帝都混乱編 30話 屍龍吼えし時
レイドは闘王リアに引き倒される。
砂があるがその下は石畳だ。後頭部を思いっきりぶつけてしまい、視界がぼやける。
「なにすーーー」
抗議しようとして衝撃波で口をつぐむしかなかった。
闘技場の壁が瞬く間に破壊される。
融解するようにドロドロに溶けて。
鉄が溶けたかのような赤い光を伴って滴る雫がぽたぽたと音を立てながら落ちていた。
見れば大穴を開けて、そこから覗く帝都の街並みも破壊されたのが分かる。
間一髪危機から逃れたのだ。
1発でこの威力。当たれば死ぬだけでは生ぬるい。
体が骨ごと融解して生きた証すら残らないだろう。
「ーーーまるで帝国の試作兵器、イグニション・バーンのようだな。そこから着想を得たのか?
なあ、ロスト!」
リアがレイドから離れる。
だが、その目はロストに真っ直ぐ向いていた。
屍龍のこちらへの殺意など眼中にないかのように。
「逆だよ」
ロストが肩をすくめる。
「イグニション・バーンを作るきっかけとなったのが、この邪神龍の地獄のような超火力の炎を圧縮して放つ、熱線だ。まあ……イグニション・バーンは細胞融解魔法などと言うものに近しい魔法を魔術式として組み込み、熱線として放射する魔術兵器を作ったらしいがね」
「なーーー」闘王リアが驚いた顔をする。
戦闘中にここまで動揺するのは彼らしくない。
だがレイドは声を掛けようにもできなかった。
圧倒的な殺意を肌で感じ、体が震えていたからだ。
悔しさで歯噛みするが、そんなレイドを置き去りに闘王リアは叫んだ。
「そんなの戯言だ! 文献にもないはず……」
レイドは思い至った。帝国の闇。確か、オーガルが言っていた。
文献の裏表紙に仕込まれた魔術式が刻まれた陣。
これを作動させれば、帝国の闇を映像で見ることができると。
ーーーこの事実は闘王リアに伝えなきゃいけない。だが、奴らは俺たちを殺すと言っている。
しのぎ切ってなんとか助かる道はないのか
思考する。
この窮地を乗り切る方法を。
光の三極星を持っていることは奴らが知っているし、それを持っているから屍龍となったガウス=クロウが狙っている。
それに、ガウス=クロウを億が一無傷で倒せたとしても、4体の魔物がーーーそれも魔王直属と自称しているのにそうやすやすと逃がしてくれるとは思えない。
ーーーいや、ばかか!
レイドは拳を血が滲むくらいまで握りしめる。
ここで逃げ腰になってどうすんだ!
カマルたちの安否がどうかがまだわかってないんだ、万が一も億が一もくそもあるか。
絶対に生きなきゃならない。
ーーー切り抜けろ!この危機的状況を。
覚悟を決めた時、震えが引いた。
それを見てかは知らないが、ロストは楽しげに笑って言う。
「知らされてないだけさ。帝国が最初に邪神龍と出会ったのはいつだと思うね? そこである兵士と引き換えに、知識を得たそうだよ。魔物を殲滅する兵器にしてはその性能が、より多くの人を殺すための兵器に等しいとも思わないか?
まるで他の国を全て破壊したいがための兵器のようじゃないか。ああ、大丈夫。そんな顔をしないでおくれ。血の大海を形成すると最初に言ったけれども、使い勝手のいいものは残すさ
ーーー帝国軍は滅ぼさない」
闘王リアが舌打ちする。
来るーーー、本能的にわかったのだろう。
レイドに「逃げろ」と言おうとしたその時、
「さあ、第二射だーーーここまで聞いておいて、君たちを生かしておくわけないだろ?
まあーーーもともと生かしておく気はないけどもね! 塵すら残らず消え失せるがいい、やれ、ガウス=クロウ!」
ロストの右手が上がる。
そして、ひと息に振り下げられた。
同時、破滅の光を纏いし業火が収束してガウス=クロウの口から放たれる。
レイドが紅炎を、闘王リアが魔力を纏った剣で対抗しようしたその刹那、
「2人とも身を低くして!」
ーーーカマルの声が響いた。
「eclat !」
風魔法による渦を足に纏い、光の防壁を発動させるカマル(ケルトも左腕を引っ張られてきていた)が目の前に現れたのだ。
瞬間移動じみた超速移動。
後ろを振り返れば、瓦礫の山を吹き飛ばしてこちらにすっ飛んできたのが分かる。
レイドは意地悪げに、それでも最高の笑顔でカマルに言った。
「ーーーカマル、お前。最高にヒーローしてるぜ」
「当たり前! 私は、魔術師を目指してるんだから」
カマルは朗らかに笑って返す。
ケルトはふらふらとしながらも立っていたが、吐きそうな顔をしていた。
「ぼ、僕もいるよ……うう、魔法使った移動しんどい、死ぬかと思った」
レイド、カマルは互いに見合わせる。
そして、
「さて、魔物ども。……かかってこい!返り討ちにしてやるよ!」
旅立ちの3人は、地獄に立ち向かうようにそう宣言した。




