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星の瞬き〜光の三極星を極めし者たちが紡ぐ物語〜  作者: 木賀 拓人
第二部 討伐隊編 カルデア
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第3話 蠢く②

「スノウ姉さん……」


 天井で蒼く輝くランプが彼女をより病的に見せている。

 心なしか彼女の肌に、緑色の体液のようなものが見えた気がした。

 目を擦って見直すと消えている。

 気のせいだったのだろう、そう思ってカマルとレイドは静かに待った。

 イシュカーの姉、スノウが弱々しい声で話し出す。

 今にも消え入りそうだった。


「ああ……イシュカー。今日は大勢で来たのね。いつもは1人なのに」


「うん……紹介するね。カマルとレイド。

 カマルは複合魔法も使える天才で、レイドは公安に所属してる」


「そうなのね、私の妹は少し意地悪なところがあるけれど、みんな仲良くしてあげてね」


 そう言って、スノウは柔らかく笑った。

「もう、姉さんったら」とイシュカーも笑う。

 そして、言った。


「お姉さんを助けたくてみんなで来たの」


「それは無理よ」


 スノウが被りを振る。

 頭が落ちてしまうんじゃないかとカマルは思った。

 筋力が低下してるのが目に見えていて痛々しい。


「どうして?」


「教主が自分の姿を遠隔投影して定期的に見にくるからよ。私をあざ笑って、奴隷のように働かせるために。どこにいても同じ。どうせ補足されるのよ」


「そうかもしれないけど……けど、姉さんはもう耐えきれないよ……だって、そんなに痩せ細って……」


 ご飯を満足に食べられていないのだろう。

 骨ばってしまっていて血管が見えてしまっている。

 頬もこけていて栄養だけもらっていても、このままでは衰弱死してしまう可能性もある。


「スノウ姉さんは魔力だって使いすぎてるんだよ? このままじゃ、死んじゃうよ。助けさせて、私に」


「帰りなさい」


「え……」


「帰りなさいと言ってるの! 

 あなたたちに助けてなんていつ頼んだ!?

 私は栄誉ある仕事を任されてるの。あなたどうせ、私を助けて教主様の計画を潰そうと考えてるのでしょう? 

 意味ないわ、さっさと帰って自分の仕事に戻りなさい」


「お姉さん、でも!」


「帰れ!!」


 ガンッと牢の鉄柵を叩く。

 血が垂れた。


「退散しよう。イシュカーもそれでいいな?」


「でも!」


「ここは歯を食いしばれ。彼女の想いを無駄にすんな」


 そう言ってレイドはイシュカーの手を引っ張った。


「必ず、必ず! 迎えにいくから!」


 そう、イシュカーは叫ぶようにして言った。

 遠ざかる3人の姿を睨む。

 そしてーーー。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 3人が去ったあと 牢内で。


「ごめん、イシュカー……ごめんなさい」


 スノウが謝り続ける中、ブウンという音とともに、教主の姿が現れる。

 カゲロウのようで壁が透けて見える。

 スノウはガタガタ震えながら、壁に寄りかかる。

 口もとには天ぷらの粉がついていて、緑色の汁が唇の端から流れていた。

 そこに優しい口調で教主が言った。

忌怪蟲(キカイチュウ)の味はどうだね?」

「わ、私をもう解放してください! もう……限界なんです、お願いします!」

「ぷりぷりとした食感がたまらんだろう?

 一応、女性である君に配慮して血抜きに加えて塩漬けにし、さっぱりとした味にした上で天ぷらにしたんだ。食べやすいとは思うが?」

「解放してください……」

「忌怪蟲は君の魔力を増強させる物だよ?

 感謝して欲しいものだね。魔界の生物を捕らえたんだ。犠牲を多く出したんだよ?

 君がそれに報いないでどうするね」


「それとこれとは話が別……!」


「ああ、それとね。解放して欲しいとは言ってもどっちにしても普通の生活はできないよ。

 忌怪蟲が魔力をどう言うふうにして増強させるかを君は知らんだろう?

 君の身体はもう虫まみれなんだよ」


「は?」


 腕がだらんと力なく垂れる。


「忌怪蟲の中に潜む大量の寄生虫が魔力回路の代わりとなっていて、君の身体を蝕む。それでも、君の身体の魔力をより強くさせるんだ。ありがたい話じゃないか? なあ。

 君はこれからも、ずっと、私の夢のために君の魔法を使い続けておくれ」


 イシュカーの姉の心は限界を迎えていた。

 それでもなおの残酷な真実。

 彼女はもう悲鳴をあげるしかなかった。

 叫び続けるしかなかった。

 泣き叫ぶ彼女に、教主はなおも優しい言葉をかける。

 それでもそこにあるのは独善的なものだったし、嘲笑も含まれていたかもしれない。


 憎悪の炎がイシュカーの姉の瞳に映る。


「あなたは、最初はこんな狂人じゃなかった!

 あなたはただの神父で、このビルを作ったのだって世界平和のためでしょ? なんで歪んだ!

 なんでこんな……非道極まりないことができる! なにがあって、あなたはそんなに変わってしまったんだ!」


 過去を思い出すように目を閉じる。

 何かしら嫌な記憶があったのかしかめ面をしたあと、目を開く。

 いやらしく笑って言った。


「君に語ることはないよ」


 そう、拒絶するように。


 それでも徹底的に相手を痛ぶることを良しとするような声でこう言った。


「ーーー君は、機械的に、奴隷のように働いてくれたらそれでいい」


 そう言って、消えていった。

 1人残される。


 闇。孤独。

 蝕まれる身体。

 おぞましい真実。

 課せられた奴隷的な作業。

 それらがイシュカーの姉の首を、ゆっくりゆっくりと浸食するように真綿で締めていた。


「私を、殺してください……」


 イシュカーの姉は身を抱えてうずくまり、そう誰に言うのでもなくただ呟くようにいった。

 何度も、何度も……何度も。


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