14話。 下半身事情の話。
ビッグボアとの初戦闘から少し経った頃。
エブンの街散策、ラベル君との冒険を通じて俺は、ある耐えがたい苦痛に直面していた。
「・・・足の裏が、、踵が、膝がぁ、、痛い・・・。」
俺がおっさんのままだったら、今履いている靴のせいで腰にも目茶苦茶な負担がかかってるはずだ。
数ヶ月に一回はくるあの
ピキィィィィ
という腰からのシグナルにいつも戦々恐々してたっけ・・・・。
あの感覚に怯える事が無くなったのは実にいい事だが、何かしらの手を打たなければ、異世界快適生活なんぞ、夢のまた夢だ。
それもその筈で、この世界の靴は、底の薄い革を袋状に縫っただけの代物なのだ。
石畳の硬さと冷えが直接伝わり、長時間歩くと、幻肢痛のよう痛みを伴うおっさんの記憶が悲鳴を上げる。
これなら前世の足袋の方がまだまし、嫌、何倍もましだ。
何事も足元が肝心とはよく言ったものだが、それは異世界でも変わらない。
「決めた!!」
公衆衛生の次は歩行環境の不備をなんとかする。
俺だけのオーダーメイド靴を作る!!
素材は、、、革。
革の鎧が存在するんだから余裕の筈。
街の散策している最中に、革製品を扱う店を何軒か見つけたし、革製品を製作する工房も見つけ済み。
革靴の図面だけ起こして後は職人さんに丸投げっていうのが無難だな。
素材は、最近狩ったビックボアの皮と、一角ラビットの皮でいいか。
図面は前世の革靴の絵を描いて。
俺は庭にある作業机に、ラベル君と狩ったデーモンの素材を並べた。
「鑑定と解析」
【対象:ビッグボアの背皮】
・特性:極めて頑丈で摩耗に強い。
・用途:靴の底材に最適。
【対象:一角ラビットの毛皮】
・特性:柔軟で保温性が高い。
・用途:内張りに使用し、靴擦れを防止する。
本当にチートスキルだよな「解析」って。
俺が必要と思っている事を考えながらスキルを使うと、それに沿った解析結果を表示してくれる。
ビックボアの素材が革の加工品に良く使われている素材という事はラベル君に聞いてたから知ってたけど、一角ラビットの毛皮が今回の用途に最適だなんてついてたな。
でもな、これだけでじゃあ足りないんだよな、前世の運動靴にある衝撃吸収性が欠けているのだ。
ソールの部分の素材か・・・。
そのままボアの皮を使用するのもありだけど、木?
何か、木を使ったってのもあったっけか?
どっかの漫画で読んだ気がする。
でも、履き心地悪そうなんだよな、硬そうで。
じゃあゴム?
ゴムなんか流石にどこにあるかも想像もつかない。
とにかく全く想像がつかん。
俺はゴム代わりとなる素材を求め、街の市場を歩き回った。
見つけたのは、樽の防水に使われる樹液の凝固体、ラバーガムだ。
解析の結果、熱を加えて薄く延ばせば適度な弾力を持つことが分かった。
これを厚手のボアの皮の間に層状に挟み込み、クッションにする。
「うん、いいじゃん!!」
テオに許可を貰って、図面は羊皮紙に描いている。
石鹸の件で、テオにある程度認められた俺は、他の10歳児では触るのも許されないような高価な物の使用を許可されていた。
蝋版で下絵を描いて見せるのが条件ではあるけども。
まぁ、何にでも下書きが必要なのは知ってる。
図面に起こしはしたが、ボアの硬い背皮を正確に断ち、なめして加工、特殊な素材を圧着させるには専門の道具と腕が必要だ。
俺はテオを伴い、街の外れにある防具屋「鉄の槌亭」の扉を叩いた。
店主はドワーフのパガス。
腕は一流だが、気に入らない依頼は金で見向きもしない頑固職人だ。
「おう、テオか。」
「こんにちは、パガスさん」
「珍しいじゃねえか、大忙しの石鹸屋のお前さんが、防具屋なんかに何の用だ?」
パガスはこちらを一瞥するとすぐに自分の仕事に目を戻しぶっきら棒な口調で言う。
「おかげさまでね、でも、今日用があるのは私じゃなくて息子のリオなんだが、少しいいですか?」
「うちは石鹸屋の御用聞きじゃねえんだ。
ガキの遊びなら他を当たれ。」
カウンター越しに投げられた言葉に、俺は一歩も引かず、トコトコとカウンターに近寄り、設計図を置いた。
「遊びじゃありません。」
パガスさんは俺の言葉に少しだけ反応し図面に目を落とすが、また不機嫌そうにそっぽを向いてしまう。
「何だそりゃ?
・・・靴か?」
「はい。」
「おい、テオの倅、俺は防具職人だ。
革職人じゃねえぞ。」
「でも、父さんが言ってました。
革を扱うならパガスさんがこの街一番だって。」
「そいつは嬉しい事言ってくれるじゃないか、石鹸屋。」
「いえ、私はただ事実を息子に伝えただけですよ。」
「ふん、おべんちゃらを言われたところでお話にならん、俺は革を扱うのは確かに得意だが、人の命を護る防具以外で何かを作る気は無い、他をあたってくれるか?」
「ですから、私はただ貴方を息子に紹介しただけです。
今日、パガスさんに 商談をしているのは」
と言いながらテオは俺を差し出した手で指し示した。
おお、何かテオがかっこいい。流石だぜ親父!!
よし、俺のターン!!
「今のカスティール騎士団の靴は、兵士の疲労を計算に入れていません。」
「あん?」
「もし、この衝撃を吸収する構造をあなたの店が形にできれば、カスティール騎士団の制式装備の座は、間違いなくここが独占することになりますよ。」
「っく、そうくるか」
テオが囁くような声で笑う。
パガスの金槌を打つ手も止まった。
よし、喰いついた!
そこから俺は、ドワーフなら無視できない素材の可能性を説いた。
熱による圧着と特殊なカシメの提案。
職人の目が、商売の道具から新たな挑戦を見る目へと変わり始めた。
「・・・面白い。
だが、この樹液の扱いは一筋縄じゃいかねえだろ。」
「そこは、俺が立ち会って温度とタイミングを指示します。
失敗した分の素材代は、うちの店が持ちましょう」
「・い・・え・・リオ?」
後から変な声が聞こえるが今は気になんてしていられない。
まさに鉄は熱いうちに打てだ、餌に喰いついてるうちに釣り上げないと大事なタイミングを逃す事になる。
パガスはニヤリと、その剛毛に覆われた口角を上げた。
「いいだろう、乗ってやる。
だが、一つ相談だ。
さっきカスティール騎士団の話が出たが、今はそこから大口の注文が入ってて本当に時間が無い。
そこで、だ。
おい、トール!!」
パガスは大声で奥の工房に向かって声を掛けた。
数秒も経たないうちに一人の青年が店に顔を出す。
「こいつは俺の弟子、トールだ。」
「え?
親方?」
「挨拶しねーか、この野郎!!」
「あ、すいません!!
あ、えーっと初めまして坊ちゃん、とお父上様、俺、あ、いえワタクシ、トールと言います。
宜しくお願いします。」
そう言って大きな革製の手袋を外しトールと名乗った青年は俺に手を差し出した。
俺はその手をがっしりと握り返す。
職人の手の様なゴツゴツした手を予想していたのだが、彼の手は、そこまで堅いという印象は受けなかった。
「こいつはうちの弟子だが、革の扱いに関しては俺が認めるほどの筋がある。
防具としての剛を求める俺とは違い、こいつは柔の扱いが得意でな。
お前のその、妙に理詰めの靴の図面、これを形に出来るのは、俺の弟子の中でもこいつ位だろう。
どうだ、この依頼、コイツにやらせちゃくれねーか?」
パガスはあくまで防具職人としてのプライドを貫きつつ、新しい可能性を若い弟子に託したのだ。
トールは俺の図面を食い入るように見つめる。
「・・・すごい。
革の間に異素材を挟むなんて考えたこともなかった。リオ君、いえ、さん、嫌、様?」
「別にリオでいいですよ、僕そういうの気にしないので。」
「じゃあ・・・リオ君。
これ、僕にやらせてくれないかな?
きっと、今まで誰も見たことがない靴にしてみせるよ。」
トールの瞳には、職人特有の熱が宿っていた。
若い職人の情熱、、。
素晴らしい!!
「ええ、勿論。
こちらこそ、宜しくお願いします!!」
【対象:パガス】
評価:☆☆☆☆
★・種族:ドワーフ
・職能:防具職人
・特性:剛の極致。
鉄や厚革を力でねじ伏せ、主を絶対に守る不落の防具を作ることに特化している。
・技術: 槌の一振りに迷いがなく、素材の強度を限界まで引き出す★
・備考: 性格は頑固。
だが、自分の領分ではない靴の依頼に対し、弟子の可能性を見極めてパスを出す、ベテランらしい組織を統率する能力も持ち合わせている。
【対象:トール】
評価:☆☆☆
★・種族:人間
・職能:革職人見習い
・特性:柔の感性。
素材の呼吸を読み、動きに寄り添うしなやかさを追求できる稀有な才能。
・技術: 革職人としては日が浅いが、異なる素材同士を馴染ませる手先の器用さと柔軟な発想力がある★
・備考: パガスの厳しい指導に耐えつつ、持ち込まれた妙な技法を面白がる好奇心の強さがある。
彼なら、この世界の靴の常識を覆せるかもしれない。
将来性:未知数。




