7話。 ラベル君の話。
石鹸の製法を羊皮紙に清書した翌日。
というか、蝋版はペン、嫌、棒だな、それでグニグニ書くというより削る感じが正解かな、、。
修正を前提で気楽に書けるけど。
羽ペン、あれを使って高価な羊皮紙に文字を書くなんて、10歳の子供には流石になぁ。
使い慣れてないとインクの量の調節もままならないし。
緊張してブルブル震えながらインク壺の中でペン先をチョンチョンした時点で止めに入るテオの気持ちもわからないでもないが、だったら最初からやらせるなという話だ。
親バカにも程があるだろ。
結局、口述筆記という感じでテオに書き記してもらったが納得のいかない部分がある。
二人はそれを元に裏庭で化学実験でも始めるかの様な準備を始め、やれ大鍋、灰はどうたらと東奔西走していた。
俺はといえば、テオの言いつけ通り店番だ。
「いらっしゃいませー」
自動ドアも何もない木の扉が勢い良く開き、チリンチリンとベルが鳴る。
入ってきたのは、見慣れた短槍を背負った冒険者ラベル君だった。
「よう、リオ! 今日も精が出るな!」
「あ、ラベルさん。
お陰様で店が賑わってますよ。昨日もビッグボア狩だったんですか?
成果は?」
最初は人見知りしていたのか、何処となく挙動不審気味だったラベル君だが、何度か店に顔を出してくれていて、こちらから声をかける事も多くなり、自然と会話が出来るまでの間柄になった。
実際、彼は裏表無い、性格の爽やかな好青年なので俺の好感度も高い。
実際に短髪のイケメンで、短槍を背負う様もしっくりくるスタイルの持ち主なのだ。
俺が水を向けると、ラベル君は照れくさそうに頭をポリポリとかきながら逆の手で4本指を立てた。
「お、、、おおぉ、すげぇ。」
まさかの数にあっけに取られてしまった。
実際に凄いのだ、並の冒険者で一日に狩れる数は2匹、良くて3匹。
見つけるのが難しいというのもあるが、討伐するという事はやはり命懸けなのだ。
「ああ、おかげさまでな!
パーティの連中も驚いてたぜ。
・・で、今日はこれの納品に来たんだ」
彼がカウンターに置いたのは、例のドロップ品、スライムオイルが入った革袋だった。
「このスライムの残骸、いつもなら捨てちまうんだが、テオの親父さんに『これからは全部家で買い取るから、納品をお願いできるか?』って今朝仕事に出掛ける前に言われてさ。」
昨日の今朝かよ、確かに朝早く出てったけど、家の父親は仕事デキらしい。
俺は「鑑定」を起動し、ラベル君が持ってきたオイルの状態を確認する。
【スライムオイル(ラベル・エンケ採取)】
・純度:☆☆☆
・鮮度:☆☆
・総評:丁寧に採取されている。不純物が少なく、助燃剤や石鹸の原料として優秀。
その結果に自然と俺の口元がニヤける。
「・・・うん、バッチリです。ラベルさん、採取が上手ですね」
「へへ、そうか? まあ、これからはこれも金になると思えば、丁寧に扱うさ」
俺が適正価格(より、ちょっと気持ち多め)で精算すると、ラベル君はホクホク顔でそれを手に取り無造作に腰についてるポシェットにしまった。
ラベル君・・・そういうガサツな所は関心しないなぁいつか騙されるぞ。
「・・・あ、そうだリオ。これ、内緒だぞ?」
ラベル君は店内を見回すとカウンターに身を乗り出し、声を潜めて言った。
「実はさ、昨日その・・・気になってる女の子に『最近、身なりが小綺麗にりましたね』って褒められたんだ。
依頼がスムーズにこなせるようになって、心に余裕ができたせいかな?」
俺は思わずニヤリとした。
「へぇー、良かったですね。
でも、ラベルさん。
もう少ししたら、もっとその人に褒められるような『いい物』が店に並びますよ。」
「えっ、本当か!?
装備か?
それとも魔法の薬か何かか?」
魔法の薬っていうのは流石に引くわ。
「それは内緒です。楽しみにしててください。」
【鑑定:ラベル・エンケ】
・幸福度:☆☆☆
・恋愛運:上昇中(ただし、まだ『清潔感』が足りない)
・総評:石鹸の最初の男性のテスターとして最適。
彼の口コミは、街の女性層にも届く可能性がある。
「じゃあな、リオ! またオイル溜まったら持ってくるぜ!」
意気揚々と店を出ていくラベル君の後ろ姿を見送りながら、俺は確信した。
またな、家の広告塔。




