帝都混乱編 31話 漆黒の両翼
一方ルーク達はイシュカーの水晶の防御魔法で守られていた。
「にくったらしい……あいつ、自分がすごいからってあんな遠くでしたり顔しやがって……」
サクヤが、ぐぬぬといらいらした顔をする。
イシュカーはちょっと遠めのところで瓦礫との隙間に入って、そこから防御魔法を発動していた。
それも二つも。自分自身とルーク達に使ったのだ。
それだけのポテンシャルと技術がある。
これがコロシアムの外ならカマルへの魔法攻撃もあれだけで終わるわけなかったのだろう。
末恐ろしいとルークは思った。
「サクヤ、一応守ってもらったんだ。後で感謝しなよ」
ルークは視線をサクヤに向けて嗜める。
「……ふん」
だが、サクヤはそっぽを向くだけだった。
あはは、と苦笑するルーク。
コガネがため息を吐きながら言った。
『子どもっぽいな〜』
「なんか言った!?」
『何も言ってません〜』
コンコンという音が響く。
するとイシュカーがこちらに来ていた。
音がなかった。
なぜなのかと考える余裕もなく、イシュカーは言う。
「私はここで失礼しますね。そこの野犬のように唸っているあほ女にもよくよく言い聞かせてあげてください。カルデア教主をお守りしなければなりませんので、すみません」
「野犬言うな」と抗議するサクヤに、イシュカーは微笑み返す。
「私は、サクヤさん。あなたを認めます。だからどうかーーーカマルさん達を助けて、そして生きてまたお会いしましょう」
「当たり前」
「聞けてよかった。じゃあ……またお互い健闘を祈ります」
そう言ってイシュカーは去っていった。
ルーク達は階下の闘技場に降りる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
同刻ーーー。
ガウス=クロウが怨みを極限にまで高めた殺意を放つ。
『殺す殺す……憎き光の……』
涼しい顔でカマルが言う。
「ガウス=クロウだっけ? 随分と変わったね。そんな体液ニュルニュルだったっけ?
それに恨み言しか喋ってないじゃん」
黒い瘴気を放つかぎ爪が閃く。
振り下げられたかぎ爪をカマルは風魔法より生じた防壁で寸分の狂いのないタイミングでガードした。
弾かれるかぎ爪。
屍龍が唸る。
「こんな弱かった? 前の時より知能ないみたいだし、余裕で倒せそうだよ」
ねえ、あなたでしょ?
そう言ってカマルは視線を佇むロストに向けた。
「自分の仲間から知性を奪って身体まですげ替えたみたいだし何が望みなわけ?」
「実験だよ」
「は?」
「実験さ。光の三極星を殺し尽くすためだけの思考をシステムとして固着させた。そして、見事なまでの殺戮生物兵器へと生まれ変わったわけだ」
まあ以前は知能があった分、プライドもあったようでかなり扱いづらかったし、
と困ったような顔をする。
だが、命を明日の献立を決めるように簡単に奪ってしまいそうな口ぶりだった。
「精神的に殺したようなものだ。逆に感謝して欲しいくらいだよ」
「それを聞けて安心したよ。気兼ねなく、最大出力であなた達をこの世から消し去れるわけだものね」
「豪語したな、光の三極星『流星』の使い手。
やってみせろーーーこの私が四つ目の痣を持っているということを知ってもなお戦意をなくさず勝つ手段を見出せると言うのなら!」
ロストが両腕を広げる。
横に控える魔物達が黒い魔力を薄い膜のようにして全身を覆い、前に出た。
「だからなんなわけ? 私だって痣を持ってるし、他の魔法を使える! あなたのような命をおもちゃのように使い潰すやつに負けるわけにはいかない!」
カマル達3人もそれぞれの武器を手に、構えた。
睨み合うーーー。
そして。
「そこの黒ずくめの翼持ったやつ、気色悪いからカマル達は他のを狙いな〜」
聞き覚えのある声が響いた。ひりつく空気が薄まった気がした。
サクヤの声だ。
「よかった! 生きてたんだね」
振り返るとルーク達旅商人がいた。
今は商人ギルドをクビになっているから元ではあるが。
『勝手に殺すな〜、ケルト』
「あはは、ごめんごめん」
張り詰めた空気がわずかに緩む。
だが、闘王リアだけは笑わなかった。
「気を抜くな。まだ終わっちゃいねえ」
「分かってる」
レイドが返す。
だが少なくともカマルは安堵していた。
よかった。希望を持ってこの地獄を乗り越えられる。
きっとこの魔物達も帝都を襲ったからと言って大したことがない。
そう思った時だった。
「なんと言ったのかな、お嬢さん」
どす黒い殺意を放つ、両翼を広げた魔物が黒衣を投げ捨てて現れる。
「お嬢さんなんて言い方するのやめてくれるかな? ほんと気持ち悪い。あ〜吐き気する」
「サクヤ、なんでそんな煽る言い方をするの!?
あいつすんごく怒ってるよ」
ルークが小声で抗議する。
サクヤは「あえてだよ、あえて」と笑う。
「怒らせてるの。分散して各個撃破の方が体力を温存できるでしょ」
ルークとコガネに耳打ちした。
『そう言うことなら煽りの天才に任せようかな!』
「どんな天才だ」
サクヤのツッコミを無視して、
「舐めた口を散々叩いてくれやがりましたね」
ミカエルは大きいため息を吐く。
そして傍に立つリーダーに恭しく頭を下げて言った。
「ロスト様お任せください。ロスト様に言い放った奴らも含めてひき肉にしますからどうぞご観覧ください」
ミカエルは宙に飛び上がる。
滞空すると同時に、漆黒の両翼を広げた。
3人から5人の人間は合わせて入りそうな広さがある。
見るからに吸い込まれそうなほどの闇の色。
そこから魔力を伴う礫が生成される。
闇の礫だ。それも一個から急激に数を増やして、瞬く間にコロシアム上の空を覆い尽くす。
「死に晒すがいい。人間ども」
その闇の礫がまるで雨のごとく降り注いだ。
砂煙が爆発するように視界を遮る。
地面が刹那の内にえぐれ、足元が穴だらけになる。
カマルは全員を守るべく防壁を張ろうとした。
「カマル!あんたはあの龍の息の根をしっかり止めてやりな!」
サクヤがそう言う。
「でも!」
熱いと思い、カマルはその方向を見る。
避けたと思ったが衣服をかすったらしい。
少し焼けこげたらしく燃えかすのにおいが鼻をついた。
高速で飛んでくるからその擦過熱で燃えたのだろう。
「こっからは各個撃破にした方がいい!
体力を温存して落ち合おう!」
サクヤのその言葉に「わかった!」
と叫ぶ。
「何が目的かは知らんが、屍龍の攻撃も残っているぞ。はな……」
「させると思う?」
カマルが自分の拳をロストに突きつけていた。
黒騎士が「貴様」と言いながら大剣を抜こうとするもロストが制した。
「どう移動したかは知らんが、風魔法にも長けているようだな。よかろう」
一呼吸置くと、ロストは叫ぶようにして名を呼んだ。
「ミカエル!」
ミカエルの攻撃が止む。
「なぜ止めるのですか、我が君」
「彼らが我らと別れて戦い合うことをご所望のようだ。好きなやつを選び、相手になってやりなさい」
「承知しました、我が君。ではーーーそこな女どもを消し炭にして差し上げましょう」
ニタリと醜悪な笑顔を浮かべて、堕天使は地に降り立った。
「来い、そこの3人組。私が君らを殺し尽くす」
視線を合わせたのはサクヤ達だった。




