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『異世界職能レビュアー』 ~元・管理職のおっさん、鑑定スキルで有望株を「青田買い」して、最強の快適生活をプロデュースする~  作者: レイフォン


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4話。 役割の話。

あの日から数ヶ月が過ぎた。

俺は生きる事、学ぶ事で忙しくこの世界での日々を過ごしていた。


前世からすれば生活レベルは格段に落ちるが、それでもあまりある気持ちの充実感というのだろうか、毎日が発見の連続で楽しかった。

まあ、毎日というのは自分でも多少盛り過ぎだとは思うが。

概ね良好な日々を過ごしていると思う。


カーン、カーン。

と教会の鐘が時間を知らせる。

朝の支度を終え、教会の音が九つ鳴れば店を開ける準備だ。


俺の職業が「レビュアー」という得体の知れない物になった事で、父、テオから商人の勉強をしないかという誘いを受けた。


戦闘職に向かない職業というのはステータスのスキル欄を見れば理解出来た。


スキル欄には「鑑定 1」という3文字。

戦闘職であればここに、「身体強化」なり「シールドバッシュ」なり、厨二心をくすぐるワードが掲載されるらしい。

しかし、運がいいのか悪いのか、「鑑定」というスキルは商人を生業とする人間であれば喉から手が出るほど羨ましいスキルなのだそうだ。

まぁ、かくいう俺の厨二心も舞い踊ったのは言うまでもない。


テオも


「俺の息子は天才だ!!!」


とか何だか言ってたっけな。

親バカが過ぎているとは思ったが、マーサと手を取って小踊りしている様は見ていてまんざらでもなかった。


「エブン」の町は国境に近いため、商隊や旅人そして冒険者の出入りが激しい。うちの店は主に保存食や日用雑貨、安めの武器等を扱っているが、商品の仕入れや検品は、商人としての生命線だ。


「リオ、そこにある干し肉の束、棚に並べておいてくれるか?」

「はーい、父さん」


俺はせっせと手を動かした。

1キロはあるだろうか、子供には重めに感じる肉の束を手に取り並べる。

今だに両親は俺が無理をしていると思っているようだが、半分は正解で、半分は間違いだ。


確かに英雄になれない絶望はリオとしての記憶に刻まれている。

だが、中身である「俺」の方は、別の理由で心臓がバクバクと高鳴っていた。


(……おおすげぇ、、、見える。前よりはっきりと、解説が……)


商品を手に取るたび、「鑑定」と意識すると視界の端に「☆」のマークと解説が浮かび上がるのだ。


【対象:猪肉の燻製】

・保存状態:☆

・味の深み:☆

・総評:中心部にわずかな生っぽさが残る。

再乾燥を行えば問題ない。

ただし塩加減は良いので今すぐ炙って食べるなら星二だが、長期保存には向かない。


「……父さん、この束だけは今日中に安売りしたほうがいいかも。

乾燥があまいみたい。」


テオは俺から干し肉を受け取ると、腰につけていたナイフでそれを割った。


「ああ、本当だ。

よく気づいたなリオ。

危うくお客さんから文句を言われるとこだった。」

テオは驚いた顔をしながら、その束を脇に避けた。


「鑑定」


俺の目には、その物の「真価」と「欠陥」が、前世で使い古したレビューサイトのフォーマットで表示されている。

だが、気になることが一つあった。

評価画面の端、総評のテキストの中に、いくつか「赤字」で書かれた箇所があるのだ。


★『中心部にわずかな生っぽさが残る。

再乾燥を行えば問題無い。』


その赤字の部分を指でなぞろうとしたが、指先が虚空を通り過ぎるだけで何も起きない。

意識しても何も起きなかった。


今の俺には、その赤字部分をどうにかする力はないようだ。

レベルが足りないのか、あるいは別の条件があるのか?


チリンチリンと来客を知らせるベルが鳴る。

客が一人、店に入ってきた。

腰に剣を帯びた、いかにも冒険者という風貌の男だ。

年は若そうだ、成人してそんなに経ってはいない様に見える。


「いらっしゃいませ!!」


俺が元気良く言うと彼は一瞬驚いたかのようにビクッと身体を硬直させる。


「ああ、こんにちわ」


挨拶を返してくるとは、なかなかいい奴らしい。

冒険者の殆ど、というのは言い過ぎだが、彼らは挨拶なんて返してこない、仏頂面でポーションなり、消耗品なりを手に取って会計して出て行く。

前世で接客のバイトしている時に慣れたが、せっかく可愛い顔をした少年が媚を売って接客してるんだから彼のように余裕を持って接してもらいたいものだ。


彼は装備品コーナーに足を進め、一本の安物の鉄剣を手に取り、品定めを始めた。


(……よし、せっかくなので)


俺はカウンター越しに、その男に意識を集中させた。


(鑑定!)


すると、視界に半透明のウィンドウが音もなく滑り込んできた。

【対象:ラベル・エンケ 自称・新米剣士の若者】

・腕力:☆

・集中力:☆☆☆

・相性(所持している鉄剣):☆

・総評:腕力が足りず、その剣の重さに振り回されている。★『推奨武器:短槍』


まただ。

推奨武器のところが赤字になっている。

今の俺にできるのは、ただこの鑑定結果、ここまで詳しいともう「レビュー結果」だな。

それを口頭で伝えることだけだ。

伝えるかどうかは少し迷う所ではあるが、それでいい奴の生存確率が上がるんだったら選択肢は一つだな。


俺はトコトコと商品の陳列を直すふりをしながらラベル君に近付いて行く。


「・・・なあこの剣、そんなに変か?」


そんな俺の異常行動に気付いたのかいたたまれなくなったのか、ラベル君の方から俺に声をかけてきた。


「あ、いえ。……お兄さん、もしかして最近、剣を振ると手首が痛くなりませんか?」


俺の問いかけに、ラベル君は目を見開いて、右手首をさする。


「なっ……なんでそれを。

まぁ・・・ああ。

昨日もそれで獲物を取り逃がしちまうとこだったんだ。

仲間と協力して依頼自体は達成したんだけどな。」


気恥ずかしそうに、うつむき加減にラベル君は俺に言う。


「おお!!達成おめでとうございます!!」


俺は少し大袈裟気味にパチパチと拍手しながら更にラベル君との距離を縮める。


「でも、多分なんですが、その剣はお兄さんには重すぎるんだと思います。あっちの短槍、一度持って振ってみてください。

多分ですけど、しっくり来るかも知れないです。」


年端も行かない少年に急にそんな事を言われて動揺するのもわかるが、このラベル君、非常に顔に出るタイプのようだ、是非ともギャンブルに手を出すのはやめて頂きたい。


「ああ、でもいいのか?

ここで振っても?」

「はい、問題ありません!!」


今は俺一人だ、何かあっても咎める人間はいない。

それに鑑定結果が確かならそう言う事にはならないだろう。


と信じたい。


半信半疑の顔全開ででラベル君が短槍を手に取る。

試すのはタダなのだ、遠慮がちな性格で色々な武器を試せないのなら、試し易いように勧めてやればいい。


「……軽い。いや、何だこの感じ?

あはは!

いいなこれ!!

これならいける!!!」


ラベル君が短槍を構えた姿が素人目の俺にも目に見えて安定するのがわかった。

彼は無邪気に笑いながら一通り動きを試すとそのまま喜び勇んで短槍を購入し、意気揚々と店を出て行った。


それを見送る俺の胸に、かつてない高揚感が込み上げてくる。

これだ。この感覚。

前世で、俺が書いた口コミで、あまり見向きもされなかった嬢に客がつく、あの万能感。


「役割か、、、。」


俺の役割は、戦うことじゃないのかも知れない。

今は戦う者たちの価値を正しく評価し、その力を最大限に引き出すことだ。


そしていつか、あの「赤字」を自分の意思で・・・


「俺、英雄にはなれないって言ったけど・・。」


俺はカウンターの下で、自分の小さな手を握りしめた。


「・・・レビュアーとして、最強になれるかもしれないな」


前世で不健全な快楽に溶かした情熱が、今、全く別の形となって俺の武器になろうとしていた。

俺の第二の人生。その「役割」の正体に、俺は今、ようやく辿り着いた気がした。

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