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帝都混乱編 33話 亜人は謳う

 貧民街近くで光の柱が上がる30分前

 帝都裁判所前の道路ーーー


「紅き光の柱は終わりの兆候

 二つ揃えば草木が枯れ

 三つ揃えば命が潰え

 四つ揃えば国の終わり

 世界の破滅の始まりを告げしその光は、

 まるで死の星のように明るかった」


 目の前の亜人テイルという少女はそんな物騒な内容の詩を楽しそうに人差し指でリズムを刻みながら歌っていた。


 闘王リアは退屈そうに聞いていたが


「そろそろいいか? お前も魔物だろう。殺すなら歌ってないで俺に向かってかかってこい」


「ちょっ……」


 ケルトが止めようとするも無視する。


「お前はお前で目の前の黒騎士などというスカしたやつと相手すんだろうが。こっちに構ってないで、戦う準備をしろ」


「分かったよ……」


「あらら。そんなこと言ったら可哀想だよ、お兄ちゃん? その探偵さんだってお兄ちゃんを心配して言っていたわけなのに」


「俺は魔物の妹を持った覚えはないぞ」


「この顔を覚えてないの? 」


 フードをとって現れたのは、角はあるが見知った顔だった。

 死んだはずの、父によって殴られて惨たらしく死んだはずの少女。

 その顔が、目の前に。

 闘王リアがフリーズしたように動かない。

 血が肉が固まったかのように、指先すら動かない。

 それでもかろうじて声が出た。


「ハウメイ、なんで……」


「なんでって……あなたが私を助けてくれなかったからだよ」

 ハウメイと名乗った少女の目に狂気が宿る。

 口元は醜く歪んだ笑みを浮かべ、それでもなお可愛らしい顔に似つかない怨嗟(えんさ)を吐くように叫んだ。

「お兄ちゃんが!あなたが!私をちゃんと助けてくれなかったから魔物になるしかなかったのよ!」


「そんな……俺は……」


「だからここで殺すの。お兄ちゃんを。それとも私が渡す剣で首でも切って死んで見せてくれるのかな?」


 黙り込むしかなかった。

 夢にまでみた妹が、生きてそこに立っていたのに、その面で見せるのは醜く歪んだ憎しみだったのだから。

 リアは歯噛みする。

 唇を噛み、血が垂れることも厭わなかった。

 そんなリアを見てか、「ハウメイ」は笑った。


「なんてね、冗談だよーーーごめんね? 酷いこと言って。でも、私には二つの魂がある。一つは魔王直属部隊の四柱の一つ、テイル。

 そしてもう一つは、あなたの妹……ハウメイの魂。だからあなたの過去を手に取るように分かるのよ」


「ハウメイ」が剣をゲートから取り出す。

 真っ黒でそれでいて艶めかしい光沢のある剣だった。

 それをリアの胸にゆっくりと這わせた。

 血が滲む。


 それが始まりだった。


 リアが何度も妹を名乗る魔物に何度も切り付けられる。

 血が飛ぶ。

 傷が増える。

 苦悶の表情ーーーケルトは内心ムカついてきていた。

 ーーーふざけんな

 黒騎士が言う。

「お前も死ね」

 大剣が空気を切り裂き、唸りながら何度も何度も飛んでくる。

 黒騎士の鬼気迫るその斬撃の連続を辛うじて避ける。避け続ける。

 ケルトは叫んだ。


「お前の過去なんて知らない! 悲しいことがあったのは分かる! 僕は部外者だから何も言えない!

 でも、あんたは最強の称号を持ってんだ! 

 戦え! 戦えよ!

 あんたはーーー闘王リアだろうが!」


 リアが剣を初めて抜いた。

「ハウメイ」の剣の一本を弾き飛ばす。

 ガランと音を立てて地面に転がり、火花を散らした。


 驚く「ハウメイ」。

 そこにリアは首筋に剣先を向けた。


「お前が妹であるかもということは分かった。それでも、俺はお前に勝たなきゃいけない。なぜなら最強の称号を持ったーーー闘王だからだ」


 脳裏に浮かぶのはオーガルの顔。

 あの笑顔で迎えてくれる彼女を裏切りたくない。

 そして、傍で信じてくれている少年の叱咤に、

 甘え切った顔は見せられない。


 覚悟を決めろ。魂を燃やせ。

 敵は敵だ、勝ち越せ!


「来いーーー潰してやるよ」


「あ〜あ、残念」

 ため息を吐き、少女が肩をすくめる。

 興が削がれたというような退屈そうな顔をする。


「なんだ? あれだけ恨みつらみを吐きながら俺に攻撃してこないのか」


「違うよ?」


「じゃあなんで「避けろ、リア!」……」


 重い衝撃。胸を見る。

 剣が突き刺さっていた。

 大きい、鉄塊の様な剣。

 胸だけじゃない、下腹部に至るまで破壊されているような感覚。


 両膝をつく。視界がぼやける。

 リアは荒い息を漏らしながら、地にふした。


 魔物の笑い声ーーーケルトの悲鳴


 リアの意識はそこで途絶えた。


 ケルトがリアに駆け寄る。

 抱き抱える。


「許さない……」


 ケルトの目に、並々ならぬ覚悟が生まれる。


「僕がお前らまとめて相手になってやる」


「ははーーーあなたも変なこと言うね、どうやって勝つの? 私たちは幹部だよ

 あなたはたった1人。そんな最悪の状況下でどうやって勝つと言うの?」


「僕がここになんの勝算もなくきたと思うのか?

 そんなだから君らは僕に負けるんだ」


「勝算? あなたに一つもそんなものがあるとでも? 私たちになすすべもなく死ぬ運命なのよ、光の三極星を持っていないくせに」


「その通りだねーーーでも、僕がそれをここで極星ギアの御心に選ばれたら?」


「そんな都合よく見初められるわけが……」


 ドクン


 と、リアの体が激しく鳴動した気がした。

 いや気のせいじゃない。

 鳴動しながらも光り輝き出している。


「なんだーーーなぜ、こんな……」


 魔物2人が自分の目を覆っている。

 凄まじい光。

 それがリアの体から発せられ。

 刹那、2つの歯車が現れる。

 それが噛み合い、ケルトの胸に刻印を刻み込んだ。

 熱さ、痛みが身を引き裂くようだ。

 それでも、闘志、覚悟がケルトに力を呼び寄越す。

 ケルトは叫んだ。


「aetor(天よ、盤上の駒を示せ)……!」


 叫ぶと同時、チェス盤のような翡翠色に光り輝く升目が地面に色濃く現れる。


 それが、リアにかかった瞬間に蒸気を発しながら傷を癒した。


「……な……に」


 唖然とする「ハウメイ」

 そこに、ケルトは言った。


「改めて言うよ、僕がお前らを倒す。ここでお前らの猛攻を食い止める!」

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