帝都混乱編 36話 正義
「レイド!……そんな……」
遠くからではあるが分かる。
レイドが項垂れて両膝をついている。
西の方、クロイツストリートで爆発的な光が上がっている。
ローグタウンと合わせて二つ目だ。
レイドは人を殺したと思って絶望しているのだ。
カマルはそんなレイドを思うと心が痛んだ。
策略だったとしても自分のせいで、あんな災害級の光の柱が発動してしまっていたらあのいっぺんは吹き飛んで、死んでしまった人もいるかもしれない。
魔物のせいなのに。
目の前にいるロストという怪物のせいなのに!
憎しみが溢れてくる。
その時、声が聞こえた。
「見たまえ、彼は心が折れたようだ。命を賭ける戦闘で負けたものに正義はないよ。次は君が死よりも恐ろしい顛末を迎え、地に臥すがいい」
「黙れ」
カマルはゆっくりとロストの方を見る。
「レイドはそんなに心が弱くない」
ロストはせせら笑って言った。
「けれど心が折れた。あそこで這いつくばり、死を待つだけ」
カマルはロストを睨む。
手に力を込めて。血が滲もうがお構いなしに。
「人間はそんなに弱くない。私は必ず、あなたの首元に刃を突き立ててみせる」
「やってみせるがいい、光の三極星の御手よ。死の風を浴びてもなお、その口が叩けるかな」
ロストが動く。死の風を拳に纏わせる。
カマルの顔面目掛けてその拳を振り下ろそうとしたその時。
横合いからアクション映画さながら飛んでくる四輪駆動のFLAがあった。
ロストの手が止まる。
ガギギッと音を立てながら、止まり。
アイドリングをかけたままだが、ドアを開ける。
中から出てきたのは白衣を着た五十代半ばの男性だった。
「私は星見回廊研究所の所長だ。突然すまないね」
白衣をはためかせ、強風が吹く中でも余裕がある表情をしていた。
カマルに手を差し伸べる。
「立てるかね?」
ゴツゴツとした手。
それでいて細さがあり、しなやか。
鍛えているのに手の器用さもある感じがした。
「はい……」
カマルがその手を掴んで立ち上がる。
「さて……」
カマルと所長が視線を移す。
ロストを見据えて、所長が言った。
「ロストエクラットと言ったね」
「FLAの四輪駆動で飛び上がってくるとは貴様、死ぬ気か?」
「ははは」所長は笑う。
「君の計画を破綻させるためだ。死ぬ気で臨むことなど、どうということもない」
「なに?」ロストの瞼がぴくりと動いた。
それだけで殺意を、カマルはひしひしと感じた。
構わず、所長が言う。
「君の四つの魔法陣、早く完成させたまえ。私がそれを粉微塵にしてしまおうじゃないか」
カマルが驚愕した顔をする。
それに優しく微笑んで、あとはロストにまた視線を移す。
ロストは心底不快そうな顔をした。
「貴様が?」
「そうだとも?」
「研究所の権威だろうが私の計画を阻むことなどできやしないさ」
そう言って、ロストは手に持った装置を駆動させる。
光の柱が上がる。
三つ目だ。
空が眩い赤き光に包まれる。
そんな……このままじゃ帝国が
そう、カマルが思った時だ。私に任せなさいと所長が言った。
ロストに鋭い言葉を浴びせる。
「その自信はどこから来るのかね?
少々、科学を甘く見過ぎじゃないかな」
「まあ……自ずと分かることさ」
3人の視線の先には、ケルトが魔物2体と戦っていた。




