のんきに傍観してたい
保管庫を出たら、向こうの木の下に副隊長さんがいるのを見つけた。
知らないふりするのも、不自然。
頭を下げると、副隊長さんは片頬だけゆがめて、で笑った。
「あの、副隊長さん」
「ハナとお呼びください」
「ハナさん」
「さんは無用です」
「あ、はい。わかりました、ハナ」
なんか、きまずい。
納得はしてない感じ。
「昨晩はどうも」
なにこれ。どういう意味。
饅頭騒動を忘れてねえだろうな、ってクギさされたの?
それとも、クム・セナお姉さんじゃないんです、って言ったことがやっぱり納得できなかった?
「ど、どう、どうも」
片手を振ってみる。
「聞きたいことが、いくつか」
一歩、近づいてくる。
ので、一歩下がりました。
「あなたがクム・セナでないというのなら、クム・セナはどこにいるのですか」
「わ、わかりません。私のなかで眠ってるって、本当かどうかはわからないけど。私は、天門を通ってきました。あの日」
「あの日?」
「王様をお守りするって、お姉さんが、クム・セナさんが、心に決めた日です。大妃さんに反抗した日」
副隊長さんの顔つきがこわくなった。
ふだんから不機嫌そうで、なんかヘンなことしたらごつっとやられそうなのに。もうとんでもない。
泣きそう。
「あの日、あなたに何があったんです。どんな天啓があったって。おれは、信じませんよ。天だのなんだの、一切、信じません。でも」
また一歩、近づいてくる。
ので、もう一歩、下がりました。
「おれはあなたが死んだのを、たしかにこの目で見ました。天帝だというふざけた男が、あなたと一緒にかききえてしまうところも」
うお。
後退する余地がありません!
「またいつ消えてしまうか、わからぬ。そう思うと、いても立ってもいられない。おれが心配で心配で、狂いそうだったことなんて、たぶんどうでもいいんでしょう」
「いいいえ」
すごく緊張する。
木に背中をくっつけて、できるかぎり顔をそむける。
「髪が伸びましたね」
ちいさな声だった。
「もう、消えませんか。何も言わずに」
「はい。たぶん」
「たぶん?」
「きっと」
「きっと?」
「はい。消えません」
おそるおそる、見上げると、ハナさんは目をそらした。
そして、すっと離れた。
なんだろう。
胸が苦しい。
きっとこれは、二日酔いってやつじゃないかな?
お父さんも、飲んだ次の日は、すっごく苦しんでるし。
きっとそうだ。
「信じられるか、副隊長」
そこへ現れた、厦王、ワヌ・シン。
もうこの人は呼び捨てでいいと思います。
ハナさんの肩を腕でつついた。
「この女は、おれの許嫁でありながら、おまえの求婚にも承知したということか。ゆゆしきことだな」
ハナさんは声もなく笑った。
「許嫁。大昔の口約束のことですね。それがどうしたと」
なんかね。副隊長さんも、けっこう黙ってないタイプなんだな。
二人の男に言い寄られるお姉さん。
いいな。うらやましい。
のんきに傍観してたい。
お姉さんは、なんか色恋のことにうとい感じだったもんな。
いろいろおいしいところを捨てているっていうか。
お話的に、そこは断然、「好きです」でしょお! っていうところで、「お守りします」って敬礼しちゃうんだもん。




