あんたのダンナになる男だ
お酒ができた。
無事にできたよ、すっごい。
はらんだ。はらんだ。
そういって、みんなが踊る。
竜の人は、とっても明るい。
くよくよ悩んだりしない。
それに、みんなすごく、仲がいい。
べたべたするんじゃなくて。
なんていうのかなあ。
あなたはあなた、ワタシはワタシで。
ちがうところを、大事にしてる。
私のことも、なんか「ふしぎなやつだな」って言いながら目をかけてくれるんだよね。
ふしぎだなあ。
なんで、私、ここにいるんだろ。
どうして、私なんだろうね。
クム・セナお姉さんの「はんぶん」だって言われて、そのうえお姉さんの体に入っちゃったり、今なんか、竜の人たちにもまれるみたいに踊ってる。なんか、踊らされてるっていうか。
ちょ、ちょっと。
まってください!
そんなにワッショイしないで!
キモチワルイ。タンマぁ!
ちょっと、くたびれました。
踊りの輪を離れて、ぼうっとしてた。
つがれたお酒いっぱい飲んだからかな。
なんだかくらくら、涙が出てくる。
べつにさ、悲しくないのに、なんでかな。
丸太を組んでやぐらを仕立て、炎が高く高く夜空をこがしてる。
私、どうしたらいいんだろ。
今まで、考えてみたら自分で何かを選んだことなんてなかったよ。
選ばされたこともなかった。
道はだいたいひとつきり、選ぶまでもなかった。
高校受験だって、本音はね、どうでもよかった。
やりたいことなんかわかんないし。
ただ、確実に入れるとこを選んだだけ。
選んだっていえないでしょ?
切実さもないし、受かったからって、嬉しさなんてのもない。
私には、自分の家があった。
家族がいた。
おなかが減って死ぬ思いをしたこともないし、誰かにひどく憎まれたりいじめられたこともない。
あー、選ばなくても、生きてこられたんだな。
そう思った。
お姉さんの世界は、私の世界とはちがう。
選ばなきゃ、いけない。
選ぶ道をまちがったら、もしかして死ぬまで後悔するかもしれない。
こんな世界で、私は生きてける?
だめ、むりっぽい。
私さ、お姉さんみたいに強くないもん。
頭の上に、かすかな重み。
また、ジャンミさんのしっぽ。
もう。私の頭は、しっぽ置き場じゃないんですからね。
ぽんぽん。
なでられてるみたい。
涙がこぼれた。
お姉さん。
ねえ、クム・セナお姉さん。
私、どうしたらいいんですか。
1結納のお酒もできあがったことだし、未来のだんなさまと結婚
2結婚は無理ですって、辞退する(でもそのあとどうする?)
3お家に帰りたい
3ばん。
しみじみと家が恋しい。
「泣いてるのか。おい」
私は、うなずいた。
「お母さんにあいたい」
「熟れた女が、なにを乳くさいことを」
だ、だれですか。ジャンミさんじゃない。
「頭領は、あんたをずいぶんかっているようだな」
だれですかって、聞いてるんです。
「たしかに、酒はうまかった。さっぱりしていて、でも、甘い。しつこくなくて、まあまあ、うまい」
月の光がさしてきて、隣に立った人の顔を照らし出した。
わ、カコイイ。
笑った顔が、爽やかで、甘い。
でも。はああ。
どうせ下半身は竜なんでしょ。
「竜の人は嫌か?」
いやいやいや。
「好きか嫌いかじゃありません。二本足でも三本足でも、どっちでも同じだと思ってるところが、なんだか腹立つんです」
二本足で立つの疲れるからって、三本目の足ですねをかいてるのを見たりすると、ちょっといやだなあって。
「おれは、いかなるときも二本足だが。どうだ」
どうだって。いわれても。
くつをはいたまま寝ますか?
寝ないでしょ。
楽なかっこうが、生き物の本性だと思います。
竜の人たちを見てると、しみじみそう思います。
いいんですよ、無理しなくったって。
「祖先は竜だが、二百年前に一度竜女を妻としたきり。おれのうちに流れる竜の血は、ずいぶん薄い。だからこそ、頭領の酒がいる」
「へえ、はあ。そっすか」
「おい、信じろ。おれは二本足だ」
「あなた、誰ですか?」
胸を張る。二本足ねえ。ほんとかな?
「厦王。あんたのダンナになる男だぞ」




