イケメンだって、下半身が竜だったらいやじゃないですか。
確認。
ここは、お姉さんの夢の世界じゃない。
天国でもないし、地獄でもない。
お姉さんの国、儷は、この里のずっとずっと南方にあるんだって。お姉さんが行こうとしてた、厦は、この里の北にある。
すぐ行けるよ、って、やんちゃな若い衆(百歳はこえてるけど、若い衆)が言うんだけど、人の足では十日はかかるみたいだ。
ハナ副隊長さんは、きっと心配してるだろうな。
お姉さんのこと、探してるんじゃないかな。
そもそも。
この世界は、どうなってるんだろう。
人間だけじゃない、竜の人もいる。
ほかにも、小耳に挟んだところによると、昔話に出てきそうな魑魅魍魎、妖怪(っていったら、叱られた)のみなさんが暮らしてるみたい。
「取引するときは、あちらさんに合わせて衣を着替えるのさ」
長老のジャンミさんが、笑った。
指を鳴らすとかなんかすると、背の高い美女があらわれた。
わあ。
ちょこっと若返りましたね。あと二本足だし。
鼻の下に長いひげがありますけど。惜しい。
竜の人は、人間たちのそばにはいるものの、親しく交わることはない。洞の中に住処をつくり、山の気を食う。鬼、と人間たちはそう呼ぶ。鬼と人間は、ときには酒を酌み交わすこともある。お互いに、奇妙な隣人といったところ。
ジャンミさんが歩くと、泥水にはった薄氷がみるみるうちに溶け、小さな花が咲き出した。
野の獣がみな顔を出す。鹿や猪、狼が頭を下げて、なでられるのを待っている。芽吹いた木の枝から足をすべらせたリスをてのひらで受け止める。
リスをそっと放してやると、ジャンミさんは目を細めた。
「天帝様からおまえさんの話は聞いている。くれぐれも、セナを頼むと仰せになった。この世は、いささか陰に傾きすぎた。それをおまえさんがただすんだよ。おまえさんの結婚によって」
いろいろと、つっこみたいんです。
でも、どこから切り込んでいいか、わからない。
それで、黙っちゃう。
「あー、うー。け、けけ結婚は好きな人とっていうのが」
ジャンミさんは、私をにらんだ。
「そんなもん。同衾すりゃ好きになるよ」
ドーキンって何。
結婚したら好きなるってこと。
うーん、疑問。そんな器用なことできるかな?
たとえば、条件がよくったって、顔がどうしても好みじゃないとか。
イケメンだって、下半身が竜だったらいやじゃないですか。
「これだから、巫女だとか娘っこは」
ジャンミさん、人差し指で、私のおでこをつつく。
「ようは、慣れだ。一緒に暮らせば、奇妙な癖だってふつうのことになるさ。竜も虎も、頼りになる夫と思える」
はあ。そうでしょうか。
あと。この体はお姉さんのです。
勝手にいろいろ、そのう。
まずいじゃないですか。
「クム・セナ姫は、眠ってる。おまえさんの中で、いまは休ませておやり。目覚めたとき、姫様がどうするかは、姫様がきめるだろう」
そ、それでいいんですか?
「おまえさんと姫様は、もとは一つのたましいだ。心ひかれるものも、そう大きくは違うまい。心配しないでいい」
本当?
いや、まずいでしょ。まずいまずい。
まずいでしょうがよう。




