第20話「闘争か、対話か」
『「闘争か、対話か」禍滅の光 死の星は輝きだした。 エクラットの名を持つものよ、選べ』
そう言う声が、聞こえた気がした。
全身が痛い。
魔王の痛みに呻くような声も聞こえてくる。
頭が痛い。カマルの意識は少しずつ回復していった。
最初暗かった視界もぼやけているが戻ってきた。
魔王がロストに組み伏せられていた。
霊体なのになぜ触れられる?
あちらから干渉しなければ物理的接触なんて不可能なはずなのに。
ロストが言う。
「この平和などとほざく理想を語る愚者魔王の言うように、私からもお前に選択を迫ろうか。
対話か、闘争ーーーどちらを選ぶ、カマル」
「私はーーー私は!」
『君はーーー対話を選ぶべきだ! 復讐心に囚われるな! 』
魔王がロストに組み伏される中、叫んだ。
「でも!」
今まさにあなたは死にかけてるじゃないか。
そう叫び返そうとしたその時、
「うるせえよ! 死ねよーーーこの紛い物の街とともに!」
ロストの黒い渦を纏った拳が少年の胸を穿った。
魔王テオドラが消えていく。
光の粒子となって。
なんてあっけない。なんて無惨なーーー。
お前がーーー魔王テオドラを語るな
怒りが激情が雷撃のように頭の芯を貫いた。
新たな魔法。いや、名を取り戻した今だからこそ、放てる魔法。
カマルはその魔法を叫ぶ。
「カマル・エクラットが我が血、我が名を捧げて極星ギアの導きのままに命じるーーー現れいでよ
無の魔法!エクラットバーンズ・ロストスクエア!」
黒き光それが銀霊剣へと宿る。
それは飛ぶ斬撃となる。それは外界の遮断を攻撃に転用する、すなわち物質ごとこの世に存在できなくなり一度でも触れれば消え失せる。まさに脅威の魔法だ。
ロストに放とうとした時、
ーーーつまらないね 私が滅ぼすことにするよ
人間界も魔界も
声が聞こえた。
高らかに。
清廉かつ脅威の恐れ多い神の如き、声が。
ロストが天を仰ぐ。
「な……に」
魔界の空が禍々しくも神々しい赤の光に全て染まっていた。
全てが隕石であることを除けば、きっと素晴らしい光景だっただろう。
その真ん中に空中で立つ人物がいた。
銀の耳飾り、手にカシワの杖、そしてーーーリゲイルの仮面
魔術師タナデス・フォンリード、その人だった。
杖を上から下へとゆっくりと動かす。
瞬間。
一つの隕石が超速で飛来した。
何かにぶつかった音がした、と思った刹那。
閃光が激しく照らした。
爆炎が上がる。
それが50回以上も続いた。
イデオロンドを破壊していく。
ロストが魔術師を殺そうとした時、既に身体の約半分を焼き潰していた。
瞬間的な光り。
ただ一つの光芒が、脅威を殺した瞬間だった。
けれどロストはそれでも、動こうとした。
「害虫めーーー焼き果てろ」
隕石がロストを集中的に焼き尽くしていく。
魔王も、イデオロンドも無事では済まなかった。
カマルの視界が切り替わる。
次には白の世界に立っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
魔術師は言った
「君は、闘争を選ぶべきだ」と。
君にビジョンを見せようーーーそう言ってパキンと指を鳴らして世界を切り替えた。
見たまえ。もう世界は戦争の最中にある。
君がロストに捕まったせいで、装置を破壊しなかったせいで、人々が殺し合っている。
君が決断しなかったせいだ。
闘争を選ばなかったせいだ。
ーーーーけれどもね、
「世界はこれより終わりをつげる。
死の星の条件が満たされーーーあとは最後のピースがたりてない」
そう言って、杖を掲げた。
世界が白の世界へと再び切り替わる。
紛い物の世界、魔界と人間界の狭間の世界へとーーー。
「さあーーー選択しろ」
「私はーーー対話を選ぶ」
「なんだと……?」
魔術師がロストのような、教主のような狂気を帯びた視線を向けた。
カマルは沈痛な表情をして、口を開く。
「どうして? あなたはなぜ、そこまで変わってしまったんですか?
勇者や戦士が死んでしまったことはつらいよ。帝国やほかの国に『勇者一行に価値はない』と言われたことはつらいよ。けれど、他の人々ーーー」
死んでいった仲間の、イシュカーやスノウの顔を思い出して声が詰まる。
けれど、懸命に続ける。
「他の、一生懸命に生きている、生きようとする人々を巻き込んでまで、カルデアやロストの意思『死の星の条件を満たすこと』に尽くすことはありますか?」
「あるさ」
「うそです」
「いいや、あるさ。けれど普通は、ないと答えるだろうね」
「それを分かっていながらなぜ、あると答えるんですか?」
「ーーー人間界と魔界、両方を血の海で満たせば、死の星が輝き……勇者一行を蘇らせることができるからだ」
「そんなことはーーー彼らは望んでない」
「どう言う意味?」
「死の星を使ってまで、彼らは生き返りたいと望んでいるはずないです」
「それはーーーきみ個人の考え?」
「いいえーーー死んだ、魔王の少年の言葉です」
「魔王?」
「ええーーーあなたは北の王国と帝国の、各々の王の命により、魔王討伐のために動いた。その時、魔王は打ち倒されましたが、その魔王は魔王と呼ぶには幼すぎた。そうでしょう?」
「ふーーー懐かしいな。あの時は、あんな魔王だからこそ、統括する魔物の軍勢や民衆に言葉が届かなかったのだと思っていた」
けれど、と魔術師は拳を握る。
「けれどね、魔王は魔王だ。役職は役職だ。仕事だろう? なら何故、届かせようと努力しない。配下がすべて聞き耳持たなかったから? そんなの、通用しない!」
「ーーーっ」
「魔王だからこそ、圧政を敷いてでも聞かせればよかったじゃないか。聞かなければ、勇者や戦士にやったように拷問でもなんでもすれば良い!
なのに、しなかったじゃないか。民主主義がどうので動かない、頭の固いどこかの帝王と同じだよ」
「それは、侮辱だ」
「は?」
「テオドラは、平和を何よりも大切に思っていた。その真意を理解できていないくせに、あなたはテオドラを侮辱した!」
「はっーーーだからなんだと言うんだ。もう世界は死の星の条件を満たしつつある。あと誰を殺せばいいか分かるか? お前だよ、カマル・エクラット」
「させないーーー意地でもあなたを止めてみせる、この魔王から授かった剣と無の魔法の力で!! その後でしっかりと話を聞いてもらいますよ、魔術師タナデス・フォンリード! 」
「やってみせなさい。光の三極星の御手だから、舞い上がっているだけだと言うことを教えて差し上げますよ」
二人は睨み合った。
魔界と人間界、その天上で二つの死の星が紅く強く輝いた。
禍々しくそれでも美しくーーー禍滅の光が二世界を照らし出す。
一方、フェイル海王国に出向いたチーム……ケルトただ一人だけ生き残った。レイドと帝国で邂逅する。
ケルトは涙ながらに言った。
闘王リアが亜人テイルに殺され、オーガルが魔界ゲートの中へと入った、と。
世界の終局が始まろうとしていた。




