第11話 銀霊晶魔法
大研究室に着いた。
暗闇の中に人影と、その横に、巨大な心臓のような弁をもつ金属でできた装置があった。
「これはね、奇跡の一手『ワンダーステップ』という代物だよ」
教主はそう言った。
「装置の名前なんてどうでもいい。イシュカーさんとスノウさんをどうして殺したのか言え……!」
「それこそどうでもいいよ、そんなこと」
「なんだと?」
むしろ感謝してほしいよ、そう言って教主は語り始めた。
「感謝して欲しいものだよ、本来ならばスノウは極度の魔力切れで死んでもおかしくないわけだ。それを忌怪蟲によって無理矢理とはいえ魔力回路を補填してあげてたが、もう彼女はとうに限界を超えていた。だから殺した。非難される覚えはないよ」
「あなたはーーー世界に存在しちゃいけない」
「君もね」
カマルと教主が同時に動いた。
風魔法を足にまとい瞬間的に移動する。
そして薙ぎ払うように拳を振るった。
だが、拳をいなされる。
未来が見えているかのように。
そしてーーースイッチらしきものを胸ポケットから取り出してカマルに見せた。
レイドが肩で息をしながらたどり着いて、カマルに言った。
「あれは装置のスイッチだ! 押させちゃいけない! 奪い取れ!」
駆け出した刹那、教主がスイッチを押す。
すると、ゴウンっという音と共に装置が鉄製の丸い床に押し上げられていく。
天井が開く。
それが連続して開いていく。
まるで、天国へと誘うかのように。
落下してくる人もいた。デスクやTVもあったかもしれない。
それらが地下へと落ちる。叩きつけられて人が死ぬ、物が破損する。
教主は信者であろうその死体に目もくれず、ただ狂気に歪んだ笑みを浮かべた。
教主に心なしか陽光がさしているように見える。おぞましいにも関わらず、どこか神秘さも感じさせる。
まるで、天使たちが迎えにくる絵画のようだった。
「くそ……!」
レイドが火炎剣で斬りかかろうとするも、上へと昇る装置とは、もうだいぶ距離があった。
飛ぶ斬撃でもスピードがあまり出ないために装置に直撃させることは叶わないだろう。
レイドは舌打ちした。
カマルは教主を睨む。
「イシュカーさんを殺して、スノウさんを殺して……次は何をするの?
さっきの装置を上へと持ち上げてから広範囲に作動させるの? お得意の精神操作魔法とセルズクリアとかいうのを。
世界的に殺し合わせたりでもするつもりなんでしょ」
「その通りだ。私は世界を戦争状態にする。闘争本能を煽る。私は、殺し合った先にこそ本当の世界平和があると考えているのだよ」
イシュカーとスノウは心から世界平和を望んでいた。
それは戦争のない世界。
それは狂気に晒されず、人々が平和に暮らしていく世界。
このままではそれは叶わない。
浮かばれず終わってしまう。
ふざけるなーーー!
「いい加減にしろよ、この狂気の科学者が!」
カマルの口からそんな激情が吐かれていた。
自分でも驚くほどの激しい怒り。
「お前は、生かしちゃおけない。ここで確実に殺してやる」
レイドはカマルを止められなかった。
イシュカーもスノウも彼女にとっても大事で自分らと同じくらいに仲間だと思っているのだろう。家族とも、思っているかもしれない。
それを無造作に殺され、あまつさえスノウは忌怪蟲によって身体の隅々まで侵された果てに、教主に無惨に四肢を切断されて息絶えた。
人間のすることじゃない。
許せないのはレイドも同じだった。
だからこそ叫ぶ。
「行こう、カマル! あのクソ野郎の鼻っ柱をへし折って、機械もぶっ壊してやればいい!」
カマルの右手には光が、左手には銀色に輝く結晶の力が宿っていた。
カマルは呟くように唱える。
ーーーイシュカーさん、スノウさん 世界を守るために力を貸して
「銀霊晶魔法ーーー!」
瞬間。イシュカーとスノウの手が、カマルの背に触れた気がした。振り返ると、やや透明な体の2人が笑いかけていた。
思わず泣きそうになる。
けれど堪えてーーー力が溢れる。
銀色に輝く水晶が左手で剣を形作る。
刃渡り70センチの片手剣だ。
「銀霊剣……」
掴み、カマルはさらに唱える。
「メターオブライト」
教主が子どもが母にねだるような瞳をしながら期待する顔で、それでも怖気を含む声で言う。
「銀鉱石や水晶などといった魔法のさらに上の力かな?
それに光の三極星を使えるのは知っていたが、それらを片方づつ宿せるとは驚きだ。
ほしい! 君を奴隷のように働かせよう。大丈夫、今度は死なせない。安心して私の下で働くといい!」
教主の言葉を無視する。殺せばどうせ聞こえない。1秒もやつの言葉に耳を傾けたくない。
光弾を放つと同時に、カマルは駆け出した。




