第12話 愚か者の最期
教主は帝国がまだ村というのを内包していた時代、少年だった。
名は「◯◯◯」ーーー思い出せない。
朗らかでそれでも親に人に認められたい、そんな普通の子供。
酒場で、父の牧師の仕事で、幼いながらに活躍していた。
おませなところもあり、好きな子もいた。
転機は突然、訪れる。
イルカムダムの架け橋事件だ。
邪神龍と呼ばれる災厄が現れたのを機に、空を飛ぶ魔物が多数襲来した。
けれど実際に襲ったのは、邪神龍ただの一体だけ。
けれど、強大無比な力を前に帝国軍は全て瓦解した。
1人の兵士と引き換えに平和は訪れる。
少年の村は焼き払われた。
けれど、大好きな子だけは助けたかった。
だからーーー殺した。
そう、最初に殺したのは大好きで将来的に結婚したいとまで思っていた愛すべき人だった。
力が芽生えた。
人を操る。
自決させる。
人を操る。
奴隷にする。
人を操る。
幼いながらに教主へと至った。
だが、その愛すべき人がいたと言うことすらも、結局はーーー勘違いだったと言うのに。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
教主はなかば焦っていた。
装置は駆動した。
カマルの魔法・能力でも高層ビルの屋上に辿り着き、破壊までするのは短時間では無理なはずだ。
それに、自分が対峙している。
有利は自分のはずなのに。
なぜ、焦る。
なぜ、自分がこんなにも小さく思える。
認めてなるものか。
こんな子どもに、自分の長年の本懐を遂げる、この瞬間を邪魔されるわけにはいかない。
何のための犠牲だ。
何のために罪を背負った。
何のために私は、世界を殺し合わせる。
ーーー全ては、平和のためだ。
「ーーー世界は、殺し合って……その最後に平和が生まれるのだ!!」
教主がセルズクリアを放つ。
対象は、カマルの銀霊晶魔法でできたその剣だ。
詠唱なしの光弾など恐るるに足りない。
喰らってもせいぜい肩の肉が少し削げる程度。
自分の本懐を遂げるために、払ってきたものの大きさに比べればどうと言うことはない。
光弾を喰らう。思った通りの痛み。
肉が削げ落ち、鮮血が溢れる。
けれどそれも想定内。
セルズクリアを過たずカマルの持つ剣に当てるーーーカマルの剣が消え失せる。
そのはずだった
剣が消えない。輝きを増すばかりだった。
断罪の刃に見えて焦りを増大させる。
教主は冷や汗をかいていた。
「なぜーーー消えない!? 私の、魔法は融解させるものだ、魔法で生成されたものも例外じゃないはず! なのになぜ!」
「魂が、あなたを許さないって言ってるんだ」
ーーー魂だと? そんなもの、あるわけが
「2人の魂は! クレイドル姉妹の魂は!
私の中で、燃え盛るーーーあなたへの怒りとなって!」
ーーー怒りだと? そんなものクソの役にも立たない
「舐めるなよ、貴様も死に晒すがいい。私の望む世界に、貴様もいらぬわ! 消えよ!」
セルズクリアの対象をカマルに定める。
至近距離だ。
この場で放たれれば避けようがない。
死を実感しろ。懺悔をしてももう遅い。
死んで詫びるがいい。
その思いで、カマルを見た時、
「そうやって、いらないと思った人間をこき使って使い潰してきたのねーーー踏み躙った命の重さを、その身で思いしれ! 邪教の神!」
カマルは静かに、それでもきっぱりと言い放つ。
魔を退けるような銀の輝きを放つ剣は、教主の首を捉える。
「黙れえええええええええ!」
教主がセルズクリアを発動させようとした刹那、渾身のフルスイングを教主の首にキメる。
ボキッという乾いた音ともにひしゃげ、血を吐きらかしながら教主は自らが開けた天井の穴に吸い込まれていった。
どんどん上昇していく。
そして、エントランスの外にいた。
激痛がひどい。民衆がわらわらと寄ってくるのがわかる。
首だけじゃない。背骨も折れてるのがわかる。
全身が動かない。
血を吐きながら地面に転がる。
雨が降り始めた。
血が洗い流されていく。
けれど自分は泥に汚れる。
民衆の声が聞こえた。
「汚らしい」
「なにこのボロ雑巾、気持ち悪い」
「もしかして教主様? こんなキモいのが?」
操っていた民衆に後ろ指を刺される。
屈辱だった。
なぜ、私がこんなーーー。
貴様らはただの道具ーーー。
声にならない声で、「私を見るな」と言いながら少しずつ意識が遠ざかる中で、
教主は自分が昔好きだった女の子の顔を、ついには思い出すことができなかった。
「あなたはーーー誰だったんだ?」
そう言って、事切れた。
神を目指した、愚かな者の最期だった。




