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『異世界職能レビュアー』 ~元・管理職のおっさん、鑑定スキルで有望株を「青田買い」して、最強の快適生活をプロデュースする~  作者: レイフォン


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26話。 運命の初対面の話。

「ほら甘いわよ!!

もう腰が浮いているじゃない!

リオ。」

「のわっぷ!?」


容赦のない剣聖の回し蹴りが俺の尻に炸裂する。


ずっさっ!!


昨日、ラベル君とシルヴィアの話に感化された俺は自らの大きな過ちに気付く前にセブリオン家の庭で無様に地面に転がっていた。


「ぺっっぺっ」


口と目の中に入った砂が痛、気持ち悪い。


ラベルさんが俺と出会ってから、ここまでで、少女といえど、最強の職能の一角とされる剣聖をその気にさせる程の本気を見せたのだ。

前世がメダボ気味・・・・、気味ではないか?

中年リーマンの俺だって、最低限、前衛の足を引っ張らない自衛力くらいは身につけておかなければと焦っってしまったのだ

結果、早朝からシルヴィアに稽古をお願いしたわけだが。


「うう・・・かすりもしない・・・。」


かすりもしないは、正直盛った・・と思う。

だが、最低限、男の子、嫌、一人の男として立ち回れることを証明しなければ、メンバーとしての面子が保てない。


「ふふ、悪くないわよ。

12歳の男の子とは、思えないわ。」


シルヴィアの表情からして、褒め言葉じゃないのは確かだ。

でも、悔しいと思う感情すらわいてこない。

彼女からすればこれはただのお遊び、鬼ごっこの延長線位としか考えていないだろう。


彼女に提案されたのは、私に触れる事ができたら、木剣で稽古をつけてあげるというものだった。

ラベル君と狩に出かけるようになって、一角ラビットやヘル・キャタピラーという、二年前なら、避けて通っていたデーモンを余裕で狩れるようになったから、自分も成長していたと、勘違いしていた。

俺なんて、まだ、ただのガキの力しか持ち合わせていない。

当然ながら、剣聖の動きにミリ単位で追いつけるはずもなく、容赦ないシルヴィアの軽やかな蹴りや手刀が俺の尻、腿、背中にはいる。


「おわっ!!」


何度目かの転倒。

咄嗟に受け身を取ろうと、腕を伸ばしたが、タイミングがずれて酷く右腕を擦りむいてしまった。


「っつ!!」

「大丈夫?

リオ!?」

「・・ああ。

はい大丈夫です、これ位舐めておけば。」


その時、ポツ、と冷たいものが頬に当たった。

見上げると、さっきまで曇天だった空から、一気にバケツをひっくり返したような大雨が降り出してきた。


「酷い雨ね。

リオ、今日の朝の稽古はここまでにしましょう。」

「助かっ・・・いえ、残念です、シルヴィア様。」


シルヴィアはその12歳とは思えない美貌を崩して笑うと、少し汗を流して来るわねと家の中に入っていった。


エブンの街があるカスティール男爵領は、基本的に雨が降りづらい気候だ。

記憶を遡っても、ここまで視界が白く煙るほどの荒天は、リオとしての12年の人生でも数えるほどしか記憶にない。


「酷い雨の日って、何でかテンション上がるよな。」


俺も家の中に入り、出かける支度をする。


テンションが上がるといっても、濡れ鼠になるのは勘弁なんだよなぁ。

この通信手段が無い時代、こんな土砂降りの雨が降っても礼儀として待ち合わせ場所には行かなければならない。

まぁ、あの二人が真面目に、、ドゥンさんは来てると思うけど、ラベル君がこの雨で出歩くイメージが出来ないんだよなぁ。


「まぁ、信じて行くしか無いけど。」


自分の部屋に行くのにリビングを通った時、シルヴィアがタオルを髪にあてながらマーサと談笑していた。


「シルヴィア様、もうそろそろ時間ですけど、大丈夫ですか、準備とか?」

「あら?

リオ、殿方はお待たせするものって知らない?」

「・・・いえ、知りませんが、俺も男なので。」

「これからマーサさんが淹れてくれたお茶を頂くのよ、せっかくなんだから貴方も一緒に飲みなさい。」

「そうよ、リオ、男なんて待たせておけばいいのよ、あ、シルヴィア様、今日のお茶請けは何が良いかしら?」

「まぁ、迷う・・・


・・・だから俺も男なんですって母さん。


それから1時間程、お茶を啜りながら、ヤキモキしていると、やっと朝一番の甘味を堪能しきったのかシルヴィアが重い腰を上げ準備をしだしたので大遅刻ながら俺達はギルドへ向かうことになった。


激しい雨音に打ち消されそうになりながらも、なんとか辿り着いた冒険者ギルド。

だが、その場はいつもと違い、ギルドの扉付近にはこの雨にも関わらず多くの人だかりができていた。

それにいつもの喧騒とは明らかに質の違う怒号と悲鳴が激しい雨音をかき消すかのように飛び交っていた。


「おい!

そっちの止血が先だ!」

「誰か、回復術師様の数が足りねえ!

教会の術師様をありったけ連れてこいッ!」


ギルド内は、まるで戦場のようなてんやわんやの大パニックに陥っていた。

床のあちこちには、泥と血に塗れた冒険者たちが倒れ込んでいる。


「リオ、シル! こっちだ!」


人だかりの奥から、一足早く来ていたラベルさんとドゥンさんが、険しい表情で俺達を呼び寄せた。

彼の名誉の為に言っておくと、ラベル君がシル呼びしていたのは決して彼がトチ狂ったわけではなく、素性を隠して行動しているシルヴィアを人前ではシルという呼び名で呼ぶように決めたからだ。


「ラベルさん、一体何があったんですか?」

「ダンジョン近くの山で、この大雨のせいで特大の崖崩れが起きたらしい。

運悪く巻き込まれたいくつかのパーティが、さっき運び込まれてきたんだ。」


ラベルさんが忌々しげに髪を掻き毄る。

教会からの応援も数名駆けつけているが、負傷者の数が多すぎて完全にキャパシティをオーバーしていた。


そんな地獄絵図のようなギルドの片隅で、やたらと目まぐるしく動き回っている一人の少女がいた。年齢は18歳前後だろうか。


「はい! そっちの怪我人の身体は清めたっす!!」

「呼吸はちゃんとしてるっす!」

「次、そっちの擦り傷の旦那、ああ、動いちゃダメっす!」

久々に聞く、前世の部活動に勤しんでいた時代に使っていた小気味の良い言葉の言い回し。


その彼女が


「ヒール!」


と言うと、彼女の手を中心に淡い緑色の光が現れ、怪我人の傷を照らし、包んだ。

傷口がみるみる内に塞がっていく。


「よし、これで大丈夫っす! 元気出たっすか!?」


彼女がニコっと微笑みながらそう冒険者にいうと、彼は短く礼をいい、その場を離れて行く。

その背中を見送るように見つめながら、その少女はまた忙しそうに動き出した。


周囲の回復術師からは


「ヒールしかできない奴は下がってろ!」

「邪魔だ!」


などと邪険に扱われていたが、俺の目は誤魔化されない。


確かに彼女はこの世界で初歩と言われたヒールしか唱えていなかった、

当然のように、四肢がひしゃげ、苦しみ悶る重傷者は治せない。

しかし、彼女は自分の無力さに泣きそうになりながらも、決して動きを止めていなかった。


泥を拭い、他の術師に触診の状況を伝え、軽い怪我人を素早くヒールして次の搬送スペースを作る。


あんな動き・・・こんな修羅場の場面で誰にでも出来る動きじゃない。

前世の営業マンとしての直感が、彼女のこの戦場のよな場所での立ち回りの素晴らしさに猛烈な違和感を訴えかけていた。


気になった俺は、彼女に向けてそっとスキルを発動させた。


「鑑定」

【対象:メノウ・エバウス 16歳】

★職能:回復術師見習い(???)

魔法:ヒール Lv3

固有特性:ヒールの重ね掛けが可能

加護:全神の加護★


ふーん、あの動きで回復術師の見習いか。

魔法はヒールの一個だけ、、そりゃあんな事も言われるよな、可哀想に。

特性はヒールの連続使用ね。

ん?

それって特性で表記する程の事か?

当たり前の事過ぎるだろ。

前世のゲーム知識を持つ俺は、それがどれほど異常なことかも知らず、ヒールしかできないなりに、よく頑張って、治療に関するイロハをよく勉強している優秀な子。

位に思い、完全にスルーしてしまった。


「・・・少し落ち着いたっすね。

どうか無事でいてほしいっす。」


野戦病院の出来事ようなギルドの大パニックが一段落し、俺達がパガス親方のところへ向かおうとギルドを出た時、その出口でさっきの彼女とすれ違った。

彼女は俺の右腕を見るなり、俺の肩を掴まえ、彼女の正面に向かせ、右手を手に取る。


「君、少し擦りむいてるっすね。

痛そうっす、ちょっとじっとしててっす!

ヒール!」


彼女が差し出してきた小さな手の平から、温かい緑色の光が溢れる。

すると、すうっと腕の痛みが引いていき、瘡蓋になるでもなく、みるみるうちに傷が塞がっていった。

見れば見るほど、不思議な光景だ。

だがそれ以上に、至近距離で見つめられた彼女の弾けるような笑顔と、あんな一生懸命に動き回っていたのにも関わらず、ほのかに香った女の子らしい優しく甘い香りが、俺の心臓をドクッと跳ね上がらせた。


「はい、これでオッケーっす! もう痛くないっすね!?」

「あ、ありが、とう・・っす。」

「へへ、どういたしましてっす!」


そばかすが少し残る、化粧っ気の無い健康的な可愛い女の子の少し照れ臭くはにかむ様は、とても可愛く見えて・・・・。


・・・・・ん?

え?


「アンタはバカかい!?

回復術師がタダで治療してどうすんだい!」

「え〜だって、師しょ〜・・・・・


元気にギルドの中に去っていく彼女の背中を見送りながら、俺は内心で大慌てしていた。

お、落ち着け俺!

中身はアラフィフのおっさんだぞ、16歳そこらの女の子に心臓をバクバクさせてどうする!


「ん?

リオ、顔が赤いぞ?

・・・・お前まさか!

あの娘に惚れたのかっ?」

「え?

あ?

は・・・はぁっ!?

・・違いますよ何ってんですかラベルさん!

ほら、雨がもっと酷くなる前にパガス親方のところへ行きますよ!」


ニヤつく口がイケメンを支配しているラベルさんを強引に引き連れ、俺たちは激しい大雨の中を、パガス親方の工房へと急いだ。



読んで頂き誠にありがとうございました。

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