プチプチのエア包装紙みたいなホウヨウ
「待て」
って言われて、待つ人がいますか。
なんだこれ。
なんだって。
お姉さん、足はや。
あの人は追いかけてこられない。
ざまあみろってんだ。
もう、サイアクだ。
走って走って、誰もいないところへ来たかったのに。
いる。
小さい滝が流れ落ちる沢のほとり、あれ。誰。
ここは、竜の人でもあんまりこない場所なんだけど。
「隊長」
これは、どきん、じゃなくって、ぎくりってやつかな。
会わないといけない人。
お姉さんのことを、すごく心配してるだろう人。
「副隊長、さん?」
踏み石をわたって、くる。
ちっちゃい石なのに、すごいね。さすが。
竜の人はね。馬のひづめににた前足と、鳥の足をものすごくごっつくした感じの後ろ足を二本持ってる。
ここは、ほっそい前足を使ってわたる場所だから、踏み石ちっちゃいうえに、とがってる。
私なんかはつまさき立ちでも難しいから、いつもひざまで水に浸かってむこうのほこらに行くんだけど。
「まことに、隊長ですか?」
ハナ副隊長さん、私のすぐ目の前に立った。
「なんで」
ここにいるんですか?
副隊長さん、こわばってる、顔。
「厦の王と会いましたか」
久しぶりに見た二本足のイケメン。
あの人、本当に王様だったんだ?
「ほかの者は国に返しました。任務は終わりましたので」
じいっと見下ろされて、緊張する!
「ご、ごご、ご苦労様です」
ここは、なんて言ったらいい?
お姉さんじゃ、ありません。
たしかに、クム・セナお姉さんの体はここにありますが、心はここにあらず、で。
私はサトウ・セナと申すぅ。ええとぉ、高校生でありまして。
すいません。あなたの隊長じゃないんです。って?
あっ。
もうどれくらいたったんだろう?
私がここに来てから、季節は一巡りした。
それだけ、長い時間がたったんだ。
竜の人となじんでる間に、外の世界で何が起こってるのか、あえて考えないようにしてきたんだ。
これって、すごくずるいことだったんじゃないのかな?
自分だけ安全な場所で、守られて。
日々の仕事。お酒造りにせいを出す日々は、とっても平和。
それに、楽しかった。
いろいろ考える前に、体はくたくたになって、いっつも熟睡。
外へ出ようともしなかった。
「ごめんなさい!」
謝ろう。謝らないと。
唇かみしめてると、副隊長さんは私を抱きしめた。
そうっと、こわれものをつつむ、プチプチのエア包装紙みたいに、ふわっと。
「半信半疑でした。あの怪しい男、天の人ですが。約束通り、あなたを地上に返されたと思うてよいですね」
男の人に抱きしめられるなんて、はじめて。
お父さんは親御さんだから。
別。カウントに入りません。
胸がどっ、どっって鳴ってる。
苦しい。
「この十日あまり。生きた心地もしませんでしたよ」
はあ。十日?
胸を押して、離れると、私は深呼吸をした。
「待って。タイムです、副隊長さん」
けげんそうに見てる。
でもさ。
「十日、ですか」
行方不明になっていたのは、そんなもんだったの?
「そんなもん、ではない」
副隊長さん、顔をしかめる。でも、ほっとしたみたいに肩をすくめた。
「おれがどれだけ」
それから、はっとしたように息をのんだ。
「竜の人の里は、天と地のあわいにあるという。時の流れは地上とは異なると。あなたは、ここにどれほどおられるんです」
一年。というと、副隊長さん、深くため息をはいた。
「なんという。一年ですって?」




