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すべてが壊れてしまえばいい

 悲鳴。

 何かがぶつかり合う音。おもったい金属のかち合うような。

 ヤカン打ち鳴らすのとはレベルがちがう。

 それから、うめき声。

 うわっ!

 耳元で、怒鳴り声。

「逃がすな」とか「追え、追えい」系の。

 や、これは既視感がありまくりだ。

 ドラマやなんやらで、ありふれた光景だ。

 まるで、自分が追われてるみたいに、ドキドキする。

 

 一生のうち、ドラマチックに追われる身になるって、何人いるだろう。少なくとも、現代の日本じゃ、ほとんどいないだろうね。

 風を切る音がして、どっ! と足下に刺さったものがある。

 矢、だ。

 夢だからね、夢。

 お姉さん言ったでしょう、夢だって。

 待ってください、お姉さん。

 どこ行くの?

 燃えさかる家。ばっちばち、火の粉が飛んでくる。

 倒れた男の人を、大勢が取り囲んでる。

 足踏みをする。

 何かを待ちわびてるみたいだ。

 お姉さん。

 夢の中のお姉さんが、進み出た。

 そして、はいつくばった男の人の胸に。

 剣を深々と突き刺した。


 体がふるえ出す。私はしゃがみこんだ。 

 理解不能だ。

 なんで、殺すの。

 わかった! あの人は、悪い人なんだ。

 だから、お姉さんはやっつけたんですよね。

 そうですよね。

 あの人は、死ななきゃならないようなこと、したんでしょ?

「いいや。殺されて当然など、だれにも決められまい」



 剣を引き抜いた「お姉さん」は、無表情だった。

 剣を捨て、歩き去る。

 そのあとを、ハナ副隊長さんは追わなかった。

 死んだ男の人を、じいっと見下ろしていた。



「ハナの父だ。知らなかった」

 うそでしょう。

「まことのことだ」

 副隊長さん。

 うつむいてる。

 顔をあげたら、どんな表情をしてるの。

 泣いてるのか。それとも、怒っているのか。

「ハナは、責めぬ。一言も」

 お姉さんはつぶやくように言った。

「操り人形よりも、まだ醜い。わたしには、心を痛めることなど許されぬのに」

 お姉さん。

 泣かないでください。

 泣くんなら、涙とか涙とか、流してください。

 そうじゃないと、ストレス物質が、外に流れていかないんですから。

 ねっ!

「すと、れす」

 ほんの少し、お姉さんはほほえんだ。

 疲れたような笑顔だった。

「すべてが壊れてしまえばいいと願った。なにもかもが、砕けて消えてしまえばいいと、そう思っただけだ。わたしは、消えてしまいたかった」

 お姉さんは、私をみつめた。

「奪ったものを、もとどおりに返すことはできぬ。でも、もしできるのなら」

 え、なんですか。

「つぐなえるだろうか、彼のように」

 つぐない? 彼?

「わたしの望みは、ただひとつ」

「わたしは、オレマンのようになりたい」

 はあ。

 なんで、ここで、「オレマン!」でてきた?

 


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