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『異世界職能レビュアー』 ~元・管理職のおっさん、鑑定スキルで有望株を「青田買い」して、最強の快適生活をプロデュースする~  作者: レイフォン


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26/30

25話。お手合わせのお話。

「って!!!

ダメですトールさん。

駄目に決まってます!!!!

これ、半分は持って帰ってもらわないと、俺の商人としてのプライドが許しません!」

「ええっ!?

・・お・・・お金は要らないって言ってるんだけど?

だって、リオ君、お金が必要なんでしょ?」


ギルドの建物の外、大金の入った袋を巡って、俺とトール君は前代未聞の押し付け合いを展開していた。


元営業マン、嫌、商売人として言わせてもらうが、発案者が全額を総取りするような関係性がまともな訳は無い。

物を作り、汗を流した技術者に正当な報酬が支払われてこそ、次の物作りへの意欲、新しいアイデアは生まれるのだ。


結局、30分に及ぶ粘り強い説得の末、


「俺はこれからもトールさんと一緒に真っ当な、、皆んなの役にたつ仕事がしたいんです!!」

「リオ、、君。

はぁ・・・・もう。

じゃあ・・・今後の開発資金として3割だけ、ありがたく貰っておくよ。」


と、トール君が折れる形で決着した。

ある意味、あの性格の悪そうな職員相手よりもよっぽど手強い交渉相手だった気がする。


大金を抱えてホッとした様子で工房へ帰っていく彼の背中を見送り、俺は深くため息を吐いた。


気づけば、革職人ギルドでの交渉とトール君との応酬のせいで辺りはすっかりと日が暮れていた。


今日一日、俺の営業トークを特等席で見せつけられたドゥンさんは、完全に俺を小さな怪物を見るような目で、畏敬の念を込めて小さく手を振り、宿へと帰って行った。

資金調達は俺が出来過ぎと思う位上手くいった。

明日こそ、全員でパガス親方のところへ行かなきゃな。


取り敢えず。


「お疲れ様だな、、おれ。」


セブリオン家に帰宅すると、リビングではシルヴィアが待っていた。


「お帰りなさい、リオ。

ドゥンさんの防具の件はどうだったの?」


俺は二ヒヒと笑うと、水を得た魚のように目を輝かせ、今日一日の出来事を熱弁した。


「聞いて下さいシルヴィア様!

想定外から始まった交渉劇でしたが、相手のトップである革職人ギルド長を俺の交渉術で論破し、向こう一年分の活動資金稼ぎ出してきました!」


俺はシルヴィアに革職人ギルド長バリントン氏との一進一退の心理戦までのロードマップを、かいつまんで報告した。

彼女は最初、楽しそうにフムフムと聞いていたが、最終的に俺がテーブルの上にドヤ顔で大金の入った袋を机にドンと置いた瞬間、その澄んだ綺麗な目をこれ以上ないほどパチクリと丸くさせた。


「・・・・リオ。

あなた、本当に私と同じ歳よね?

ガウェインお養父様でも、そこまであくどい・・・いえ、鮮やかな交渉はできないわよ。」

「イヒヒ、最高の褒め言葉として受け取っておきます!

で・・えっと、ラベルさん・・・大丈夫でしたか?」


俺が尋ねると、シルヴィアは少しだけ真剣な、どこか遠くを見るような瞳になって微笑んだ。


「ええ。

午後にはすっかり良くなったわ。

・・それでね、リオ。

その後、ラベルさんと二人で少し身体を動かしがてら、近くの森へ狩りに行ってきたの。」

「へえ、あの人、病み上がり、嫌、自業自得か。

どちらにせよ、起きて早々よく動けますね。」


シルヴィアは微笑むと、少しだけ頬を紅潮させながら言う。


「その道中ね、子供時代の思い出話になって、ラベルさんからの提案で、少し手合わせをすることになったのよ」

「・・手合わせ?

剣聖のシルヴィア様とですか?」


シルヴィアの口から語られた今日の午後の出来事は、俺の予想を遥かに超える、凄まじい内容だった。


エブンの街近郊のいつもの森。

木漏れ日の差す広場で、ラベルはふと足を止め、いつもの軽い笑みを消して、真剣な目でシルヴィアを見つめた。


「なぁ、シルヴィア・・・様。

ちょっと肩慣らしに、俺と一回、手合わせしてくれないか、ああ・・してくれませんか?

・・・俺もさ、いつまでもリオやアンタ、今はドゥンもか、皆んなの足を引っ張ってるわけにゃいかねえんだわ。

今の俺が、剣聖様にどこまで通用するか試させて下さい。」


シルヴィアは少し驚いた顔を見せたが、すぐに


「いいわよ。」


と上品に微笑み、腰の剣を抜き中段に構えた。

それだけでシルヴィアの纏う空気が変わるのがいかに鈍感なラベルにも肌で感じとる事が出来た。


「怪我をさせたら悪いから、私は防御に徹するわね。いつでもどうぞ、ラベル・・・さん。」

「へっ、余裕だな。

・・・じゃあ、遠慮なく行くぜッ!!」


ラベルが短槍を構えた瞬間、シルヴィアの余裕の表情に一瞬の翳りが見えた。

ラベルの全身から、午前中までのヘタレぶりが嘘のような、濃密な魔力が吹き荒れる。

彼は最初から、自分の持つスキルを全開にしていた。


ドッ!!!


爆音のような踏み込み。ラベルの身体が陽炎のようにブレた。

間合いを無視した神速の突きが、シルヴィアの喉元へ容赦なく肉薄する。


キィィィンッ!!!


シルヴィアの剣がそれを完璧に弾くと鋭い金属音が森に響き渡った。


幼馴染の相手として、どこか見守るような表情を崩さなかったシルヴィアが、直後、その綺麗な眉をハッキリと跳ね上げた。


!?

止まらない!?


弾かれたはずのラベルの短槍が、円運動の軌道を描いて即座に跳ね返ってくる。

突き、薙ぎ、石突きの返し、そして死角からの鋭い払い。

流れるような連撃には一切の淀みがなく、風圧だけで周囲の木々が揺れた。

シルヴィアの剣が火花を散らしながらラベルの猛攻を捌いていくが、槍の重い衝撃が、彼女の華奢な腕に確実に疲労を蓄積していく。

ラベルの槍は、まるで意志を持つ大蛇のように、彼女の鉄壁の防御の隙を執拗に貪り喰おうとしていた。


速い!

それにこの槍捌き、これが、ラベルにぃの本気!!


ついに、シルヴィアの足が一歩、後ろへと下がった。

彼女の顔から余裕が消え失せ、代わりに、国を背負う最高戦力、剣聖としての、冷徹で鋭い、本気の殺気がその瞳に宿った。


「いいぜっシル!!!

その顔だよ!!!!」

「!?」


ラベルはそれを待っていたかのように、獰猛に口元を歪める。


「らあああぁぁぁっ!!」


ラベルの咆哮と共に、大気が爆ぜた。

彼の残りの全魔力を乗せた、この日一番の、文字通り閃光そのものの必殺の一突き。


チリッ。


シルヴィアの視界を、ラベルの槍先が完全に支配する。


「!」


死の予感が彼女の背筋を駆け抜けた。

シルヴィアは本能のままに上体を極限まで後ろへ反らし、その一撃をかわす。


次の瞬間、激しい衝撃波がシルヴィアの顔横を通り抜け、彼女の美しい銀髪が数本、槍の風圧だけで切り裂かれてハラハラと宙に舞った。

彼女の腹の底で熱い何かが煮えたぎる。


「そこまでよっ、ラベルにぃっ!!!!」


シルヴィアの、鋭い制止の声が森に響き渡る。

その声を合図に、二人の動きがピタリと止まった。


ラベルの槍の刃先は、シルヴィアの喉元からわずか数センチのところで強烈な慣性をねじ伏せるようにして静止していた。


ジジ、と焦げつくような沈黙の後。


「はぁ、はぁ、はぁ。

・・・へへ、やっぱり、かすり傷一つ、つけられねえか。」


ラベルは槍を引くと、ガクッとその場に尻餅をつき、肩を大きく上下させて苦笑いした。

限界まで魔力を絞り尽くしたのだろう、その額からは滝のような汗が流れている。


だが、シルヴィアはそんな軽口をたたいているラベルに声を返すこともできず、その場に立ち尽くしていた。

宙を舞う自分の銀色の髪を見つめる彼女の手の平は、ラベルの猛攻を受け止め続けたせいで、微かに、だがハッキリと震えている。

もし、今の一撃をかわし損ねていたら。

もし、ラベルが寸前で槍を止めていなかったら。

シルヴィアはゆっくりと剣を鞘に収め、小さく、だが深く息を吐いた。

ラベルと正反対にシルヴィアは、汗も垂らしておらず、息切れもしていなかった。

ただ、あの一瞬、自分の手はラベルを危険な存在と判断し、彼を処断しようと動いていた。

剣聖としての意識が、彼を、ラベルを八つ裂きにしていた。

後味の悪い明確なイメージだけが、彼女の頭に残る。


「驚いたわ、ラベルにぃ。

あなた、この数年で本当に、強くなっていたのね。」



「・・・・ということがあったの。

私の髪を切り落とすなんて、お養父様以外では、ラベルさんが初めてだわ。」

「・・・・は・・・はぁ。」


紅茶を飲みながら、さらりととんでもない報告をするシルヴィア。


一体どう返せばいい?

何が、どれが正解なの!?


俺は、持っていたティーカップを落としそうになるのを必死で堪えていた。


おいおいおい・・・ラベル君。

昨日のプチ有能、どころじゃないぞ。

剣聖にここまで言わせるなんて!

前衛アタッカーとして、どんだけに成長してやがるんだ!


俺が街で必死にギルドを相手に営業をかけている裏で、我がパーティの特攻隊長が、あの剣聖を相手にそこまでの大金星を叩き出していたとは。


「明日は、ラベルさんもドゥンさんも連れて、みんなでパガス親方のところへ行くのよね?

ふふ、私達のパーティ、これからどうなっちゃうのかしらね?

楽しみだわ。」


微笑むシルヴィアの横顔を見ながら、俺は、前世で隠れた超優秀な人材、ダイヤの原石を掘り当てた時のような、ゾクゾクとする興奮で鳥肌が立っていた。

我がパーティ、今更ながら、思った以上に、とんでもないのかも知れない。

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