12話。 俺だって冒険したい話。
カスティール男爵家の騒動から数日。
セブリオン一家は、領主御用達という強力な後楯を手に入れ、教会と連携し石鹸の増産体制も順調だった。
家の中も石鹸を仕込む際の独特の匂いや、様々な花やハーブの香りがごちゃ混ぜになった異臭から解放され快適な生活を取り戻しつつあった。
生活レベルは今迄のままだけど。
まぁ、この家の事はテオとマーサの問題なので、10、もうすぐ11歳の俺は口を出さないようにしている。
出される食事が少し豪華になったのはありがたい事だ。
両親、特にマーサに感謝。
道具屋が石鹸のおかげで繁盛して人を雇える事になったので、俺はおてすき状態になってしまった。
暇かどうかと言われれば、けっして暇では無いが、教会に商売の交渉に行ったり、一市民が一生会えるかもわからない領主に会うなんて一大イベントが無い今の生活は中々にあじけないもんだ。
ワーカーホリック?
いやぁ、子供の身であの胃に穴があくような激動の数ヶ月が恋しい訳では断じて無い。
人を雇って、俺が店番をする機会も減ったし、両親は遊んできなさいと言うけど、、、。
そう言われても、、なんだよなぁ。
この世界の子供が何して遊ぶのかという知識がリオ少年の中に無い訳ではないが、中身がおっさんの俺のとしては、、、、ねぇ。
友達と言える友達もいなかった様だし。
なので、自由になった時間、俺は街の散策とスライム討伐にあてていた。
たまに平原では一角ラビットやヘル・キャタピラー、ビッグワーム等のデーモンと出会す事もあるが、マーサの言いつけを守り、基本スルーしている。
本音は、対峙すると気持ち悪いってのもあるが大きい。
前世からウニウニしたのあんまり得意じゃ無いんだよなぁ。
特にあのビックワームのウニウニ感と言ったら、顔も映画のエ○リ○ンの成体を連想させる気持ち悪さ、中々にグロテスクなんだよなぁ、、、。
オエ。
俺は見つけたスライムの群をガシュガシュと潰していく。
幸い、戦闘職でなくてもこうやってデーモンを狩っていればレベルは上がるんだよなぁ。
それによって身体能力も上がる。
もう、リオ少年の夢だった英雄になれないという現実は受け入れた。
だが、俺自身が強くなる事は悪い事じゃない。
将来、英雄になれなくても冒険者になる選択肢がこの世界にはある。
スライムを潰しながら、あの日のシルヴィアの眼を思い出していた。
あの瞳には何が写っていたんだろう?
俺が未だ見えていない幼い英雄が見据える未来。
この漠然とした心のモヤモヤが何かはわからないが、その何かに備える事は出来るんじゃないか?
「・・・というわけで、護衛を頼みますね、ラベルさん!」
「どういうわけだ?
まぁいいか。
おう! 任せとけって!
今日はこの短槍でビシッと守ってやるよ!」
そう言うとラベル君は俺の目の前で親指をグッと立て、サムズアップをかましてくれる。
「本日は宜しくお願いします!!」
俺は、満面の営業スマイルでお返しした。
この前、店にラベル君が来店した時に、次の休みの日、護衛を頼めないかどうかたずねたところ、「石鹸の件じゃ世話になったしな」と二つ返事で快諾してくれたのだ。
あの日、お噂のギルドの受付嬢、ミランダさんとのデートがうまく行ったようで何よりだが、俺なんかの相手をしないで、休みならミランダさんとの交流をもっと深めなくていいのだろうか?
と、少し心苦しいとこもあったが、まぁ、俺がきっかけで仲良くなれたんだし、彼が俺をミランダさんより優先してくれている内に、最大限活用、もとい、協力してもらうことにしよう。
さて、この数ヶ月で彼がどう成長したか見てしんぜよう。
「鑑定」
【対象:ラベル・エンケ】
評価:☆☆☆
★自称中堅槍士
以前あった危うさは消え、短槍使いとしての「型」が完成しつつある。
だが、自己流の癖が抜けず、攻撃も直線的で壁にぶち当たっている。★
武器は中堅工房製の「鋼鉄の短槍」に新調。
彼なりの手入れが行き届いており、道具を大事にするプロとしての意識も☆☆☆。
おお、まずまずの評価だ、ラベル君も彼なりに努力を積み重ねていたらしい。
根が真面目だからなぁ、この人。
ますます好印象だよラベル君!!
俺達は、いつもの平原より離れた森の辺り迄移動した。
ここら辺に来るのは初めてだ。
不思議と同じ平原でも、見える景色が変わるだけで、大分心持ちも変化するものだ。
「・・・よし、まずは肩慣らしだ。」
ザザッと草が踏みしめられる音と共に前方から、一角ラビットが一匹、結構な速度で飛び出してきた。
いつの間にか短槍を構えていたラベル君はヒョイと穂先を一角ラビットに差し出した。
すると嘘のように突っ込んできた一角ラビットが脳天から短槍に串刺しになる。
「ピギィぃ」
「こうしてこうだな、簡単だろ?」
「どうしてどうなのさ!!」
ラベル君が今やった事ってかなり難しくないか?
突進してくるタイミングをよんで、突っ込んでくる角度に武器を置く。
並の動体視力じゃ無理だって。
もしかして、ラベル君って天才に分類される人な訳?
「皆さん、他の冒険者さんも今みたいに一角ラビットを狩ってるんですか?」
「ん?
まあ攻撃が単調で直接的ってのもあるけど、普通は音を鳴らしてそれに釣られて兎が出てくるから、盾役がそれを盾で防いで、横からってパターンかな?
こいつら目が悪いんだそうだ、攻撃方法って言えば頭の角だけだし、突っ込んでからは飛んでくる軌道は変えられないだろ?
あ、でも、木製の盾だと貫くっていうから要注意だぞ。」
俺は最後の言葉に危機感を覚える。
あ、今迄も結構、出会してたけど、余裕で死ねるやつだったわぁ。
スルーしてて正解だったぁ。
「あの、ラベルさん、僕の武器ってこの短剣なんですけど」
俺は刃渡15センチ程の短剣をラベル君に見せた。
「あ、そうだったな、短剣かぁ、じゃあ、獲物を変えるか、ビックワームとかに」
「あ、え、・・・・そうきますか。
じゃあ、一角ラビットのままでいいです。」
「そうか?
まぁ最初は俺が援護するし、徐々に慣れていけばいいよ」
慣れって、最悪、死ねるんですけどね。
「ふんっ!」
俺は短剣を抜き、現れた最初の一匹と対峙した。
「解析」
【対象:一角ラビットの突進】
・予備動作:右後ろ足に重心が寄る0.2秒後、筋肉の収縮と共に跳躍。
・軌道:直線的。鼻先の角に魔力を集中させているため、正面の貫通力は高いが、側面および着地直後の硬直が致命的な弱点。
・攻略:左斜め前への最小ステップにより、相手の加速を無効化。カウンターによる喉元の切断、あるいは着地を狙った投擲が最適解。
「・・・すごっ」
「リオ避けろっ!!」
ラベル君の声が届いて無ければ死んでた。
俺の脇をビュンっと一角ラビットが通り過ぎていく。
無理して避けた為に俺はバランスを崩し、その場に尻餅をついてしまった。
その隙を逃さない一角ラビットは踵を返し、また俺に向かって突進して来る。
「ピギィ」
という断末魔が聞こえ一角ラビットの横腹から槍の穂先が生えていた。
「大丈夫かリオ!!」
ラベル君は心配そうな表情を浮かべ俺に手を差し出す。
「はい、すいません、ありがとうございます。」
「こいつら、腐ってもデーモンだからな、息の根を止めるまで集中してないと命取りだぞ。」
「すいません、ちょっと、足がすくんじゃって」
これは、真っ赤な嘘なんだが、まさか、「解析」、このスキルここ迄詳細に、これ、攻略チートなんてものじゃ無くないか。
これ通りなら。
「まぁ、誰でも最初はそうなるもんだな、気にすんな。
やっぱ、ビック・・」
「一角ラビットで」
「おう、、そうか?
あっちの方が簡単だけどな」
簡単だろうがなんだろうが、あれは生理的に受付ないんだって!!
それに、一角ラビットの着地点、それが予想できれば俺にも。
何度か目の挑戦。
個体差はあるが、観察して大体の動きはよめてきた、動作が始まる際の後ろ足の筋肉の動き、解析通り、着地後の硬直も確認出来た。
ビュンという音。
着地点は!
そこ!
俺は筋肉の動きから突進の動作を予測して、一角ラビットの行動開始前から動き出し、予測した着地点に走る。
パタっと一角ラビットが着地し、硬直により動けなくなった身体に短剣を突き刺した。
「ピッ!」
一角ラビットはその赤い瞳を大きく見開いて絶命した。
「し、仕留めた・・・。」
「おお、やったなリオ!!!」
ラベル君が俺に駆け寄り、首に腕を回し左右にブンブンと揺さぶってくる。
少し痛いが、嫌な気分じゃない、寧ろ認められた様な気がして、気分がよかった。
俺の口からも自然と声が湧き上がる。
「おおおおおお、あははは!!
やったぁぁぁぁーーーー!!!」
スライムを倒した時には得られらかった高揚感が俺の全身に伝わるのがわかる。
短剣を握る手には獲物である一角ラビットの重みが伝わってくる。
初めて俺一人で狩った獲物の重み。
その重みは疲労もなんも全部吹っ飛ばしてくれた。
サイコーーーー!!
その時、以前にも聞いた無機質な通知がまた脳内に直接響いた。
≪職能レベルが上昇しました。
スキル『推奨』を獲得しました≫
・・・・推奨?
一息ついた、その時だった。
地面を揺らす重低音と共に、森の奥から巨大な影が飛び出してきた。
「グオォォォォン!!」
「・・・・・っ!
まさか!!
ビッグボアか!!!!?」
体長三メートルはあろうかという巨体。
この辺りには滅多に現れないデーモン。
ラベルが慌てて短槍を構えるが、その穂先がわずかに震えている。
あの脳筋のラベル君が、緊張、、、嫌、怖いのか?
それもそうだよな、何時もは信頼するパーティメンバーと一緒に狩るようなクラスのデーモンだ、一角ラビット程度に苦戦する俺が後にいたって足手まといになるだけ・・・。
嫌、いい機会だ。新スキルの実戦テストといこうじゃ無いか。
俺はマジマジとビックボアを見る。
ボアと呼ばれるだけあって前世で見た猪だ。
生えてる牙がいかついなぁ。
「鑑定」
【対象:ビッグボア】
評価:☆☆☆
★森の重戦車(Cランク指定種)
・特性:猪突猛進。
時速60kmを超える突進は、並の盾役のガードを紙切れのように粉砕する。
・弱点:旋回性能の低さ。
一度加速すると軌道修正が効かないため、適切な回避指示があれば、格好の的となる。
・素材価値:☆☆☆
毛皮は防具に、肉はジビエ料理として市場で高値で取引される。
特にロース肉は、スライム石鹸で手を洗った後に食べると最高に美味い。★
あっちも俺達を逃さないつもりみたいだし、今、何も出来なければ死んで食われるだけ。
「ラベルさん」
俺は、しっかりとした口調でラベル君に話しかける。
「ん?」
「頼りないかもしれません、俺に命を預けてくれとは言いません、だから、俺を信じてくれませんか?」
「何だそりゃ?」
ラベル君の口元が少し綻んだ。
「少しだけ、俺の言う通りに動いて下さい、そうすれば・・・何とかして見せます。
最悪、それでダメだったら、ラベルさんは、ラベルさんだけでも逃げて下さい、俺、囮になるんで。」
「あん?
お前、何言ってんだ、そういう冗談言ってる場合じゃないのはお前もわかってるだろ?」
「ええ、わかってます、だからです。
少しでも生存確率が上げられるから言ってるんです」
俺の言葉にラベルは黙り込む。
目の前のデカブツは痺れを切らしたかのように、俺達に向かってガッガッっと後ろ足を蹴り上げ、必殺の一撃の準備を始めていた。
「条件がある」
「条件?」
「ダメだった時の囮は俺だ、お前が逃げろ、リオ」
ああ、この人は・・・本当に。
ミランダさんと上手くいくことを心から願ってますよ。
【スキル:推奨】
・効果:リオが推奨した行動を対象が実行する際、物理・魔力補正が大幅に乗る。
さて、猪狩り、いっちょやったりますか!!
俺は舌舐めずりをしながら猪に相対した。




