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未来の小姑(こじゅうと)さまっ

 女官の格好で、衛兵さんの守る門をぬけて。

 後宮でもさらに周りを高い壁に囲まれた場所は籠斎とうぐうといって、代々の王様が、いちばんのお気に入りに与えた場所らしい。

 出入り口が一カ所しかないんだって。ちいさな門は、いつも誰かが見張りに立ってる。

 じゃあ、昨日どうやってハナさんは入り込んだのかな?

 壁を飛び越えた? まさかね。一番低いところだって、三メートルの高さはありますよ。

 私じゃなくって、お姉さんのこと。

 心配でたまらないだろうから、どんな手を使ってでも顔をみたいよね。好きな人が女好きっぽい王様の後宮ハーレムに入れられたときいたら、気が気じゃないだろうな。

 それにしては、いつもの感じだったけど。

 よくわかんない、ハナさん。

 はあ、ひげそってくれないかな。

 ひげを見る旅。

 まちがい。見るたびに、ハラませた晩(注・お酒を)のことを思い出しちゃうんですよ。

 困る。


 案内されたのは西宮と呼ばれるところだった。

「ご無礼をお許しください。お連れするには、これしか方法がなかったのです」

 閉じこめられてたわけではないですよね?

「姫様がお后となったあかつきには、はれてお出になることができたはずでございます」

 ええっ。なんですかそれ。

「后にならなきゃ、出られなかったってことですか?」

「王様は、姫様の御身を案じておられるのです。国内にも敵はおりますし、一番安全なところで嵐が去るまでお守り申し上げたいという、そういうお気持ちかと」

 どういうことか、あの人はさっぱり説明してくれませんでしたけど。

 添い寝しろって、そればっかり。

 嵐って、なんのこと?

「落ち着いてお話しできる場所へ参りましょう」

 天気がいい日の昼下がり、ほっぺたもゆるんじゃうくらい気持ちいい風がふいてる。

 やさしい葉陰が足下にゆれる。

 静かな廊下を通り、おばあさんが縫い物をしながらこくりこくりと居眠りをするそばを通り抜けた。

 ながれる時が、止まったみたいに静かだ。

 ここも後宮なの?

 なんだか、のんびり屋敷って名付けたいくらい、なごむ。

 なんだかいい匂いがする。できあがったばかりの料理の匂い、甘い茶の香りが廊にいても鼻をくすぐるほどだった。

 おなかすいてきちゃった。


「参られました」

 案内してくれた女官さんが、とある部屋の前でこう言った。

 すると、とつぜん、すぱあん! と戸が開いた。

 そして、いっぺんに大勢の女の子たちが顔を出した。

「待ちくたびれちゃったぁ!」

「大丈夫だった? 見張りに気づかれなかった?」

「平気よ、あそこの女官は買収したから」

「ばれたら大目玉ね。叱られたーい」

 きゃーきゃー! って。

 うっさい!

 うっさいってば!

「この人がクム・セナ? 戦巫女?」

「もっとごっついかと思ってた。ほそーい。あ、でも腕かっちかち!」

 すっごい声に、耳がきいんってなる。

 腕をひっぱられ、部屋に引きずり込まれる。

 あ、やめてください。へんなとこさわらないで!

 ひいっ! やめて(泣)。

 これ、ワナだったの?

 助けて。

「そこ、遊ばない。こっちこっち、はやく」

 円卓のうえには、料理がいっぱい。

 椅子をいっぱい運んできて、私を取り囲む女の人たち。


 なんか、懐かしい。

 私のいたグループは、まあ、はっきり言って一匹狼がときに情報交換するっていう、ゆるいつきあいだったんだよね。

 いっつも一緒ってわけじゃなく。ときどきガーっと盛り上がる感じ。

 なんか、すっごく懐かしい、このノリ。

 後宮って、思ってたのとちがう。

 ずっと明るくてあっけらかんとしてるなあ。

 ここが特別ナノデスカ?

 お茶と、まんじゅうと、色とりどりのお餅。揚げ菓子。

 これ、お菓子パーティじゃありません?

 ご、ご招待されたと思っていい、のかな?

 みんなで料理をつっついて、さっそく話が盛り上がって、泣いたり笑ったりしてる。

 誰かがお茶をついでくれた。

 湯気の立つ茶碗をじいっとみて、思わずためらっちゃう。

 毒とか、入ってませんよね?

 後宮ものでは、権謀術数ひとをあざむく はかりごとと、なんと言ってもぽいずぅんが欠かせない。

「毒を盛るなら、もっとこっそりいたします」

 正面に座った女の人が、ほほえんだ。

 落ち着いた大人の女性。

 ほかのみなさんに比べて、身につけてるものがシンプルですね。

「もしご心配なら、毒味でもいたしましょうか」

「いいえ、いえ。いただきます」

 えいっ。飲んでやる。

 ごくり。

「あ、おいしい、です」

 しぶみのあるお茶を濃くだして、香りのよい花茶を混ぜてある。

 一番好きなお茶だ。

 よくジャンミさんがいれてくれた。

御酒守みきもりの頭領に頼まれました。くれぐれも、セナ様をよろしくたのむと」

「そうですか」

 ありがたい。

 でも、ちょっとさびしさ思い出しちゃった。

「女官の姿までさせてしまって、ごめんなさい」

 正面に座ったシンプルシックな女の人。

「あのう」

「わたくしは、アッタルともうします。アッタと呼んでくださいな。突然で、驚かれたでしょうね。わたくしたちは、みな、王様の身内です」

 身内。

「奥様ってこと、ですよね」

 アッタさん、なんかどこかで会ったような気がする。

 栗色のふわふわの髪を肩に流して、小首をかしげて笑うところとか。

 なーんか見覚えあるんだよね。

「奥ではありません」

 みんな、なんで笑いをこらえてるんですか。

 私、なんかヘンなこと言いましたか?

「わたくしたちは、王様の姉妹なのですよ、セナ様」

 はあ。

 きょうだい、しまい、の姉妹?

 アッタさんは、にっこりと笑った。

「つまり、あなたの未来の小姑こじゅうとということですの」


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