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星の瞬き〜光の三極星を極めし者たちが紡ぐ物語〜  作者: 木賀 拓人
第二部 魔界編そして戦争へ至る足音
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第17話 銀色の旅路 魔界編 急① 少年勇者と少年魔王

 魔王の城 最上階 魔王の間直前

 

 紅い扉を内側に押すように開ける。

 と、勇者一行の視界に入ったのは、3つ。

 1つ目は「魔王の間」にしては狭すぎる部屋。

 2つ目はただでさえ狭い部屋の両側に書棚を置き、そこから本が溢れ出ている様。

 3つ目はガラス戸の下、デスクの奥の椅子に腰掛けた少年。

 魔術師たちにとって、特に異様だったのは、3つ目だった。

 

「やあ、長旅お疲れ様。ーーーぼくが、魔王だよ」

 

 そう言って、自らを魔王と名乗った少年ははにかむように笑った。

 


 

 魔術師は困惑した。

 なぜ、こんなーーー勇者のような、感情豊かな少年が、魔王なのかと。

 何かの間違いじゃないかとさえ思った。

 けれど、魔王と名乗った少年は言う。

「ぼくが、魔王だよ。ーーー人間界に戦争をふっかけた原因さ」

 

 ーーーばかな

 

 魔術師は内心そう思ったが、とりあえず話を整理しようとして、聞いた。

 

「仮にそうだとしてーーー下の者が勝手に動いたのでは?」

 

「そう思ってもらってももちろん構わないよ」

 飄々とした言動。優しげな微笑み。

 それらが彼を悪だと断じることが出来ない要因となっている。

 ーーーそんなことは分かっている!

 魔術師はあの少年に、裏があるのではないかと疑ってかかった。

 だが、先の言葉や態度に影があるとは到底思えない。

 手詰まりだ。話が見えない。

 

「ーーーあはは」

 少年は勇者一行のその様子を見て、朗らかに笑った。

「勇者たちの旅の理由はさ、ぼくを殺すことだろ? なら遠慮なんてしなくていいさ」

 

 ーーーできるわけがない

 

 ーーー魔王が本当に私達の敵であるなら、もっと邪悪さがあるはずだ。

 

 けれど、彼からはまるでそんなものが感じられない。

 むしろ、人間よりも「無害」なんじゃないかとすら、魔術師は思えた。

「分かった」

 だが、勇者が動く。

「そのために来たんだ。お望み通り、一思いに首を切ってやるよ」

 剣の柄を握りしめ、つかつかと魔王に向かって距離を詰めていく。

 死ねと言わんばかりの形相をして。

 魔術師は「勇者ーーー! 」やめろと、制止を促す意味合いも込めて語気を荒げた。

 

「いいんだよ、魔術師風の人」

 しかし、今まさに殺されんとしている当の魔王は首を横に振った。

「なぜ」と魔術師が問う。

 少年はその問いに泣き疲れたような顔で

「ぼくはもう、疲れた」と答えた。

 それを合図とし、勇者が抜剣がする。

 その切っ先が魔王の首に触れる。

 微かに血が滲んだ。

 魔王は一瞬痛みに顔を歪めたもののまた頬を緩め、

「さあ、やるんだーーー勇者。これできみは本当の勇者になれる」

 促した。

 やれ、と。僕を殺せ、と。

 

「どうも」

 勇者は短く答えーーー剣を高く振りかぶる。

 

「首級は持ち帰らないでいてやるよ、魔王!」

 

 そう言って勇者の握る剣が、瞬時に振り下げられた。

 魔王の首に剣が過たず叩きつけられると思われたその瞬間。

 魔術師は魔力による肉体強化により瞬時に移動しーーー勇者の剣身を自らの杖で受け止めた。

「……なんのつもりだ」

 勇者が睨みを聞かせて問う。

 魔術師は首を横に振ってそれに答え、あとは魔王に声をかけた。

「魔王……あなたに2つ聞きたいことがあります」

「この後に及んで、なにを言い出してんだ魔術師……」

 勇者の言葉を無視し、魔術師は魔王に問う。

「あなたの……魔王になった経緯と、なぜ今、死にたいのかを、教えていただけますか?」

「僕の?」

「はい」

「聞いてもつまらないと思うよ。それに僕、自分の身の上話をするの得意じゃないんだ」

「構いません」

「分かった……じゃあ話すけど」

 その前に、と彼は笑いこう言った。

「一触即発しそうなそこの勇者を、一度さがらせてくれないかな」

 魔術師は少年の言葉に了承し、勇者をさがらせる。

 勇者は何か言いたそうな顔をしたが俯いて……のちに、

「その話が終わったら、殺すから」

 そう言って黙った。

 魔術師はため息をついて、杖を下ろすと「では、魔王……お願いします」

 と話を促した。

 魔王は1つ頷くと、話し始めた。

「僕は、簡単に言えばね……養子なんだ。本物の魔王の息子じゃない。

 亜人種の中でも底辺……体内魔力が極端に少ない子供だったんだ。

 そんな子供がなぜ、先代魔王の子供になったのか……それは今でも謎でね、けれど、先代魔王はこんな僕でも優しく接してくれていた」

 

 

 魔王の過去ーーーー

 魔王は、偉大でなければならない。

 偉大とは名実共に強者であると言うこと。それが魔界では常識とされてきた。

 だが、ある時、次代の魔王を取り決める会議の際、特例の措置が取られた。

「微量の魔力しか持たない弱小魔族の少年が王となること」を、決定したのである。

 これには、会議にいた全ての参加者が反対した。拒絶し、野次を飛ばし、蔑視した。少年は、力が圧倒的に足りないため、権威を見せることなどできない。

 そのため、反対は暴動にまで発展した。

 混沌とした最中、栄華を極め、急死した先代魔王の言葉がふと彼の喉元から発せられた。

 

「『俺は別に、最強を目指してる訳じゃない。ただ、魔を極めたいだけだ』」

 

 その言葉は大きな逆風となり、暴動はまるでなかったかのように鎮圧された。

 

 この先代魔王の言葉への反応から、どれだけ慕われていたのか良く分かる。

 だが、この時は良かった。

 就任後は、城内で陰湿とした陰口が宣い続けるのである。

 だが、嫌悪感を押し殺し、事務業をこなす。

「災禍の四つ風」の仕事に穢らわしさを覚え、それも押さえ込み、報告を聴くなど、ひたすらに業務をこなす。

 何故彼は、必死に一所懸命に業務を遂行できたのか。

 

 それは、彼の養父であった、先代魔王の言葉……『俺は別に、最強を目指してる訳じゃない。ただ、魔を極めたいだけだ』…これが彼の人生の原点となったからだ。

 それに、彼から受け継いだ絶大なる魔力ーーーそして、初代魔王の魔法『ダークネスフレア 光と闇が融合せし時』を使えるようになったことが決め手だった。

 

 少年は生まれながらにして孤児だった。

 だから、本当の両親のことは知る由もない。

 と言うより、実父は彼にとっては先代魔王に他ならなかった。

 それで十分に満ち足りている。

 本当の愛や温情は知らなくて良かったのだ。

 そして、今。

 勇者が、魔王の間へと来たことによって自らの運命は「死」であることが決定した。

 だからこそ、惨めに無様に生きようなどとは1ミリたりとも思わない。

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