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星の瞬き〜光の三極星を極めし者たちが紡ぐ物語〜  作者: 木賀 拓人
第二部 魔界編そして戦争へ至る足音
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第17話 銀色の旅路 魔界編 急③ 破滅へと至る

 ばらばら、とたくさんの拷問器具が雨のように降り注ぐ。

 魔術師は、頭を両手で抱え、身をかがめる。

 その状態で待つこと数秒後に、おさまった時。

 

 壁に大きな亀裂が入った。

 

 それは人工的で、真っ直ぐ下に線が引かれ、徐々に左右に開いていった。

 

 ーーー隠し扉だったのか。

 

 完全に開ききって、魔術師が最初に見たものは、おどろおどろしいライムグリーンの光に照らされた部屋だった。

 

 中は、強烈な薬品の匂いがした。

 部屋の中央に、ライムグリーンに輝く溶液が入った円柱状の装置があった。

 

 その傍らに、視線を向ける。

 声を、あげそうになった。

 

「ルクス、ユークハルトーーー」

 

 声が、震える。

 

 楽しかった思い出が水泡に帰すことなく、悲しい今、走馬灯のように蘇る。

 なぜだと言いたくなる。

 神が定めた己の運命は、こんなにも血に滲んだものだったのかと。

 けれど、

 

「ルクスーーーごめんなさい」

 

 あんなにも年相応に輝いていた少年が、今ではもう、見る影もなく痩せこけていた。

 四肢をもがれたのだ。血が溢れでている。だが、延命装置で生かされているのだ。拷問、辛かっただろう。いや今もまさに、辛いのだと思う。

 

 戦士も、女性にしてはごつごつとした筋肉がついた方だった。けれど、今ではストレスからか生きる糧に変換され、魔術師と遜色ない程の細身になっている。

 

 ーーーごめんルクス、ユークハルト。私には2人を運ぶだけの魔力もなければ筋力も、体力もない

 

 応援を呼んでくるから、それまでどうか無事でーーー。

 

 思う。

 

 ーーー無事じゃない。彼らはもう

 

 負の心に脳が支配されそうになる。

 

 ーーーいや。自分が信じなきゃ誰が信じるんだ

 

 首を横に振って負の心を追い出し、魔術師は拷問部屋から脱出して、駆け出した。

 

 長い廊下を走る。

 魔力はあと、5回しか使えない。

 それも小さいことだけ。

 

 流動性のあるものを押すか、催眠をかけるか、自分の足に魔力を纏わせて移動速度を上げるか

 

 その3つの要素だけだ。

 転移魔法も使えることは使える。それで人体を転移した場合、圧縮されて生き絶えるしかないが。自殺願望があるやからしか、それはやらないだろう。

 いや、これも緊急時には必要かもしれない。とすると、4つ使えることになる。

 けれど、じきに魔術師が拷問部屋から抜け出したことが分かり、「潜入して魔王を殺した」ということから、追っ手に捕まれば処刑は確実だろう。

 

 実際、怒号にも鬨の声にも似た魔物の叫び声が複数、前から後ろから遠くではあるものの聞こえてくるのだから。

 

 そして、渡り廊下を魔術師を挟んで前と後ろを封じられた。

 向かう場所は、前しか無い。

 

 あとは、なかった。

 

 前から後ろから、迫り来る魔物の群れは恐怖を煽るが、精神操作系魔法の中で1番低級に位置する催眠術を、前の群れにかける。

 眠気を催し、昏倒する魔物の群れを飛び越えて床に着地すると、魔力を足に纏わせ、脇目も振らずに走る。

 動悸がひどい。

 汗も滝のようで、ローブの中が気持ち悪い。

 だが今は逃げて帰らなければ、死ぬだけだ。

 

 魔力の濃度が高まる。

 

 極度の緊張で、過集中気味だからかもしれない。

 それのおかげで渡り廊下の先、螺旋階段にたどり着いた。

 ーーーそこにあるのはさらなる絶望。

 

「うそ……」

 

 最上階を抜いて、他の階下のその全てが魔物の群れでごった返していた。

 

 そこで魔術師は、はたと思いついた。

 

 転移魔法で別空間に飛ばした、「オークの爆発する瞬間」。

 

 ーーーそれを引き出して、投げつければ。

 

 しかし、それは危険な賭けだった。

 魔術師自身も巻き添えを喰らい、死ぬ可能性だってある。

 

 けれど、ここで処刑されるよりはましだ。

 

 魔術師は転移魔法を、螺旋階段のちょうど円形の空間に展開した。

 別空間から心臓のように脈打つ、障壁に覆われ、圧縮されたオークというか肉の塊が、外界に放り出される。

 

 無数の魔物の群れが一斉に、魔法や弓矢、投擲物をその肉の塊に当てる。

 

 紅く光る。

 それはさながら死の星の輝きのようでーーー。

 

 瞬間、爆発した。

 

 半径100kmに及ぶ、爆発。

 燃焼を繰り返し、辺り一面を焦土と化すほどの脅威が、今まさに魔王の城内部を蹂躙した。

 魔王の城の壁を爆風が砕き、ついで、その爆風が、魔術師の身体を浮かせて飛ばす。

 外へ、放り出された。

 魔界の空は満天の星空で、眼下には黒ずんだ大地が広がっていた。

 地平線が見える。

 重力に飲み込まれ、落下する。

 その時、魔界の、集落と村々、住宅街を見た。

 

 ーーー魔界も、人間と同じ……想像したのと同じ

 

 涙が、溢れた。

 それならどうして、戦い合う必要がある。

 魔王の言葉は、どうして届かない。

 人間と魔界は、やはり同じように知恵を持っている。

 けれど、

 

 ーーーけれど、勇者と戦士をあんな目に合わせたのだけは許せない

 

 この許せない、という心が戦争を生むのだと微かに感じながらもそう思わざるを得なかった。それほどまでの強い怒り、後悔が魔術師の胸に重しとなってあり続けているのだから。

 身体が急落下を始めた。魔術師は身体を抱くようにして衝撃に備え……わずか10秒後に右半身から地面に叩きつけられる。右肩が脱臼した。

 痛みで視界が霞む。それでも意識を強引に保ちつつ、魔王の城に視線を向けると、

 

 ーーー破壊されたはずじゃ

 

 爆発などなかったかのように、時間が巻き戻ったかのように、綺麗さっぱり傷ひとつ付いていなかった。

 

 魔術師は起き上がる。

 脱臼した肩を抱き、無理にはめ込む。ズキンと痛んだ。

 それをぐっと噛み締めて耐え、ゲートに向かい、歩を進めた。

 

 惨めだとは思う。

 けれど、勇者一行として旅をした魔術師にとって、彼らは大事な存在だった。

 だからこそーーー応援をよこしてくれと、依頼するためにただ前に、足を運ぶ。

 

 ーーーその後ろ姿を、二対の龍の扉の前で、眺めていた少年がいた。

 少年の身体は透き通っていて、正面から二対の龍の扉が見える。

 その少年が、口を開く。

 

「時は、動きだした。ーーー極星ギアの御心に、きみが選ばれることはなかったけれど、もしかすると……きみに関係する者が、選ばれるかもしれないね」

 

 そう言って、笑った。

 

 _____________________

 

 消したはずの文章、フォンリードの心を、具現化したものがこの手にある。

 暗いけど心して聞いてね、カマル。

 

「今思えば、魔王も、人間界の「民主がどうの」で動こうとしない帝王と同じだった。

 自分の言葉が、届かなかったんじゃない。

 届かせようと努力してなかったんだ。

 

 ーーーふざけるな。

 

 もう、何もかも消え去ればいい。

 

 全部消えろ。

 

 勇者も戦士も無価値だと言う世界など、すべて消えてしまえ。」

 

 どうかな?

 世界はロストだけじゃない、生き残っていた魔術師によって支配される可能性がある。

 けれど彼女が目指しているのは世界平和……けれど、いろんな悲劇が重なって歪んでしまったものだ。

 どうか……どうか彼女を救ってほしい。

 そして、どうか彼女の知ったことを君も知った上で選んでほしいんだ。


 対話で掴む平和か、武力による闘争かを。

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