はあ?

「あの、奥さん。やっぱりいるんですよね」

「シンの唯一の妃のことです。春蘭殿を賜ってるから、春蘭君とも呼びます」

「春蘭君、ですか」

「不義の子を産んだのですよ」

 ラッタさん、お茶をつぎながらさらっと言った。

「シンの御子だと言い張ってらっしゃるけれども。シンは遠征で留守でしたので、みえみえの嘘だとみな承知です」

 ひええええ。

 やっぱりあったじゃないですか。

 後宮っぽいドロドロの人間関係。

 嵐、っていうのは、お后を誰にするかでもめるとか、そういうことですか?

「いいえ。春蘭君は、もう宮を出ます。シンがあなたを後宮に招いた。これはすなわち、彼女の敗北です」

 はい、ぼく。

「おとなしく宮を去れば、無視してきた子どもに名を与えようと、シンは言いました。名を与えられるということは、生きることを許されるということ。春蘭君は、涙ながらにそのお話を受けたと聞いております」

 うわあああ。

 そんなカケヒキがあったんですか?

 ワヌ・シン。ぜんぜん、ひとっこともそんなの言わなかったよね!

「嵐は、これから参ります」

 なんか、聞く前からため息でそう。

 なんだか、落ち着かない。茶碗の中にうつった顔をみつめる。

 クム・セナお姉さん。

 王様の近衛隊長は、こういうとき、動じずに顔を上げて話をきけるんだろうな。そして、自分のするべきことも、きっとすぐにわかるんだろうな。


「姉妹が十二人いるように、シンには兄弟が十四人おります」

 はああああ。

 後宮ハーレムスゴ。

「父が存命の頃から、兄弟たちは事あるごとに対立しておりました。長兄は早くに亡くなりましたが、その結果、いさかいに火がついて、血で血を洗うようなむごい争いが起こったのです」

 権力の味より、お饅頭の味を知りたい。

「父は子どもたちの争いに心を痛め、後継に、末の息子であるシンを選びました。シンはいっさい政治に口出しをせず、ただ一将軍として戦地に赴き、民にも大変人気がありましたから」

 それで問題解決、というわけには。

 いきませんよね。

「それを快く思わぬ兄たちは、シンを後継と認めず、軽んじました」

 さようですか。

「噂では、春蘭君の子の父親は、三兄。第三王子らしいともいいます」

 奥さんをお兄さんに寝取られちゃうとか。

 うっわー。

 ワヌ・シンも苦労、してんだね。

「父が戦場で亡くなり、シンが王位につきました。それが、一年あまり前のこと」

 まだ新米の王様なんだ。

「三兄と五兄は、それぞれ父王の弔いと称し、勝手に軍隊を動かし人馬を消耗させました。本来なら、こたびのれいの侵攻。余裕を持ってくい止めることができたはずですのに」

 クム・セナお姉さんはれいの人だから、なんともコメントしづらいな。

「いまこのとき、攻め込まれたら、ひとたまりもなかったでしょう。シンは泣き言もグチも申しませんが、だいぶ、せっぱ詰まっておりました」

 ラッタさん、私をじいっとみつめてきた。

 なにかを探ろうとしているみたいだった。

 目をそらしたらいけないような気がして、私はみつめかえした。

「我が国とれいは、伉儷ふうふ国とも呼ばれておりました。国交が絶えて数十年。この危機の時に、れいの王は弔問の使者を送ってくださった。これがどういうことか、しみじみと考えております」

 しみじみと。はい。

「わたしたちはみな夫ある身ですが、一人だけ、未婚の妹がおります。その子をなんとか、れい王のもとへ輿入れさせるよう、わたくしたちは手を尽くしたいと思っておりますの」

「ほんとう、ですか?」

 王様にお后様となる姫をお連れする。

 それがお姉さんの使命だった。

 もしお迎えできれば、れいの王様はの後ろ盾をえて、大妃てびさんに対抗できる。

「ですから、どうか、セナ様。シンを一人にしないでやってくださいまし」

 そう、きたか。


 でも、どうしよう。

 困った。

 うーん。でも。どうもこうも、ないんだよね。

 クム・セナお姉さんなら、どうする?

 王様をなんとしてでもお助けしたいはずだ。


 差し出された手を、おそるおそる握ると。

「まあ、戦士みたいな手ね」

 とアッタさんはほほえんだ。

 なんでかな。

 その笑顔を見たときに、黄色い花がいーっぱい咲く野原と、青い空を思い出したんです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ