第10話 クレイドル姉妹
※ この回、残酷な描写があります
お気をつけて
しかし、カマルの心に深く刻まれる重要な回なので読んでくださると大変嬉しく思います。
教主がナイフをイシュカーの胸から抜こうとするも右腕だけではどうにもできないようだった。
「忌々しい裏切り者が……! 貴様の姉を、今すぐに殺してきてやるよ。装置も起動させる、もう終わりなんだよ、なにもかも!!」
「はーーー教主ともあろうお方が、なにを焦ってるんですか? 裏切り者はあなただよ、人間社会のね」
「黙れ!!」
イシュカーの頬を落ちていた杖を拾い上げて殴る。
けれどガンとして動かない姿に、クソ……と悪態を吐きながらエレベーターに乗って姿を消した。
地下へと向かったのだ。
しばらくして、イシュカーがぐらつく。
血を吐いて、胸部から大量の血を吹き出して。
今もなお倒れそうになる。
カマルは風魔法で足に渦を纏ってイシュカーのもとへと跳んで支えた。
「ごめん、イシュカー……私が!私があいつにトドメを刺していれば!」
「そんなことはーーーいい! あいつを追って!
私はもう使い物にならない、あいつを殺して!
お姉ちゃんが……お姉ちゃんが死んじゃう!」
「イシュカーさん、ああ……こんなに血が……」
水晶魔法を発現させようとカマルは試みた。
何度試しめてもやはり不発に終わる。
水や風じゃだめだ。
血を止めるに至らない。
焦る。このままではイシュカーが死ぬ。
それだけは嫌だ。仲間を失いたくない。
「なんで、なんで……水晶魔法が出ないの! 」
「私はもうどうでもいいのよ!」
「黙って! 集中できない! 」
カマルの叫びに、イシュカーも口から血を吐きながらも叫び返した。
「あんたこそ黙ってよ! 私を置いてってよ……」
見かねたレイドがフラフラになりながらも起き上がって、カマル達に叫んだ。
「お前はそれでいいのかよ!!」
しばらくの静寂ーーー3人がはあはあと荒い息を漏らす。
そして、
「良くないよ!!」
イシュカーは叫んだ。
子どものように大粒の涙を流して、それでも殺意のこもった目をしながら、
「お姉ちゃんを助けかった、守りたかった。あいつの魔の手から、救ってあげたかった……あいつを、殺したかった……でも、もう……」
涙が溢れる。とめどなく。
血の気が引いてるのに、カマルの手にイシュカーの失意の涙がかかった。熱い。
それでも、まだ生きてることを感じさせてくれた。
けれど、それも時間の問題だろう。
「嫌だよ、死にたくないよーーーお姉ちゃん、助けてあげられなくてごめんね……」
消え入りそうな声で、そう謝るイシュカー。
カマルは泣きながら、それでも確かな声で言った。
「私が、私たちがーーー必ず! 教主の野望を打ち倒して見せるから、安心して任せて」
「ありがとう……カマル」
そう言った途端、急速に体温が引いていった。
死が近いのだ。顔が青ざめていく。
慌てるカマルに、イシュカーはちょいちょいと手招きして顔を寄せるカマルの耳元で
「複合魔法はねーーー特に水晶魔法は、属性などの知識だけじゃない。絶対に成功させてやるっていう覚悟や憧れが必要なの……私の命、あなたに預ける。だから……」
勝って。あなたに、私の想いを託すね
その言葉とともに、ふ、と力が抜けた。
イシュカーが死んだ。
けれど、その魔力が翠と青の光を讃えながらボール状になっていく。
そして、カマルの胸に入っていった。
暖かい。なぜか、イシュカーが胸の中にいる気がした。
カマルは亡骸を静かに置く。
そしてーーー
「レイド」
「分かってる」
カマルは背を向けながらレイドとともにエレベーターに乗った。
イシュカーのカードキーを通して地下へと向かう。
カマルは地下研究棟を破壊することも構わないと思っていた。
光弾を放つ。
破壊、膨大な煙が立つ。
しかし、傷一つなかった。
ちいっと舌打ちして、水魔法の地形把握を発動する。
四階だ。わずかに移動しているがくそほどどうでもいい。
ーーーそこか。
間に合わせる。極限まで高めた風の渦をまとい、血が飛ぼうがお構いなしに通路を駆ける。
レイドを待たずに。
階段を降りる。
通路を駆ける。
階段を降りる。
それを繰り返すこと数度。
その先で見たのは、四肢を切断され、無惨にも殺されたスノウの姿だった。
断面から虫のようなものがわずかに見える。
残酷な死に様。
カマルはわなわなと震える。
レイドがたどり着いた時、カマルは叫んでいた。
「どこまで……どこまで一体あいつは、人の思いを愚弄して貶めて、こんな無造作に人を殺せるんだ!!
……ふざ、けんな……!」
鉄柵を何度も何度も何度も殴る。
風の渦を纏っているから、鉄柵が少しだけひしゃげた。
「レイド、私はあいつを許せないよ」
「俺もだよ」
「私は、装置も粉々に吹き飛ばすかもーーー証拠残らないかもね」
「警察としては困る。けれど、個人としてはーーー止められないな」
カマルは頷くと、水魔法の地形把握を再度発現させる。
地下7階。
けれど、少しずつ上に持ち上げられているようだ。
カマルは風を纏って走り出した。




