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『異世界職能レビュアー』 ~元・管理職のおっさん、鑑定スキルで有望株を「青田買い」して、最強の快適生活をプロデュースする~  作者: レイフォン


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23/30

22話。 お探し中の話。

冒険者ギルドの重い木製の扉を押し開けると、もわっとした熱気と、安酒と汗の匂いが俺達の鼻を突いた。

約一名は音楽なのか雑音なのか通常運転で鼻歌を奏でながら中を見回しているのだが。


それにしても、午後の時間帯のギルドの酒場スペースは、依頼を終えて早めの酒を煽る荒くれ者たちでそれなりに賑わっていた。

何処かの漫画の世紀末程では無いが、前世の賑わった居酒屋程度には騒々しい。

どこの世界も酒が絡めばこんな物かと納得するしかあるまいなこれは。


「・・・うへえ。

相変わらずむさっ苦しいなぁ。

この時間のギルド。

あ、リオ、ちょっと受付寄っていいか?」

「え?

あ、はい、どうぞ。」


そう言うと、ラベル君はカウンターの奥にいる一人の綺麗な受付嬢に気づき、いつも通りの軽いノリで歩み寄って行った。


「よお、ミランダ。

久しぶり、元気してたか?」


ラベル君は持ち前のカラッとした笑顔で、ごく自然に気さくな挨拶を交わす。

・・・・のだが、声をかけられた受付嬢、ミランダさんの表情が、一瞬で凍りついたのを俺は見過ごさなかった。

次の瞬間、彼女の顔にはプロ根性で貼り付けたような、見事なまでに引き攣った営業スマイルが浮かぶ。


「ええ・・お久しぶりですね、ラベルさん。

お元気そうで何よりです。」

(なんでこの時間にいんのよ!

っていうか、気軽に話しかけてこないでよ!

せっかくアンタの最近の活動時間帯からズラして勤務してるっていうのに!!

このデリカシーゼロ男!!!)


俺位、年齢を重ねれば、表情からその人が何を考えているか察せるようになるが、、、。

嘘だけど。

・・・・まぁ、凄い顔だ。


ラベル君本人からギルドの受付嬢と付き合っては振られを繰り返していると聞いていたが、彼女こそがその元カノの一人であるミランダさんだ。

俺も面識があるのだが、美人なのにいい人という割と好印象の女性だ。

ついでに言うと、今しがたミランダ嬢の後を歩いていたのが、前にラベル君が解体を教えていたエマ嬢。

言わずもがな、二人を別れさせる原因を作ったお人である。

ラベル君はそのエマ嬢にも気さくに


「ちーっす!!」


と軽く手を振っていたが、エマ嬢には苦笑いで返されていた。


そんな中、ミランダさんの鋭い視線は、ラベル君の斜め後ろに立つ、深々とフードを被った小柄な人物、シルヴィアへと向けられていた。

フードの隙間から時折覗く、隠しきれない高貴な気品と圧倒的な美少女のオーラ。

ミランダさんの引き攣った笑顔が、さらにピキピキと強張っていく。


(・・・は?

何よあの可愛い子。

またどこかで新しい女を引っかけて、わざわざ私の前に見せつけに来たわけ!?)


そんな凄まじい誤解と嫉妬の混じった無言の圧力を向けられているとも知らず、ラベル君はカウンター越しにミランダさんと何やら話し始めていた。

長くなりそうだし、彼が話し込んでるうちに、こっちはこっちで動くとするか。

俺はフードを深く被ったシルヴィアを連れて、酒場スペースのテーブルをいくつか回り、情報収集を開始した。


「すいません、少しご一緒しても宜しいでしょうか?

うちの商会で新しく腕の良い盾役か、腕利きの斥候を長期で雇いたいんですけど、誰かこの街で暇してるお勧めの方っていませんか?」


俺もギルドに良く顔を出しているから、石鹸屋の息子として認識されているらしく、上機嫌で会話をしているテーブルに割入って、話を切り出すのはそんなに難しい話では無かった。

勿論、酒、2、3杯分の金はテーブルにそっと置くのを忘れてはいない。

この時代では現場の「口コミ」は最良の情報源、それを得る為の必要経費だと思えば、これ位の出費は痛くも痒くもない。

今回はターゲットを絞り込む為に、試しに戦闘以外の部分で周囲から嫌われているような奴、という探し方をしてみている。

その方が特化型が眠っている可能性が高いからな。


「あぁん?

盾役だぁ?

悪いがこの街にまともな前衛は残ってねえよ。

動けるやつはみんな王都の学院か、大都市のクランに引き抜かれちまってるからな。」


「斥候なら、あそこのテーブルでくだ巻いてるバンダの奴がそれなりに鍵開けはできるぜ。

ただ、性格がセコくてすぐ報酬の分け前で揉めるがな。」


何人かに聞いて回るが、返ってくるのは並の評価の、いかにも扱いづらそうな連中の名前ばかりだ。

本人を鑑定しても星二つが良いところ。

今の俺達の求める人材では無い。


「・・・やっぱり、そう簡単には見つかりませんね。」


俺の言葉にシルヴィアも


「そうね」


と軽くため息を吐いていた。


俺達が一度酒場から離れたギルド側の隅の席へと陣取ると、ラベル君が満足げな顔で戻って来た。


「・・・もう、何やってるんですか、ラベルさん。

今は女性にうつつを抜かしている場合じゃないんですよ。

さっき俺も他の冒険者の方に聞いて回ったんですけど、まともな前衛や斥候はみんな大都市に流れてるみたいです。」


俺が小声でため息をつくと、ラベル君はニヤッと不敵に笑った。


「馬鹿言うな、ただの挨拶なわけねえだろ?

俺だって戦力集めのために動いてるんだよ。

さっきミランダに、この街で今パーティに溢れてて、かつ腕だけは確かな前衛がいないかって聞いてたんだ。」

「・・・え?」

「ん?」


まさか、ラベル君が率先して仕事をしてくれるなんて、おじさん感動で、涙が出そうなんですけど。


「ミランダには気まずい思いをさせちゃったかもだけど、彼女、仕事はきっちりするからな。

・・・でさ、ガミンって奴のパーティにいる、ドゥンって盾役がちょうどさっきクビになったらしい。

ギルドの盾役としての評価は高くない、実際、いつも荷物持ち同然の扱いをされてる奴なんだけどな。」

「ドゥン。

・・・どんな人なんですか?」

「俺も何回か一緒になった事があるけど、守りは滅茶苦茶お堅い。

それは確かだった。

だけど、あいつ、自分から絶対に攻撃を仕掛けねえんだよな。

だからいつも「手数の足りない飯泥棒」って言われて、色んなパーティを転々としてるんだよ。

ほら、今もあそこの依頼板の前でガミンに怒鳴られてるぜ」


ラベル君の指さす方を見ると、ガミンだろうか、30代位の戦士風の佇まいの男が一人の大柄な青年を突き飛ばしているところだった。

突き飛ばされた青年ドゥンは、言い返すこともせず、ただ悔しそうに拳を握りしめて地面を見つめていた。

男は青年に向かってペッと唾を吐き捨てると、そのままギルドの出口へと歩いていってしまう。

残されたドゥンは、重い溜息をつきながら、隅の丸椅子にぽつんと腰を下ろした。

傍には彼の物なのか、鉛色の大楯、タワーシールドが壁に立てかけられている。

周囲の冒険者たちは、彼を戦闘を引き延ばすだけの使えないお荷物として薄笑いで見ている。


だが、俺の視線は彼のその圧倒的な素材の良さに釘付けになっていた。

椅子に座ってなお一目でわかる、優に二メートルはあるかという長身。

決してただ太っているわけではない。

分厚い筋肉と頑強な贅肉がこれ以上ないベストバランスで付き従い、並のスポーツ選手では目じゃないほどの重厚感あふれる風貌を形作っている。

短い黒髪から覗く首の太さなんて、隣にいるシルヴィアの細い腰回りほどもありそうだ。

顔立ちは随分と老けて見えるものの、美醜で言えば決してブサイクなどではなく、むしろ前世で言うところのアジア系の彫りが深いいい男の系統だった。


あんなラグビーのトッププロみたいな体格の男が、攻撃をしない?


俺の商人脳が、そして前世の知識が、強烈な違和感を告げていた。


攻撃をしない前衛が本当にただのゴミなら、何回もパーティを転々とする前に、とっくにデーモンに殺されているはずだ。

なのに彼は、あの大楯以外、防具こそボロいものの、無傷でここにいる。

それに、うちのパーティのメイン火力は世界最高峰の「剣聖」シルヴィアだ。

それにラベル君もいる。

盾役に攻撃力なんて一ミリも求めていない。

求めているのは、敵の攻撃を引き受け、その場から動かずに耐え切る絶対的な防御力だ。


もし、彼が攻撃を捨てて防御に全振りした思い通りの人物だったとしたら。


俺はジッと、酒場の隅の席で小さくなっている大柄な背中を見つめた。


「リオ、どうしたの?

あの人のことが気になるの?」


シルヴィアが、俺の視線に気づいてフードの奥から覗き込んでくる。


「・・ええ。

まだ確信はありませんが、もしかしたら、パーティの最初のメンバー候補かも知れません。」


俺はニヤリと口角を上げた。


まだ直接声をかけるのは早い。

まずはあの男の真の評価を裏付けるため、俺はさっき聞いて回った近くのテーブルの会話に再び耳を澄ませた。

『おいおい、またドゥンの奴、クビになったらしいぜ。』

『だろ?

アイツ、デーモンの群れが来ても頑なに盾を構えて突っ立ってるだけだからな。』

『あいつと組むと、敵を倒すのに倍の時間がかかるんだよ。

攻撃に参加しねえ前衛なんてただのお荷物だ。』


聞こえてくるのは酷評の嵐。

大雑把な盾役としての役割を求めている凡庸な連中からすれば、ドゥンの行動は異常にしか見えないのだろう。

だが、その悪評のなかに、俺が聞き逃さない一言があった。


『でもよ・・・アイツが一度あの大楯を構えると、ビックボアの突進もはねっかえしちまうんだぜ、嫌、俺が実際見たから間違いねえ、あの馬鹿力だけは大したもんだ。』

『噂だと、ゴブリンの魔法もあの大楯で防いだって話だ。

度胸があるのか命知らずなのか馬鹿なのか。

アハハハハ!!』

『へっ、どうせ偶然だろ。』


あの木々も薙ぎ倒すビックボアの突進を正面から受けて、跳ね返す?

こいつら気付いて無いのか?

その異常性に。

それはただの盾役のスペックを遥かに超越している。


・・・・十分だ。


俺は確信を持って、小さく丸まっているドゥンの背中に視線を固定した。

泥の中に埋もれたダイヤの原石。

その真の能力を、俺の目で剥ぎ取る。


「鑑定」


【対象:ドゥン】

年齢:19

★職能:守護騎士

評価:☆☆☆☆

適正項目

物理攻撃力、魔法攻撃力、及び攻撃スキルの適正:☆

物理防御力、魔法防御力、受け流し、ヘイト集めの適正:☆☆☆☆

固有スキル:絶対守護、不動の構え

備考:自身の膂力を全て防御力に変換する特化型。★


脳裏に展開されたステータス画面を見て、俺は内心で派手に何度もガッツポーズを決める。


お前ら全員、見る目が節穴すぎるだろ・・・今の俺達にとって大当たりの人材じゃねえか!!


適材適所。

パーティのメインアタッカーたるシルヴィアが、100%の力で剣を振るう為に必要な絶対的な盾が、今ここに確定した。


さて、ここからは絶対に失敗出来ない交渉の時間だ、俺は襟を正すと、交渉のテーブルに足を進めた。

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