第18話 イデオロンドの街明かりを浴びて
カマルは情報に圧倒されて、さまざまな感情に支配されて、吐きそうになっていた。
なんだ。なんなんだ。
これでは魔術師が狂うのは当然だ。
心から愛していた勇者や戦士に裏切り者と罵られ、それでも助けようとして魔王の城に乗り込んだのに既に死んでいたと言う喪失感。
そして。魔界の真実ーーー全てが魔術師の心を殺すに至るのは当然。
魔界と人間界が鏡合わせと言うのも何故か腑に落ちる。
死の星と極星ギア
カマルとロスト
魔界と人間界
その対極なようで似たような力、似たような文明を誇っている。
だから、どちらかが破壊されればどちらかも破壊される。
どちらかが発展すればどちらかも同じように発展を遂げる。
時間に際はあるかもしれないが、そう言ったものだとなぜか理解できた。
それでもやはり信じられない自分がいるのもカマルは分かっていた。
胃液を吐く。
そんなカマルを見て魔王が背中をさする。
『大丈夫かい?』
「ごめ……げほ……大丈夫」
何度も咳き込むカマル。
しかし少しずつ、落ち着いてきた。
「続き話すね」
「うん、お願い……」
『あとはーーー君の名前が下しかないこと。これは、ロストに名を奪われたからだ』
「ーーーは?」
疫病で亡くなったんだろ? 君の家族
本当は違う。ロストが殺したんだ。
魔王の言葉を聞いた瞬間、ザザーーーっと過去の記憶にノイズが走る。
そこに、人影が見えた。
ロストのような気がする。
『ーーー君の本当の名は、カマル・エクラットなんだよ』
ーーーな、に
カマルは驚きすぎて声が出せなかった。
そんなカマルに魔王は続けて言う。
『ちなみに、エクラットは盾を司る。それだけじゃなくて外界の遮断の意味を持つ。
ロストはカマルのそれがたまらなく欲しかった。
だから奪ったんだ、君の姓の名を。僕の死体を喰らい、邪神龍を殺して喰らい、あまつさえカマルの両親すらも殺した。
全ては自分が崇拝する先代魔王のために。
けれど結局のところそれがカマルに無の魔法を与えてしまうわけだよ。
カマルーーー君の両親が亡くなって、レイドやケルトの両親も亡くなったのは、全てはロストが殺したからだ。
ロストは君らを殺そうとした。
けれど君たち3人には特殊な結界があった。
光の三極星に選ばれしものにのみ備わる防御機構だよ。
エクラットはそれよりも強いものだと思ってほしい。
君の持つ無の魔法はエクラットが魔物の因子を取り込み、変異した魔法だ。
だから使えば意識が消えて暴走につながる。
けれど、もとはエクラットから来ているから僕が渡す剣ーーーその鞘が抑制してくれるはずだ。
そしてね。事実、ロストは記憶の一部を失っていてーーーそれでも光の三極星同士がひかれあうように、君らを殺すことで力を奪うことを達成しようとしているんだ』
ーーー謎の影の人物、それがロスト。
それが両親を殺すのが分かる。
血飛沫をあげて死ぬゆく。
なのに目が覚めたら傷一つない、飛び散ったはずの血がない。
それになぜか、致死性の微生物を摂取したことで死んだことにされたのを痛く理解できていた。
それに実際に、医者によって微生物が検出されている。
カマルは汗だくになりながら、
「そ……んな……でも、だって……だってそんな!」
現実を受け入れられないでいた。
ロストも覚えてなさそうだったのに
けれどもそう言いかけて、カマルは気づく。
ならなんで魔物のような力が私にある?
その問いが膨れ上がってカマルは息がまともにできなくなり、過呼吸で倒れた。
気づけば、テオドラに浮遊魔法で運ばれながら、イデオロンドの中を歩いていた。
子どもや生活感を見る。
『ここイデオロンドにはね、居場所をなくした半魔半人の子どもを匿う施設があるんだ。
人間界ではまだその子達を救う制度、施設はないみたいだけどもね』
子どもたちが走り回っている。
転げて涙ぐんでも、それでも声をあげずにまた楽しそうに駆け出す。
街灯の暖かな光が彼らを優しく照らしていた。
人間界と同じだと、カマルは思った。
「どうして……なんで、人間界と魔界は鏡合わせなの? そうじゃなかったら、きっと……」
『そうだね……。独立していたなら、どちらかはきっと滅んでいたし、文明もこんな風に栄えることはなかっただろうね』
子ども達の走り回る施設から離れる。
しばらく歩くと商店街についた。
パン屋の香り
本屋の少し埃っぽくて、古書の独特な匂い
電気屋の明かりが、煌々と輝いている。
魔物達が穏やかに商売を営んでいる。
まだ赤ん坊の年の子を背負って買い物をする魔物もいた。
ひどく懐かしい気持ちになる。
ああ、人間界のようだ。人間達と変わらない。
カマルは気づいたら泣いていた。
『少しあのベンチに座るかい?』
公園があった。
木製のベンチが街灯の暖かな光に照らされている。
カマルは頷いた。
魔法が解除され、重力を感じた。
カマルはベンチに座る。
「私は……全部を信用したわけじゃない。全部を聞いて……イメージをその目で見て、けれど、解釈に時間がかかってる。だけど……」
『うん』
テオドラは優しく微笑んだ。
『今はそれで、いいよ』
「あなたのことは、信用していいと思った」
『ありがとう』
そう言って、二人は握手を交わした。
『さてーーー君に渡そう。この剣を』
握手をしている手が白く輝きだす。
現れたのは、蒼く光り輝く竜の鱗を装飾された鞘に収められた剣。
『解句はーーー「満ちろ、極光。全ては星の瞬きに回帰する」だよ。だけど、本当に必要な時以外はあまり使わない方がいい。剣が鞘に収まっている時に、君の無の魔法の暴走を抑え込んでくれるから』
カマルはずしりと重い、その剣を受け取った。
その時だった。
「茶番はもう終わりでいいかな?」
ロストが現れる。
「魔王の、この街など平和すぎて怖気が走る。
ーーー壊して滅させてもらうよ」
そう言って、醜く笑った。
「死の星の条件は、整いつつあるんだ。死んで協力してくれたまえ」




