8話。 出来た話。
セブリオン家の裏庭は、ここ数日、近所から「怪しい儀式でも始めたのか」と勘繰られるほどの熱気に包まれていた。
今日は店も休みなので俺も手伝いで駆り出されている。
さぞ、怪しい儀式にディティールが加えられていた事だろう。
「リオ! これでいいのか!?
父さん、もおぉ腕がぁ!!」
「父さん、回転を止めないで!
ムラがあるみたい。
あと5分かな、右回しで粘りが出るまで!」
俺は大鍋の横で、スキル「解析」をフル稼働させていた。
視界には、ドロドロとした灰汁とスライムオイルの混合液の上に、無機質な進捗バーが浮かんでいる。
【対象:鹸化反応(大規模試作)】
・反応率:88%……92%……
・攪拌精度:B(やや速度低下を検知)
・アラート:液温が42度まで低下。微火で加熱を維持せよ。
この仕様書通りに物質が変化していく工程は、「解析」スキル様々だ、神スキル過ぎるだろこんなの。
チートやチート。
「よし、粘り気を確認!
父さん、型に流し込んで!」
「おうよ!」
テオが渾身の力で大鍋を傾け、マーサが丁寧に用意した木型へとデロっとした液体が注がれていく。
ここで俺はすかさず「鑑定」を叩き込む。
【対象:セブリオン特製・試作ソープ(ラベンダー配合)】
・品質:☆☆
・香り:☆☆
・総評:★汚れ落ちは抜群。だが、型から抜く際に角が欠ける恐れあり。★
★木型に薄く油を塗るか、底が抜ける構造に改良すべき。★
そうか、そんな工夫があるのね。
「父さん、次は型に油を塗ってから流そう。
固まった後に型から取れやすくなるらしい。
あと、出来ればなんだけど、この型の底が抜けるように作り直せたりする?」
テオは大きめの革製手袋を脱ぎながら俺の話に真剣に耳を傾ける。
「なるほどな、底が抜けるか、すぐ思いつくのは・・・パカっか、スルっか?
どっちがいいか、、、。
どっちも作るか!!
すぐにやる!」
テオは何やら手を胸の前で動かしながら思考錯誤しているらしい。
商才もさる事ながらそういった専門外の事にも頭が回るなんて、本当に凄い父親だ。
しかし、この「解析」で作って「鑑定」で修正する異世界物作り、効率が良すぎて笑いが止まりませんなぁ。
後は出来上がりを待つだけか。
数日後。
風通しの良い日陰で乾燥させたそれがついに完成した。
見た目は少し黄色みがかった、手のひらサイズの四角い塊。
現代日本なら100円ショップの片隅にありそうな代物だが、この世界では歴史を塗り替える魔法の塊だ。
「よし、実験台・・・嫌、父さん。
その真っ黒な手を出して。」
テオの手は、日々の仕事で煤と油が染み込み、水で洗ったくらいでは落ちない職人の汚れに覆われていた。
俺は井戸から汲んだ水でテオの手を濡らし、そこに石鹸を擦り付ける。
「リオ!!
いきなり?
そのままなのか?
え、危なくないのか?
スライムの油だぞ!
え、、え〜」
自分で作っといて今更だぞテオ氏。
「いいから、手を擦り合わせてみて。」
テオが半信半疑で拝むように手を合わせ真ん中に石鹸を挟むとそのままスリスリと揉み込む。
その瞬間、三人の時間が止まった。
「・・・なんだこれ?
白い・・・泡、か?」
真っ黒だったテオの手の隙間から、見たこともないほどキメ細やかな、雪のような泡が溢れ出したのだ。
この世界に、泡立つ洗浄剤なんて概念はほぼ存在しない。
テオはおっかなびっくりその泡を広げ、最後に桶の水で一気に流した。
「・・・まさか・・・嘘だろ。」
そこには、煤一つ残っていない、本来の肌色をしたテオの手があった。
マーサが震える指先でその手に触れる。
「・・・信じられない。
油の嫌な匂いも消えて、ラベンダーの香りがする。
リオ、これ・・・これなら街の皮膚病や感染症が、半分、いえ、それ以下になるわ。」
薬師としての本能か、マーサの目には涙が浮かんでいた。
テオは自分の手を何度も握り締め確認すると、俺の頭をこれでもかとがしがしと撫で回した。
「やったなリオ! これは「魔法の薬」だ。
いや、それ以上だ!」
「うん!大成功だね!!!」
俺はガッツポーズを作った。
「バンザーイ!!
バンザーイ!!!
バンザーイ!!!!」
そして万歳三唱を行う。
二人もその行為を知らないながらも、俺につられて万歳三唱をやり始めた。
家族の熱量が加わった大プロジェクトは大成功に終わった。
「よし……あとは、量産体制を整えて、使い方の実践の流布、それは教会に任せるか、待てよ、だったら作るのも教会に任せた方が、、、、。
まぁ、目先のやるべき事としてはこれをあの広告塔に渡す・・・・だな。」
俺は完成したばかりの石鹸を一つ、大切に布で包んだ。
不衛生なこの街に、清潔という名の爆弾を投下してやる!!
「レビュアー」
本領発揮は、ここからだ!!




