そ こ は。私のネドコなんですけど。
そういえば、ゆうべも来ました、ワヌ・シン。
一日目の晩は、ほんとに来たのかどうか、わかんない。
ただ、朝起きたら枕元に、メモがおいてあった。
毛筆。
これ、漢字に似てるなあ。
読めないから、しまっておいた。
ていうか、勝手に部屋に入るって。(怒)
二日目の晩。
私が寝ようとベッドに足を入れたときに、ワヌ・シンがきた。
だよね?
ぱっと見、わかりませんでした。
はじめて会ったときは、ありふれた古着姿だった。
どこのお兄さんかと思ったけど。
これ、王様ファッションじゃないですか。
黒い着物の肩あたりに、ロウソクの火がぼわあっとあたって光ってる。絹です。しっかり着込まないで、少し崩したのを見ちゃった。
あー見ちゃった。
後ろでひとつに結んだ髪の毛をほどくと、なんか印象変わる。
仕事終わりにネクタイゆるめるサラリーマンってこんなカンジかも。
ちゃんと仕事してきたんだね。
王様だから、いろいろするべきことがあるんだろうな。
ちょっと見直したかなあ。
「悪いな。ゆうべはあんたの寝顔しか見れなんだ」
見なくていいです。
「これ、なんて書いてあるんですか」
紙をみせると、うれしそうに笑った。
「つぎは、あんたの瞳がみたい、と書いた」
はあ?
「寝顔もいいが、あんたは起きてものを言うときがおもしろいからな。すぐにころころ表情をかえる。笑える」
むっとすると、ワヌ・シンは私の手から紙を取り上げた。
「散歩は楽しめたか」
後宮で迷ったことを、知ってた。
「あいつが忍んできたって? 厚かましい男だな」
おかしそうに笑ってたけど、なんか、ひきつってた。
「ぼうっとして、何を考えてた、セナ」
「マンガを返してください」
「これのことか」
胸元から取り出した単行本。ぺらぺらとめくるのが憎らしい。
「この言葉、どこかで見た気がするんだが。画と文字が一緒に書いてある。画期的だな」
「あの、やっぱり、見せてくれないの?」
眉をあげると、ワヌ・シンは単行本で私の頭をぽんっとたたき、ベッドに横になった。
そ こ は。私のネドコなんですけど。
「これをどこで拾ったか、知りたくないのか?」
「どこですか」
腕組みしてけんか腰だ。どうせ、教えてくれないんでしょ。
「秘苑だよ」
ベッドにさあ、長々寝そべって、手招きするんですけど、この人。
行きまっせん、ぜったい。
「おれの爺さまが、サトのために整えた離宮さ。そこで、見つけた」
「どうして?」
「さあな。おい、はだしじゃ冷えるぞ。こっちに来るなら、マンガとやら見せてやってもいい」
「やです」
「来いったら」
ワヌ・シンはじれったそうに言った。
「おーい、おい、結納の酒を醸したんだろ。王様、つまりおれのために。ありがたく頂戴するから、あんたも腹をくくれ」
くくれるかい。
いつのまにかクチビルを五回も無断でうばう人のそばになんか、行けません。いつのまにか貞操までうばわれかねませんから。
「仕方がない。じゃあ、こうしよう」
なんですか。
「添い寝だけ。それだけだから」
やです!




