11話。 まさかと再会の話。
教会との話がまとまり、セブリオン家の三人が以前の日常を取り戻そうとしていた矢先の話。
この世界は何かをやろうとしている人間を放っておいてくれなのか、とんでもない物が我が家に届けられた。
セブリオン家の、質素な食卓の上に、場違いなほど高級な書状が置かれていた。
上質な羊皮紙、銀の大鷲の紋章が刻印された封蝋。
何処かのお偉いお貴族様と言われる、いわゆるな人間から送られてきたであろう丸まったままの書状をぼーっと、つっ立ったまま見つめる、テオ、マーサ、俺の三人。
側から見ると物凄くシュールな光景だろうが、ここに居るのは俺達三人、気にすることは無い。
「鑑定」
【対象:男爵家からの召喚状】
評価:☆☆☆
★招待状
高級な羊皮紙。
書かれた筆致は力強く、書き手の迷いがない★
・・・って!
嫌、いや、嫌、いや、、、。
おわた。
完全に目をつけられた。
俺は前世、汗水垂らして積み上げたプロジェクトを、上層部の鶴の一声で強引に奪われ、手柄だけ持っていかれたあの日の苦い記憶を呼び起こした。
組織という巨大な歯車に、個人の努力がすり潰される時のあの絶望感だ。
テオとマーサの二人は、まるで年貢が払えなくなった小作人のようにガタガタと震えている。
最近のテオはいたたまれなさが板について。
・・・・本当に見ていて心が痛くなる。
ごめんよ、二人共、ただ俺の思いつきに手を貸してくれただけなのにこんな事になっちまって。
震える手でテオはその書状の中身を確認する。
「石鹸の製作者、セブリオン一家へ。
貴殿らの功績、聞き及んでいる。
明日、日が高くなる頃、一家三名揃って我が館へ参れ。
男爵 ガウェイン・カスティール」
「・・・ただの、召喚状なのね?」
マーサは心底安堵したように言うが、その表情は未だに晴れなかった。
「クラウス様を通じて、僕達が石鹸の製作者と言う事が知れたんだな。
まさか、領主様に迄話がいくなんて、想像もしてなかったよ。」
え、、、りょう、、、、主?
テオ、今、領主って言ったの!?
「マーサ、君、なんて顔をしてるんだ。
誰も、まだ誰もリオのスキルの事を知らないんだ、安心して。」
「ええ、でも、私。」
「心配なのは僕も一緒だよ。
でも、そんな事にはならない。
僕達がしっかりとリオを守ってやればきっと何とかなる。
僕達が不安がってたら、リオまで不安になっちゃうよ。」
「ええ、ごめんなさい、そうね。」
マーサはそう言うと優しく俺を傍に抱き寄せる。
・・・・・そう言う事か。
俺の脳内では、いくつも最悪のシナリオが構築されていた。
有無を言わさぬ石鹸の製法の独占。
家族と強制的に引き離され、あの「剣聖」の少女と同じように、都合のいい「駒」として一生飼い殺しにされる未来。
都合よく、排除される、俺の・・・両親。
俺は道中、胃をキリキリさせながら、豪華絢爛な領主館の門をくぐった。
案内する老執事は、古いながらも汚れ一つない燕尾服を着こなし、静かに先導していく。
初生執事、かっけぇー!!
嫌、違う、違う。
俺は歩きながら、男爵がどういう人間かを知る為、密かに「鑑定」を実行する。
【対象:カスティール男爵館・内装】
評価:☆☆☆
★設備は古いが、隅々まで手入れが行き届いている。無駄な装飾を削ぎ落とし、実用性にリソースを割いている「堅実」な経営者の城★
意外だ、成金趣味を酷評されて星1かと思ったが、意外とまともな評価だな。
確かに今迄見てきた建物の中では教会以上に豪華だけど、絢爛豪華っていうよりは、質実剛健って感じで好感がもてる。
だが、肝心なのは中身だ。
廊下を進む。
壁には歴代領主の小さな肖像画が並んでいた。
赤い絨毯は所々すり減っているが、埃一つ落ちていない。
「こちらです。
男爵閣下がお待ちです。」
老執事が足を止めたのは、年季の入った木の扉の前だった。
一呼吸置き、その扉が静かに開かれる。
そこは、書斎を兼ねた応接室だった。
部屋の奥、使い込まれた革張りの椅子に座っていたのは、熊のような体躯に厳格な髭を蓄えた男だった。
「・・・!」
その傍らに、あの日大聖堂の光の中にいた少女、シルヴィアが凛とした立ち姿で控えていた。
10歳とは思えない、という言葉は、中身おっさんの俺の為にあるんじゃない、この子の為にある言葉なんじゃないのだろうかという程に洗練された立ち姿は俺を色々な意味で圧倒させる。
リオ少年の初恋の相手・・・・か。
噂通り、貴族に引き取られ、貴族の戦う人形にされた悲劇の少女。
そして、その職能を私物化する権力者。
俺は男爵を真っ向から見据え、その本性を鑑定した。
【対象:ガウェイン・カスティール】
評価:☆☆☆
将来性:☆☆☆☆
★領民への慈愛と騎士団への責任感に満ちた、稀に見るホワイト領主。
現在の悩みの種は「騎士団」と「妻との冷え切った関係」★
・・・・え?
評価たっか!?
しかも悩みが家庭的すぎだな!
俺達が深々と頭を下げ挨拶すると、間をおいて男爵が地鳴りのような低い声で口を開いた。
「・・・セブリオン一家、テオよ。
まずは礼を言わせてくれ。
貴殿らの作った石鹸。
これのおかげで、我が騎士団が、かつてない事態に陥っておるのだ」
・・・・マジか、早速言いがかりでくるのかよ!?
弁明の言葉を述べようとテオが動くがそれより早く男爵の二言目が発される。
「・・・・騎士たちの、臭い消えたのだ」
「・・・・へ?」
テオが、これまでで一番間抜けな声を漏らした。
男爵は拳を握り締め、熱っぽく語り出した。
「男臭い兵舎の臭いが一掃され、鎧の下の肌荒れに悩んでいた若手たちが、今や乙女のようなツルツルの肌で訓練に励んでおる!
さらにだ、私も妻から「最近、いい香りがしますわね」と、数年りに頬に口づけを賜ったのだ!
感謝してもしきれん!」
伯爵の顔が、厳格な領主から「石鹸のファン第一号」のような緩みきった笑顔に変わった。
隣で少女が、堪えきれずに「ぷっ」と吹き出している。
はい?
どう言う事?
【対象:シルヴィア・カスティール】
評価:☆☆☆
将来性:☆☆☆☆
★男爵を「お義父様」と慕い、守るべき場所、人を見つけた少女。
ただし、その瞳の奥にはデーモンに対する鋭利な殺意を秘めている★
・・・・疑って、本当に、すみませんでした!!!
俺は心の中で、全力で土下座した。
話を聞けば、男爵様がシルヴィアを養女にしたのも、他領のハイエナ貴族から彼女を守るため。
彼女の実の家族には一軒家を与え、不自由ない生活を保証しているという。
「リオと言ったか。
お前の才能は素晴らしい。
お前のような才人が我が領地から出るのは私の誇りなのだ、これからも両親の元で、よく学び励むといい。」
男爵様は椅子から立ち、直接俺の頭をその大きな手で優しく撫でてくれた。
・・・・器がデカい。
この人、手柄を奪うどころか、才能を伸ばそうとしてくれる理想の上司タイプだわ。
疑ってた自分が恥ずかしすぎる。
男爵様は、俺たちが手土産にと持参した石鹸の詰め合わせを宝物のように抱え、金貨の入った袋をテオに握らせた。
「これは石鹸の褒美だ。
それと、今後は領主家御用達の商売を公認する。
万が一にも無いだろうが、エブンの商業ギルドが何か難癖をつけてきたら、私の名を出せ。
・・・・あいつら、私の石鹸の供給を邪魔しようものなら、私が直々に殴り込みに行くからな!
あっはっはっはっはっ!」
ホント、豪快なおっさんだな。
好感しかない。
しかし御用達か、、、。
今回の功績が認められたって事だよな!!
嬉しすぎる!!!!
石鹸普及っていう願いもこれでより一層、現実味を増したってもんだよな!!!!
おっしゃーーーーー!!!!!!
帰り道、夕日に照らされながら、俺たちはこれまでにない軽い足取りで帰路についた。
テオは金貨の袋を大事そうに抱え。
マーサは俺の手を引きながら
「いい方でよかったわねぇ」
と、すっかり伯爵を褒め称えている。
結局、シルヴィアとは話せずじまいだったな、、。
俺の中のリオ少年はどう思ったのだろうか?
ふと、シルヴィアの視線を思い出した。
彼女は、男爵様の冗談に笑いながらも、ふとした瞬間に窓の外に目をやっていた。
その瞳は剣聖の鋭さを宿し、とても普通に外の景色を眺めているようには思えなかった。
・・・気になるな。
俺の知らない所で静かに、だが確実に、この土地にデーモンの足音が近づいていた。




