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結納の酒を仕込んでます。


 今宵は、特別の晩、だそうです。


 ひとつだって、空に星は見えない。

 つめたく輝いている月だけが、私を見てる。

 深く深~く息を吸い込んだ。

 お腹のうちに、月の気が満ちるように。

 そういうイメージ。


 じいっと目を閉じていると、だんだんと月と自分の境界があやふやになってくる。紙にしみこんだ水が繊維をほどいてふやかすみたいに。

 私もほどけて、月の光にとけるかも。ってくらい。

「なかなかよい具合だねえ」

 甲高い声が耳に届いた。頭にずっしりと何かがのっかる。

 私の頭は、しっぽを置く台じゃないんですけど。

 邪魔したいのか、なんなのか。

 黙ってみているということを、お年寄りはどうも手抜きと感じるらしいけど。こっちにとっては大迷惑。

「セナや。集中しな。くれぐれも、そのまま集中集中。まだまだ桶はからっぽだよ」

「わかってます」

 目を閉じたまま言い返した。

 ほんと、うっさい。

「もう、黙っててください。キレますからね。コンチクショウ」

「これ、セナ」

 怖い声出しちゃってさ。

 ダメなの。じゃあ、どうするんです。

「私を食べちゃいますか。いいですよ、いっそそうしちゃってください」

「食べるかよ。まずそう」

「まずぅ?」

「あたしは、果物しか食わない。それと、酒。やけになるなよ。姫様の眠りを覚ましたければ、言うとおりにするしかないんだからさ」

 この人、ジャンミさん。

 いや、人じゃないや。竜の人って呼べって。

 上半身、人間。下半身、竜。

 ケンタ、なんとかは、上半身人間で、下半身が馬だったよね。

 それの、竜バージョン。

 住人みんな、竜の人。ワオ。

 超かっこいい人も、下半身は竜。

 このがっかり感。

 たとえば、御年二百五十歳の、トキ。

 とてつもなく年上だけど、トキって呼んでくれという気さくな竜の人。

 お肌はぴかぴかで、色白で、目は大きくて、笑うとすごくかわいい。

 だけど、下半身は、は虫類系なんです。

 

 もう。


 がっかりだよ!


「その言葉、そっくりあんたに返す」


 って言われたけど。心の声が漏れてた。ごめんなさい。


 私はここで、唯一の「ただの」人間。

 二本足がぶかっこうだって。

 こっそり気の毒がられてることを知ってる。

 たしかにね、竜の足は一っ飛びで五十メートルくらい飛べるのがふつう。険しい断崖とかも、がつがつ登れる。しっぽは第三の手みたいに自由に動かせるし、いいことずくめなのですよね。


 さて、竜の人たちが、月夜の晩。

 私をぐるっと取り囲んで、みつめてる。

 これ、どういう状況か。

 手短に言うと。

 頭領娘(ジャンミさんの養女になった。私のこと。マジです)の結婚話が持ち上がってます。

 で、結納の酒を仕込んでます。

 花嫁になる人は、月の気を酒に注ぐのです。

 これを、ハラませる、っていう。

 はい。なんのことやら、さっぱりわかんない。ですね。

 王様の御酒守みきもりって仕事を生業なりわいとする方々の暮らす里に、私は落っこちました。

 里の若い衆によると、大事なお酒のたるの中に、ぼっちゃん、と落っこちたんだって。

 oh! 酒。飲んじゃったよ、ほんと、たらふく飲みました。

 死ぬかと思った。ほんと。

 藁のベッドで目が覚めて、気づいたら。

 クム・セナお姉さんの体の中にいた。

 頭がんがん。うおええええ。

 そんな中、水に映して、確認しました。

 お姉さん。

 お姉さんはどこに行ったのって。

 そういう話です。


 お姉さん、お願い。カムバック(号泣)。

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