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星の瞬き〜光の三極星を極めし者たちが紡ぐ物語〜  作者: 木賀 拓人
第二部 魔界編そして戦争へ至る足音
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第17話 銀色の旅路 魔界編 急② 裏切り者

 だからこそ、少年は笑う。

「これが魔王となった僕の身の上であり、今の僕が死にたがっている理由だよ」

「そう……ですか」

 魔術師は何か言おうとするが、声が出ない。

 ーーー魔王とはいえ、こんな殺人とは無縁な子どもを殺すなんて……できるものか。

 けれど、彼は死にたがっている。

 なぜそんなに死にたがる。「災禍の四つ風」に直接、指示をしたわけではないじゃないか。

 そんな彼女の逡巡を感じとったのか、勇者が煩わしそうに口を開いた。

「もう、良いだろ……これ以上、殺すのを引き伸ばすな」

「分かってるよ……勇者」

 苦し気に魔術師がそう言ったのを皮切りに

「気を取り直して……さあ、僕を殺してくれ」

 魔王が、魔王の少年が殺しを促す。

「ああ、どんなにお前ら魔物が言い繕ったところで人間の……母さんの仇であることにかわりないんだ」

 勇者は頷き、剣を振り切った。

 鮮血が、ぼたぼたと音を立てて剣身から落ちる。

 遅れて、とーん、と固いものが落ちる音がした。視線を動かす。

 

 それは、魔王の首だった。

 

 痛みがあっただろうに、それでも穏やかな死に顔。

 勇者の身体が小刻みに震える。

 魔物への怒りか、それとも殺してしまった自分への怒りか。

 勇者に魔術師は声をかけようとする。けれど、全く声が出ない。

 無言の空気に包まれ……その静寂を断ち切ったのは勇者だった。

「……なんでだ」

 彼の口から発せられた言葉は、虚しく狭い空間に溶け込む。

 勇者は歯をくいしばる。

「ーーーふざけんな」

 そんな低い声が聞こえたと思えば勇者は、魔王が座っていた椅子の背もたれを蹴っていた。

「なんでだよ! 」

 何度も何度も椅子の背もたれを蹴り上げる。その度に魔王の椅子が軋みをあげ、その鈍い音が、部屋に反響した。

「魔王なんだろ! もっと……もっと、魔物らしいことしろよ。ふざけんな、こんなーーー人間みたいな」

 蹴り上げるのをやめる。荒い息を繰り返す。そして、深呼吸をしたかと思えば、持っている剣を振り回し、魔王のデスクを斬りつけた。木くずとともに、高そうな羊皮紙がばらばらとフローリングに散らばる。

 勇者は魔術師達の方に振り返り、叫ぶようにして問いかける。

「俺たちは魔王を、殺したんだよな! そうだよなあっ!?」

「はい」と素直に頷けなかった。

 魔術師は黙りこみ、首を失った魔王の亡骸を眺めた。

 血が溢れ出る断面に吸い込まれるようでーーー突然、たくさんの金属を揺らす音が聞こえた。近づいてくる。

 勇者一行は身構え、入り口を注視した。ほどなくして。

 

「我らは、魔王軍である。勇者一行、速やかに投降せよ」

 

 総勢、10頭ほどの魔物の軍勢。

 特級を示す金の両翼が基調となった印を魔物たちが、それぞれの鎧につけていた。

 

「っ……魔王軍の、そのイニシャルは特級か」

 

 戦士が苦悶の表情を浮かべる。

 ーーー感傷に浸る間もない!

 魔術師は舌打ちした。

 ーーーけれど、もう戦闘できるだけの余力は……

 確かに魔術師たちには、もう戦闘をするだけの体力、魔力も集中力もなかった。

 加えて魔王の間は、本当に魔王が住まうところなのかと言うほどに狭く、戦闘の立ち回りに不向きである。

 

「我らに従い、潔く投降すれば命は助けてやってもいい。だが、少しでも動けば殺すぞ」

 

 魔術師は、歯噛みする。

 

 ーーーここで、終わりになるのか。私たちの旅路は。……いや、ダメだ。考えなくては。

 

 諦めに心が持ってかれそうになるが、首を横に振って持ち直す。

 勇者が怒りに身を任せ、言い放った。

 

「黙れーーーたかが魔物の分際で、人間に気安く話しかけてんじゃねえよ」

 

 勇者が、魔物の群れを睥睨する。

 剣の柄を握り直し、可視化された魔力を剣身に帯びさせる。

「勇者殿。わたしも、手を貸そう」

 

 戦士も、前傾姿勢を取り、身を低くした。

 手に持つ斧の刃が、天井に輝くランプの光を受けて紅色に輝く。

 

 ーーーダメだ

 

「ーーー投降しろ、と我らは言ったのだがな。聞かんのなら仕方がない」

 

 魔物の隊長格がため息をつく。

 静かに告げた。

 

「殺せ」

 

 魔物の群れが動く。

 

 ーーー待ってくれ

 

 魔物の群れと、魔術師以外の2人が動く。

 

 ーーーまだ、切り抜ける算段がたってないんだ。お願いだ、待ってくれ

 

 両者が衝突する、ほんのわずかな時間に

 

「魔術師殿、攻撃を!」

 

 

 ーーーそうだ

 

 思い至った。脳内で魔術式を展開する。

 そして、勇者と戦士の精神を乗っ取った。倒れさせ、魔術師自身も平衡感覚を失わせて倒れる。

 同時に、複数の剣の切っ先が、喉をかすめる。

 観ると、魔術師自身を含めて全員が生殺与奪権を魔物の軍勢に委ねられていた。

 

 それが、その選択が、大きな間違いだった。

 

「どう、して」

 

 勇者の目が魔術師に向けられる。

 それは、失望の色だった。

 戦士も同様に、失望の色を含んだ表情で魔術師を見上げる。

 

「魔物に唆されたのか?」

 

 失望の色の奥……心に宿っているであろう、憎悪の焔に揺れる勇者の視線が言う。

 

 ーーーほら見ろ。魔物なんてしょせんは感情を持たないただの化け物なんだ

 

 違うよ、勇者。

 それは違う。

 魔王は、勇者、君に似てるんだ。

 ただ、種族が違うだけなんだよ。

 

 他の魔物だって、全員が全員そうなわけじゃないはずだ。

 実際、人間と同じように技術を持っているし、知力があるからこそ、ここまでの軍隊を用意できたのだと思う。

 

 魔術師は、首を横に振る。

 

「ーーー違います」

 

 勇者の口がかすかに動いた。

 聞き取れず、

 

「えーーー?」

 聞き返す。すると、勇者が激昂し叫んだ。

 

「ふざけるな! この、裏切り者!」

 

 魔術師にとって、この言葉はショックだった。胸が苦しい。

 急に視界がぼやけた。

 けれど、かぶりを振って、無理に視界をもとに直す。

「ーーーごめんなさい」

 謝る。

「何故だよ、魔術師! 俺たちは、仲間だろ? 仲間だっただろ!?

 なのに、どうして!」

「そうだぞ、魔術師殿! 何故こんな、裏切るような真似を!」

 勇者と戦士は、それに便乗するように魔術師を糾弾した。

 魔術師は唇を噛み、小さな声で否定する。

「違う」

「何が違う!」

「わ、私はただ、みんなを助けたい一心で……」

「現に助けれてないじゃないか」

 その言葉にカッとなり、魔術師は叫んだ。

「私は、抵抗の意思がないことをみせようと!」

「はっ……生殺与奪をあいつらに委ねたくせに、何ぬかしてんだ。もう十分、遅えよ」

 

 けれど、勇者は取り合ってくれなかった。

 ーーーどうしてこんな空回りを、失敗を、してしまったんだ

 

 ただ、助けたい一心だった。

 だけれど、それは結果として悪い方向に進んでしまった。

 視界が暗転する。

 

 次に目を覚ました時、そこは拷問部屋だった。

 魔術師は硬く黒い机に横にされて四肢を括り付けられていた。

 

 だがそれは、魔術師にとって、なんの障害にもならない。

 勇者一行としてここまで旅をしてきた時、ならず者の集団に捕まり、同じような捕縛をされたが、その時に縄抜けを覚えたのだ。

 両手両足の関節をすべて、外す。

 ゴキリ、と音がし、気分の悪い鈍痛がするが無視する。

 そして、引き抜いた。ジャリっと擦れ、手と足に擦れた傷ができる。

 鈍痛が倍増するものの、お構い無しに立ち上がり、関節を元に戻す。

「っ……」

 痛みにうめきそうになるのをこらえ、暗い拷問部屋を見回した。

 目を凝らす。

 と、ずらりと壁に、並べられたありとあらゆる拷問器具があった。ノコギリ、メイス、糸ノコ、ハンマー、火炙りに使うであろう鉄芯……それらが古い血液が付着し、凝固した状態であり、鈍く光る。

 その狂気さに、魔術師は思わず後ずさった。

 このまま寝ていたら、間違いなく苦痛の底で死んでいただろう。

 だが、よく見てみるとそのたくさんの拷問器具のうち、1つが何か変だった。

 妙に壁にめり込んでいる気がする。

 よく見ると、その鉄芯(仮にそう呼ぶことにする)と壁の間にトリガーのようなものがあった。

 触れてみる。

 すると、少し手前に引けることが分かった。

 意を決して引いてみる。

 

 刹那、壁が大きく振動した。

 

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