帝都混乱編 32話 堕天使は嗤う
路地裏ーーー
ローグタウンから数キロ離れた貧民街近くの路地だ。
そこで元旅商人2人と1匹、魔物は睨み合っていた。
炎がばちばちと音を立てて家屋を焼くのが聞こえる。
路地裏ならではの暗さもあいまってか目の前の魔物がより不気味に思えた。
ルークは生つばを飲み込む。
だが意識を切り替えた。ここまでくれば帝都の外れに近いこの場所なら堕天使の掃射からの二次被害は防げるはず。
そう、ルークが考えているとミカエルはつまらなそうな顔をして口を開いた。
「こんなところまで連れて来てどうしたと言うのですか?
どうせ殺されると言うのに」
ルーク達は笑う。
「何がおかしい」
睨むミカエルにサクヤが言い放った。
「追い詰められたのはお前らの方だよ、魔物。人間の底意地の悪さを軽く見るな!」
「ふ……そんなもの、たかが知れている!」
ミカエルが飛び上がる。
両翼を広げて闇の礫を放つ態勢にはいる。
死の恐怖
それでも狭い路地で放つのは愚策だ。
ルークが隣の家屋の窓を殴り割った。
破片が飛び散る。
拳が少し砕けたようで血が滴り落ちた。
それでも痛みを顔に出さず、ルークはサクヤに目配せした。
サクヤがコガネに跨る。
コガネが駆け出したと同時に、ルークの腕をサクヤが引っ張った。
中に浮かぶ。向かうは家屋の中。
「消えろオっ!」
堕天使の魔法による礫が高速で飛来する。
家屋の壁を破壊して地面を抉る。
サクヤが「ちいっ」と舌打ちした。
これでは直撃は免れない。
当たらないように全力で逃げ続けても最後には掠るかもしれない。
だが怪我すらも致命傷になり得るかもしれない闇の礫という魔法だ。
コロシアムで雨のように飛来してきた時、全員が怪我すらなく無事だったのは本当に奇跡的だっただろう。
「あんな地面も、家の壁もぶっ壊すために魔法を出し続けて私たちが逃げる方にまで攻撃し続けるって……エグすぎる!」
サクヤの叫びに反応したかったがルークもコガネも自分が精一杯だった。
地面も家屋の壁も破壊し続けながらでも、対象が逃げた方向に掃射が継続できる。
魔力がほぼ無尽蔵にあり、そして魔法の連射による反動にも耐えられる肉体……それが堕天使なのだろう。
ーーーふざけやがって。僕らが逃げ続けてへばるまで掃射を続ける気か
ーーー考えろ! なんで狭いところにわざわざ来た
ーーー考えろ!なぜ忌まわしい貧民街の近くまで来た!
思いついた。これならいける
「サクヤ」
呼びかける。
振り向いたサクヤにルークは言った。
「二手に別れよう。囮役と技を決める役、だ」
「それなら私が囮を買って出るよ」
「でも……危なーーー」
「銀狼哮波を決めんでしょ」
「そうだ……でも、君が危ない」
「構わない。私の喰らい付きの良さ、知ってんでしょうが。何年の付き合いよ」
サクヤが静かに見つめる。
ルークは頷いた。
しばらくして、攻撃が止む。
そこに、サクヤが窓ガラスを破りながら外に出た。
「1人ですか。あの男と犬はどうしたのですか」
「ああーーー逃げたのですか。豪語しておきながら!私に恐れをなして! 逃げたのでしょう!?」
サクヤは黙る。
「あなたも可哀想ですねえ! あなただけが? 1人残され、2人は逃げたわけじゃないですか!
仲間意識など所詮は眉唾! 私が捻り殺してあげますからそこで神に祈りながら懺悔なさい、
私の容姿を貶したことをね!!」
「さっきからごちゃごちゃうっっせええんだよ!
クソ鼻ったれやろう!」
「なんですって? もう一回言ってみなさい」
「ああ、何回でも言ってやるよ。ごちゃごちゃごちゃごちゃうっせえんだよ、私の仲間を侮辱してんな、気色悪い翼持ったエセナルシストやろうが。ここで私がボコボコにして、その鼻っ柱をへし折って宇宙にぶっ飛ばしてやるって言ってんだ!!!」
サクヤの激しい怒りが狭い路地に響く。
反響して、なんどもなんども聞こえてきた。
しばらくしてーーー
「いいでしょう、捻り殺して差し上げますよ。たかが人間風情がそうやって豪語してるのが本当に本当に許せない! 死んでしまいなさい!」
ミカエルが闇の礫を放とうと、もう一度飛びあがろうとしたその寸前
「silvers lightーーーcome on !」
銀色の光がミカエルの後方、10メートル弱のところで瞬いた。
「なんだーーーその光は、たかが人間風情がそんな輝かしい光を……」
「銀狼哮波!」
銀色の凄まじい光の奔流が、ミカエルの右翼を吹き飛ばしていた。
サクヤは身を低くして難を逃れる。
そしてーーー光が消え去って、ミカエルは地面に伏していた。
勝ったと3人が顔を見合わせた時、
ミカエルが胸ポケットからある端末を取り出しながら立った。
怒りに震えながら、それでも眼光は死が近いことを感じさせながら。
ミカエルの唇が動く。
「勝った気でいたか?」
「あ?」
サクヤの凄みを無視してミカエルは続ける。
ここまで場所を変えたのは、自分らが主だと思っていたのか?
バカだな。誘導されていたのだ貴様らの方だ。堕天使ミカエルは嘲笑しながら言った。
「少し変えて言い返そうか、人間。
『追い詰められたのはお前らの方だよ、人間。魔物の知力を軽く見るな』
私の容姿を貶した罪を後悔しながら、惨たらしく死に晒すがいい」
そう言って手に持った端末に魔力を注ぎ込んだ。
地面から光が、光の柱が現れる。
紅くーーーそれでいて爆発的な輝きを放っていた。
「貴様らの破滅は近い! このほかに、あと3つの光の柱が現れれば、帝国の全ての生命は死に至るであろう! 血の大海の形成は間近だ」
堕天使は嗤う。
世界の破滅を謳うように。




