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『異世界職能レビュアー』 ~元・管理職のおっさん、鑑定スキルで有望株を「青田買い」して、最強の快適生活をプロデュースする~  作者: レイフォン


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22/30

21話。 説得と発見の話。

一夜明け、セブリオン家のリビング。

朝食後の温かいお茶をすする俺の対面には、少し緊張した面持ちのシルヴィアが座っていた。


どうでもいい話だが、昨夜ラベル君が


「俺もここに泊まって明日一緒にテオさんとマーサさんに頼んでやろうか?」


と言っていたのだが、そこは俺が全力で阻止した。

年頃のシルヴィアと同じ屋根の下に泊まらせるわけにいかないし、これ以上彼のデリカシーゼロな爆弾発言に振り回されては、進む話も進まなくなる。

「明日、街の広場で落ち合いましょう。」

と強制的に追い出しておいたのは、我ながら正しい判断だったと思う。


さて、問題はここからだ。

いくら中身が大人だろうと、現在の俺は12歳の子供。

シルヴィアも剣聖といえど同い年。

他言無用のルールを守りつつ、両親、保護者という最強の門番から一年間もの活動許可を毟り取らなければならない。

毟り取るか、、。

言い方が・・・良くないな。


パタパタと小気味よい、俺とトール君が遊びの中で作ったスリッパの足音と共に、お代わりのお茶を持ったマーサと、少し眠たそうな父さんが俺達と同じテーブルの席に着いた。


「さて、リオ、シルヴィア様。

昨夜は遅くまで3人で話し込んでいたようだけど・・・一体何の話をしていたんだい?」


テオが訝そうに首を傾げる。

口元には商人特有の薄ら笑いが浮かべられている。


俺はシルヴィアと視線を交わし、深く息を吸ってから、ポーカーフェイスを崩す事無く、用意していた建前を切り出した。


「父さん、母さん。

俺、これから一年間、シルヴィア様の専属商人兼、お世話係として、カスティール領の未開拓領域の調査同行に指名されました。

所謂、期限付きの従僕というやつでしょうか。」


シルヴィアは俺の言葉にコクンと頷いた。


「・・・は?」


テオの顔が真顔に戻る。


「ちょっと待ちなさいリオ!

12歳の子供が何を言っているんだ!

とても名誉な事かもしれないが、 商会の跡取りが一年も・・・許せるわけがない!

それに、未開拓領域なんて危険な場所に!!」


予想通りの大反対だ。

真っ当な親なら当然の反応ではあるのだが。


すかさず俺は、テーブルの上に数枚の羊皮紙を置いた。


「これは商会の未来のための投資です。

父さん。

剣聖であるシルヴィア様の専属になれば、今後セブリオン商会がカスティール家御用達になる権利を独占できます。

それに・・・・これを見てください。」


俺が選んで差し出した一枚の羊皮紙をテオが眉をひそめて手に取る。

そこに書かれているのは、俺の前世のメタボ体型の原因となった記憶を元にマーサと協力しながら今まで作ってきたお茶請け菓子のレシピ。

そして、それの使用権を然るべき、料理屋やパン屋に売却した際の見込みロイヤリティの計算書だ。


「な、なんだこの金額は!?

お前、いつの間にこんな仕組みを思いついたんだ?」


テオが数字に目を剥いて固まった。

だが、その硬直は一瞬だった。


テオは羊皮紙をテーブルに置くと、いつになく真剣な、そして悲痛な眼差しで俺を真っ直ぐに見据えた。


「・・・・嫌。

お金の問題じゃない!

リオ、さっきも言ったが、未開拓領域に行くということは、お前にも危険が及ぶかもしれないんだぞ。

シルヴィア様だって万能じゃない、絶対に無事が保証されるわけじゃないんだ!」


ドン、と低くテーブルを叩く音がリビングに響く。


その言葉の根底にあるのは、商売の損得勘定なんかじゃない。

ただ純粋に、12歳の我が子の身を案じる父親としての強い愛情だった。


ごめん、テオ。

本当はもっと、この街、、。

国の命運が懸かったバカげた危険に首を突っ込もうとしてるんです。


テオの俺を真っ直ぐに見つめてくる視線に胸の奥が少しだけチクリと痛む。

だけど、だからこそ、ここで引き下がるわけにはいかない。


「分かってるよ、父さん。

俺だって命は惜しいです。

だから、無防備に付いていくつもりはありません。

俺の鑑定、能力は、危険を事前に察知し、回避するためのものです。

それに、盾となる腕利きの冒険者もこれから俺の目で厳選して雇います。

シルヴィア様一人に背負わせるような無茶な真似はしません。

俺が、俺達の生存率を100%にするために付いていくんです。

後、ラベルさんも、一応、同行してくれます。」


俺が一切の怯えを見せずに言い返すと、テオは言葉を詰まらせた。

12歳の子供の理屈ではない。

そこにあるのは、鉄の意志を持った一人の商人としての眼差しだ。

隣でじっと聞いていたシルヴィアも、居住まいを正してテオに向き直った。


「セブリオンさん、心配されるのは当然です。

ですが、私からも約束します。

私の剣は、隣に立つリオを、仲間の命を守るためにあります。

カスティール男爵家の名に懸けて、彼を必ず無事にご家族の元へお返しします。」


剣聖としての、重みのある誓い。

それらをずっと黙って見守っていたマーサが、ここでようやく口を開いた。


「あなた。

・・・リオの言う通りにしてあげましょう。」

「マーサ!? 」


自分以上に取り乱すと思っていたマーサの反応に驚いて振り返るテオに、マーサはいつになく穏やかで、だけどどこか全てを見透かしたような、優しい笑みを浮かべた。


「この子は、生まれてからずっと、私たちが驚くような知恵で道を切り開いてきたわ。

石鹸の時もそう。

このお菓子のレシピだって。

・・・リオは、自分が絶対に勝てない無茶な戦いはしないわ。

何より、男の子が一度こうと決めて、あんなに真っ直ぐな目をしているんですもの。

親がその足を引っ張っちゃダメよ。」

「・・・マーサ。」

「それにね、剣聖であるシルヴィア様が、わざわざ直々に我が家まで足を運んで、命懸けでリオを守ると約束してくださったのよ?

これ以上、何を心配することがあるの。

ねえ、あなた?」


マーサがトドメと言わんばかりに小首を傾げると、テオはぐうの音も出ないといった様子で、がっくりと肩を落とした。

我が家で一番強いのは、間違いなくこの笑顔の母親だ。


「・・・はぁ。

お前までそう言うなら、これ以上は何を言っても無駄だな。

……本当に、誰に似たんだか。

無茶だけはするなよ、リオ。」

「はい! ありがとうございます!!

父さん、母さん!」


こうして無事に両親の許可を得た俺は、テオが食い入るようにレシピの権利書を眺めている隙を見計らい、キッチンでお茶を淹れ直しているマーサに子供特有の甘えるような声を意識してスッと近づいた。


「ねえ、母さん。

調査チームにはどうしても腕の良い回復術師が必要なんだ。

でも、目ぼしい人はみんな学院に引き抜かれちゃってるでしょ?

教会に表舞台には出てこないけど、すごく腕がいい人とか、薬師の母さんの伝手で心当たりないかな?」


マーサは、俺と、こちらを見つめているシルヴィアを交互に見比べた。

そして、フフッと何処か楽しそうに、完全に息子の甘酸っぱい恋の暴走として誤解した笑顔を浮かべた。


「もう、リオったら、シルヴィア様のためにそんなに張り切っちゃって。

わかったわ、お母さんの古いお友達に、教会の医療院を引退してのんびりしてる凄腕のシスターがいるから、話を聞いてあげる。

男の子が一度決めた道だもの、母さん、全力で応援する!」


頼もしいガッツポーズを俺に見せるマーサの姿がこの家の誰よりも逞しく見えた。


「ありがとう、母さん!!」


チョロい。

と言っては失礼だが、マーサの勘違いが綺麗に味方してくれた。

これでセブリオン家の外堀は埋まった。


「・・リオ、本当に凄いわね。

親まで完璧に言いくるめちゃうなんて」


リビングの片隅で、シルヴィアが呆れたように、でも感心したように呟く。


「親を騙すのは胸が痛みますが、一年後に笑顔でただいまを言うための必要悪です。

それより、シルヴィア様の方こそ大丈夫なんですか? 一国の最高戦力が一年もいなくなるなんて、普通なら国が動く問題なんじゃ?」

「それについては、お父様にはもう手紙を書いて、使用人に託したわ。

『剣聖としての更なる高みを目指すため、一年間、一切の面会を謝絶して極秘の山籠りに入る』って。」

「なるほど。」


・・・じゃねえよ!!

そんな手紙一つで解決出来る問題なわけあるかって!!

さては、コイツ、親に似て脳筋だな!!

嫌、ガウェイン様はあんななりだが、思慮深い方だった。

よな、確か?

コイツ生来の性格だなさてはっ!!

ああ、、、先が思いやられるよぉ〜。


「剣聖の修行と言えば、ガウェイン父様であっても、騎士団であっても無理に踏み込むことはできないから。

これが私の使える、唯一の特権よ。」


少し悪戯っぽく微笑む彼女の顔には、もう昨夜のような悲壮感は無かった。


セブリオン家の外堀を埋めた俺とシルヴィアは、ラベル君と合流するために街の広場へと向かった。

すでに待ちくたびれた様子で露店の串焼きを頬張っていたラベル君を回収し、俺たちは軍資金調達のための知財の売り込みを開始した。


だが、商売はそう甘くはない。


俺も商人のはしくれだ。

昼時の最も忙しい時間帯に店へ押し入って、のんびりレシピの使用権の交渉をするなんていう大迷惑な真似はしない。

だからこそ、昼時を過ぎてお客が引いたディナーの仕込み中の料理屋や、客足の落ち着いた露店を何軒も根気強く回り、店内、厨房の中を覗いては鑑定、覗いては鑑定、、、と、レシピを託せる人材を鑑定で見極めようとしていた・・・・のだが。


「・・・なかなか見つかりませんね。」

「おいリオ、もう何軒目だ?

俺、さっき串焼き食ったのにもう腹が減ってきたんだけど・・・。」

「ラベルさん、さっき食べたばかりじゃないですか。でも・・・確かに、そろそろ限界ですね。」


俺もラベル君に習ってお腹の辺りをさすって見せる。

気づけば太陽はとっくに真上を通り過ぎ、時計塔の針は昼時のピークを完全に外した時間を示していた。


朝から両親の説得に頭を使い。

その後、何時間も街中を歩き回ったのだ。

気がつけば俺もシルヴィアも、そして、底無しの胃袋を持つラベル君も、お腹がペコペコを通り越して鳴り止まない状態になっていた。


「・・・あそこで少し遅いですが昼食にしましょう。

ちょうどランチのピークが終わって、片付けに入ったところみたいですし。」


俺達が縋るように入ったのは、街で5本の指に入る賑わいを誇る大衆食堂「大猪の胃袋亭」だった。

まぁ、元々、エブンには両手の指を足す位しか店を構えている料理屋が無いのが実際のとこなんだけど。

もっと言うと、今日はここの煮込みが食べたくてここを最後に回していた。

んー、考えるだけで、あの味の口になった俺の口からは涎が垂れていた。


「やば。」


咄嗟に袖で口を拭う。


店に入ると、案の定、昼の大盛況の余韻を感じる店内。

せっせと、給仕の女の子が、テーブルの皿等をこちらが心配になるような手つきで厨房に下げていた。

厨房にいる数名の料理人、その中でも一際大柄な男がここの店主だ、彼は汗を拭いながら巨大な鍋を片付けているところだった。


「おじちゃん、お疲れ様。

遅めのお昼、三人分お願いできる?

それと、お店の新しい看板メニューになる甘いお菓子のレシピ、興味ない?」


空腹を抱えた12歳の子供らしい無邪気な笑顔の浮かべ、突然商談を切り出した俺に、親方は一瞬だけ視線を向け、すぐに鼻で笑った。


「あぁん?

かしだぁ!?

リオ、冗談なら他をあたんな。

うちはガッツリ飯を食って酒を飲む冒険者御用達の食堂だぜ。

そんなお上品なもん、置いてる暇はねえんだよ!」


相変わらずの口調でモノを言ってくる親方。

そう、俺と親方はもうズブズブの仲なのだ、と言うのは冗談だが、両親に美味いからと連れられて、此処へはもう何度も通っているのだ。

そうでなければ、俺もこんな駆け引きも何もないド直球な商談はしない。


「まあ、そう言わずに。

これ、料理が出るまでに試食してみてよ。」


俺は持参した籠から、ナッツと蜂蜜のタルトの一欠片を差し出した。

親方は忌々しそうに顔をしかめたが、俺の妙に据わった目に気圧されたのか、太い指でそれを摘んで口に放り込んだ。


「ッ!?」


その瞬間、親方の動きがピタリと止まった。

あの濃厚な甘みと、香ばしいナッツの食感が口いっぱいに広がったのだろう。

荒くれ者専門と言ってもいい食堂の強面親方の目が、驚愕で見開かれる。

どことなく、トロンと、その甘みと渋みのハーモニーにあてられて恍惚な表情を浮かべていなくも無いような?あるような?


「・・・美味い。

確かに、美味いが・・・。

クソ、うちは今、ただでさえ人手が足りねえんだ!

こんな手の込んだもん、仕込んでる暇は・・・。」


親方は頭をガシガシと掻きながら羊皮紙に書かれた契約内容に目を通す。

読み終わったのか、それをテーブルに置くと、厨房の隅でオドオドしながら皿を洗っていた、16、7歳位の大人しい少女を手招きした。

先程ホールで皿を片付けていた女の子だった。


「おい、ミーシャ!

お前、ちょっとこっち来い!

おいリオ、俺の弟子で今手が空いてるこいつに、その菓子の作り方を仕込んでくれ。

こいつが作れるようになるなら、そのレシピの使用権ってやつ、きっちり契約してやる!」


引っ張り出された少女――ミーシャは、自信なさげに身を縮めている。

どうやら普段から手際が悪く、厨房で怒られてばかりのようだ。


「ええ、いいですよ。」

俺は微笑みながらミーシャに近づき、何気なくその姿に意識を集中させ、改めて彼女を鑑定した。


【対象:ミーシャ】

年齢:16

★職能:料理人(菓子職人)

評価:☆☆

適正項目:

大雑把な味付け、火加減、大量調理の適正が極めて低い。

一方で、ミリ単位の精密な計量、温度や糖度の微細な管理において異常な適性をみせる。

菓子・製菓適正:☆☆☆☆


俺は思わず内心で頭を抱え、同時にニヤリと口角を上げた。


出たよ。

またこのパターンだ。

何軒も回って見つからなかった正解が、まさかこんなところに転がっているなんて。

ラベル君の短槍の時と同じだ。

ただ職能、料理人という大雑把な枠で評価されていたから、大衆食堂の豪快な炒め物や煮込みに対応できず、今まで星二つ以下の低評価を下されていたのだ。

だが、彼女の本質はそこじゃない。

正確な計量と繊細な温度管理が必要とされる、まさに菓子職人としての最強の適性を秘めている。


「分かりました、親方。

彼女なら、完璧にこの味を再現できるようになりますよ。

・・・いいえ。

このレシピをさらに上の段階へ引き上げてくれるはずです。」

「あん?

なんでお前がそんなこと言い切れんだよ?」


不審がる親方を余所に、俺はミーシャさんに向かって優しく微笑みかけた。


「ミーシャさん。

大雑把なスープとか炒め物の味付けは苦手でも、小麦粉の重さを一グラム単位で量ったり、お砂糖が溶ける温度をじっと見極めたりするのは得意ですよね?」

「え・・・?

あ、はい・・。

でもなんで、そんな・・・。」


ミーシャが驚いたように大きな目を丸くする。


よーし!

知財の売却先と、それを完璧に運用してくれる職人の確保は完了だ。

これでミーシャさんがマーサに菓子作りを習って、レシピを習得してくれれば毎月、セブリオン商会の帳簿を汚さないロイヤリティ収入が俺にガッポリ入ってくる仕組みが出来上がる。


少し困惑気味のミーシャさんにレシピを見せ、文字を読めないという彼女に口頭で内容を説明する。

ミーシャさんはその説明に目を輝かせながら、俺が差し出したお菓子をいくつか口にした。

彼女は親方とは違い、分かりやすくトロンとした表情を浮かべて、その一噛み、一噛みに息をもらす。


「ああ、、おい・・ひぃ」


ほっぺたが落ちていないか確認するかのように両手で頬をさする独特なリアクションをしながら俺を質問攻めするミーシャさん。

ああ、この積極性、あのトール君に通じるなぁ等と考えていると、ようやく湯気を立てた大盛りのがっつり料理が三人分運ばれてくる。


「なあ、リオ。

ニヤニヤして悪い商人の顔になってるぞ〜。

それより飯だ、飯!」


後ろからラベル君が待ちきれないとばかりにフォークを構える。


何が悪い商人だ!

人聞きが悪いでしょ!!


シルヴィアも、お腹の虫を誤魔化すように小さくコホンと咳払いをした。


「失礼な。

これは正当な市場開拓ですから。

・・・でも、まぁ、まずは腹ごしらえをしましょう。今後の軍資金の目処は立ちました。

第一段階終了です。

ラベルさん、シルヴィア様、しっかり食べてエネルギーを補給したら、いよいよ冒険者ギルドに行って本物の盾役と回復職、それから斥候を探しに行きましょう!」


俺達は目の前の煮込み料理を木製のスプーンで掬い口に運ぶ、お上品になんて言ってられない。

濃いめの塩梅と空腹が最高の調味料となり、半日歩いて溜まっていた疲れが一気に吹き飛んでいく。

次なる目的地、本物の冒険者たちが集うギルドの重い扉が、俺達を待っていた。

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