プロローグ② カルデアの闇
王国ヒュライズマレードの中央部に聳え立つ高層ビル。それは、宗教法人カルデア本部だった。
王国のシンボルである城よりも大きく、高さも類を見ない。
目立つなんてものではない。
目立ち過ぎている。
それに王国内の人々に聞くと、王政の代わりに教主が政治を担っているという。
異常極まりない。加えて、帝国や他の国々にも支部があると言うじゃないか。
こんなに勢力がある団体って軍くらいのはずなのに、宗教と言うことがまた不気味だった。
カマル、レイド、イシュカーの3人はカルデアの闇に挑もうとしていた。
「イシュカーさん、なんでこんなカルデアが王政を牛耳ってる感じになってるんですか?
王都って聞いていたので正直、意外と言うか……」
高いビルを目指して雑踏に揉まれながらも、カマルは聞いた。
イシュカーは少し考えるそぶりをしてから口を開く。
「宗教法人カルデアは最初はここまで大きいものではありませんでした。それこそ、小さな教会を建てるだけといった感じの。
けれど、ある日を境に高層ビルを建てるまでになり、腐敗した王政を乗っ取るに至ったのです」
「ある日ってのはなんだ?」
レイドの問いにイシュカーが答える。
静かに、それでもしっかりとした口調で。
「帝国が魔物の手に堕ちかけた、あの日ですよ」
カマルは気づいた。
オーガルの言っていた。あの事件だ。
「イルカムダムの架け橋事件ですか?」
「その通りです」イシュカーは頷く。
「でも、それはかなり前の話じゃ……」
「その日にある少年に力が芽生えた。石などの無機物も、人間を含む有機物の細胞を融解させる魔法がね」
「そうすると……教主って今、おいくつなんですか? 結構な年齢いってるんじゃ……」
「大体お歳が85……、いえ、100は超えてるかもしれませんね」
けれど、おかしい。
よぼよぼのお爺さんかと思ったが、帝国軍前で会った時はしっかりした体幹があり、杖はあるものの直立していた。
それに見たところ50代後半くらいかと思うほどの顔つきだったはず。
なのに、100歳?
「それってーーーセルズクリアでしたっけ?その魔法を使って肌の細胞を壊して、別のなにかしらの能力か魔法で再構築した感じなんですかね?」
「そうかもしれません」
ゾッとした。自分の体の細胞を自らの魔法で破壊し、再構築することで若さを保つ。
若さを保つことがなにに有効だと言うのか。
「誰かの血を分けてもらったわけではないですが、自分の体を壊すのは正気の沙汰ではありません。狂気そのもの。けれど何歳になっても若さを保っていれば、どう見られますか?」
「なにって……すごいとしか」
「そんな人が自分の想いを正確に読み取り、確実な方法で幸せに導いたら?」
「すごく嬉しいと思います……」
「そうです。地道に地道に彼は信仰を勝ち取り、けれどーーーなにかしらまた別の魔法で、信用を得たのでしょう。私は目星がついています」
「なんですか? それって」
「精神操作魔法。 それもひどく強力な」
「そんなので王政を乗っ取ったとしたら最悪じゃないですか!」
「そうです。それに彼は自らを神に近しい存在といっていた。実際それだけの力がある。
セルズクリアに、精神操作魔法。
それをより強力に世界中に伝播する装置を、作ったとしたら?」
「神そのものになるかも、ってことですか?」
「その通りですよ。教主は、神になろうとしている」
イカれているとカマルは思った。
「それに……私の姉が、捕まっているんです。私の水晶魔法よりも高精度な銀鉱石魔法を操れるから。奴隷のように魔法を使わせられて休みなく、装置を動かすための可動部などを作る役割を担っている。このままでは死んでしまう……なんとかして助けたい」
イシュカーの力強く握る手に血が滲む。
唇をギュッと噛み締め、血が垂れても構わないと言うかのように。
「カマルさん、レイドさん、私に力を貸してください」
そういってイシュカーは頭を下げた。
相当な苦しみだったろう。
自分の姉が奴隷のような扱いをされ、それでも自分を売り込み、カルデア教主の側近まで地位を上り詰めた。
すごい執念。
カマルは頷いた。
彼女の長年の苦しみは報われなきゃダメだ。
できうることをして、彼女を助けたい。
そう思って、手を差し伸べる。
「分かりました、一緒にカルデアの闇を暴きましょう。確実な証拠を手に入れることができれば、警察や軍も動くでしょう。ね? レイド」
レイドに視線を向ける。
罰が悪そうな顔をしていた。けれど、レイドも力強く頷く。
「皆さん、ありがとう……!」
イシュカーが晴れやかな顔になる。
少し救われたのならいいな、とカマルは思った。
ビル内部に潜入する直前、カマルは思い返す。
自分がなぜ、ここに来ることになったのかを。




