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星の瞬き〜光の三極星を極めし者たちが紡ぐ物語〜  作者: 木賀 拓人
第二部 魔界編そして戦争へ至る足音
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第16話 銀色の旅路 魔界編 破⓶ ー4 矢面

 魔王の間へ続くであろう螺旋階段、その最上段に近づいて、勇者一行は頭の隅に追いやってしまっていた事柄に直面することになった。

 2対の頭をもつ龍の絵が彫られた扉が「天蓋」となって塞いでいて通れないのである。

 近づいても自動的に開く訳ではないことは、薄々感じていたが、「都合良く開いてくれる」なんていう可能性を捨て切れなかった。

 だが、案の定開かないらしく勇者一行は口々にため息を吐いた。

「魔術を用いて開く、ギミックではないでしょうか」

「?」

 戦士が疑問符を浮かべた顔を魔術師に向ける。それに魔術師は微笑んで返した。

「ほら、魔王の城に入る時もこんな感じの扉があったじゃないですか」

 やってみてくれ、と勇者や戦士に促され、銀色の炎を飛ばす。

 だが、扉の表面を焦がしたのみで期待したことは起きなかった。

 むしろその逆。

 龍の絵が彫られた扉が一瞬光ったと思うと、耳が破裂するんじゃないかと思うほどの音を放った。

 その音は、金属同士を激しくかち合えば発生する衝撃音を、さらに10倍にしたようなもの。

 堪らず、魔術師たちは耳を塞ぐ。

 その時、魔術師はヌメッとした温かい液体のようなものを感じた。

 20秒ほどの間鳴り響いた音が、止むと魔術師はその手を確認する。

 

 自らの血液であった。

 

 一瞬たじろぎ、周囲を見回す。

 と、勇者と戦士も同様だった。

 魔術師と同じように血がベットリと両の手のひらに付着している。

 戦士が一度深呼吸してから、口を開いた。

「魔術師……もう一度だ」

「……魔術でのギミック解除は通用しなかった。でも、それでも……他の方法が……その、思いつかない……」

「構わない」

「どうして?」

 戦士の代わりに勇者が答えた。

「ここは、大広間から魔王の間へ続く螺旋階段……回廊だ。階段を登る時、違和感を覚えなかったか? 」

「違和感ーーーあ、そうか」

 勇者は魔術師のその反応をみて、頷く。「そう」

 そして一呼吸置き、己の抱いた違和感を口にした。

「圧倒的防御力を誇る扉があるからといって……なぜ、3階分ほどの空間をたかが螺旋階段に使うのだろうと」

「確かに……別に他のフロアを造っておいて魔物で足止めしておいても良かったはず。それなのにあえてそれをせずに、扉だけで足止めを……」

「どうした?」

 途中で話を切った魔術師に戦士が声をかける。

 それに促されて、魔術師は

 

「……もしかすると、この扉自体が私たちを足止めして殺すための布石なのかもしれない」

 

「そんなバカな……」

 一笑に付して否定しようとして勇者の顔が強張った。

「まさか……」

「そうです。扉を攻撃するにつれ、魔物が異変を感知できるようにさっきの爆音を飛ばす……直に来ますよ。魔物の軍勢が」

「そんな……だったら、なおさら急がなければ。魔術師、残存魔力は?」

「魔力消費が少ない6種類の魔術で……8発くらいが限度です」

「そうか……なら、私がなんとかこじ開けよう」

 戦士が背にかけた戦斧の柄を握りしめ、一歩踏み出す。

 同時、真上の扉目掛けて振り下ろした。

 バリアに阻まれ、金属質な音とともに戦斧が弾かれる。

 それでも構わず、戦士は己の戦斧を叩きつけ続けた。そのたびに、耳が破裂するかと思うほどの爆音が襲いかかる。

 その衝撃に耐えかね、耳の穴から血が溢れ出るのが分かる。魔術師は歯を食いしばった。

 ーーー魔術は通じない。物理的攻撃でこじ開けれるかどうかはほぼ賭けだ。魔物が来る前に、どうか、開いてくれ!

 戦斧を振りかぶり、力一杯叩きつける。この一連の動作だけでも肉体に酷く負荷が生じる。

 加えて、この爆音の中だ。

 鼓膜が破れ、その奥の器官に悪影響を与えているのは確実だろう。

 それでも、戦士は汗と血に塗れながらも懸命に戦斧を振り続けた。

 ーーー砕けろ……砕けろっ!

 魔力を阻むバリアがある以上、魔術師による援助は意味をなさない。

 勇者には魔王との戦いが控えている。

 ーーーだから、私が! この道を拓かなくてはならない!

 強き思いを内包した一撃……それによって、バリアにひびが生じた。

「やった」

 そう確信し、「なあ、ひびが入ったぞ」と伝えようと振り返った時。

 彼らは真下を見ていた。

 戦士もそれに倣う。

 

 と……階下に、無数に蠢く魔物がひしめいていた。

 それらはこちらに、何やら金属めいて光るものを向けている。

 戦士は直感的に思った。

 

 ーーー矢だ

 ーーー無数の魔物が、私たちを各々の矢で貫こうとしている。

 

 戦士は扉に向き直り、扉の破壊を再開する。

 だがやはり、扉の表面を覆うようにして存在するバリアが邪魔だ。

 戦斧をかち当てても、バリアに傷がつく程度では……階下の敵勢に矢を射られ、蜂の巣行きとなってしまう。

 ーーーそれだけは、なんとしても避けねば!

 そう思った瞬間、戦士の脳に火花じみた気付きがあった。

 戦士は、その気づきにやっと到達したことに笑った。

「そうだ……なんだ、簡単なことじゃないか」

「大丈夫ですか!? 気でも触れましたか」

「いーや、その逆。頭が冴えたよ、魔術師。私の一世一代の賭けに乗ってくれるかい?」

「ーーーああ、分かりました。良いですよ。あなたのその賭けに、私たちの命を全て賭け(ベットし)ましょう」

「重いね……でも、そうでなけりゃ賭け事は楽しくない!」

 

 戦士が、戦斧を水平に構える。

 魔術師は戦士の後方に立ち、杖を掲げた。

 勇者は、

「なにを、するつもり?」

 いかんせん分かっていなさそうな様子だった。

 魔術師はそれに優しく笑う。

「ーーー彼女は、筋力増強魔法で強化した己の力と、私が操作する無数の矢をそのままバリアを砕き割って、扉を破壊するつもりです」

「それじゃあ……失敗したら」

「そう。だから、一世一代の大賭け事。私たち全員がその代償」

「上も下も行き止まり、ならここで決めるしかない……そう言うことだね」

「はい」

「それじゃあ……頼んだよ、魔術師、戦士」

 

 勇者の言葉を合図に、魔術師は戦士に筋力増強魔法を掛ける。

 同時、放たれた無数の矢に方向掌握魔法をかけ……その勢いを加速させながら、扉目掛けて放った。

 

「戦士!」

 

 魔術師の呼びかけに応え、戦士がうなずく。

 扉目掛けて殺到する無数の矢。

 それがバリアを砕き破るまで待たずに、戦士は渾身のフルスイングを見舞った。

 その攻撃をもろに受けたバリアが、ガラスが砕かれるような澄んだ音とともに破壊され、扉をも噴煙に吹き飛ばされるようにして崩壊した。

 勇者一行はそれを確認すると同時に中へと飛び込む。

 赤い絨毯のような狭い通路に転がり出た。鈍痛が背中から襲いかかってくる。

 魔術師は後方に振り返り、

「全員無事ですか?」

 と聞いた。

 戦士と勇者は各々頷く。

「渡り廊下に出たようだな」

「ああ」

「敵勢が来るまでそう時間は掛からないでしょう……ここで待っていても殺される可能性が高いですので、とりあえず、魔王の間まで行きましょうか」

 魔術師はそう、提案した。

 そしてーーー。

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